第29話 望
スーちゃんとあゆむちゃんが園芸部に入部してくれたお陰で、花壇も園芸部も華やかになった。力仕事は秦野も手伝ってくれたので、腐葉土や肥料を蒔くことも苦にならない。レイアウトはスーちゃんとあゆむちゃんが楽しみながら考えてくれる。園芸部に入ってよかったなと心から思えるようになっていた。
あゆむちゃんのこともあったので、久しぶりに高木に連絡を取ってみた。高木と近況を報告しあう。あゆむちゃんの話をすると驚いていた。
「時間が解決してくれるってゆうても、やっぱり忘れられへん事もあるからな……ちょっとでも笑顔になれること見つけてくれたらうれしいわ」
高木はそう言ってあゆむちゃんが園芸部に入ったことを喜んでくれた。
「梅は?元気にしてるん?」
自然に梅の話題が口から出た。知りたいというよりも懐かしくて聞いてみただけだったが、途端に高木の声が曇った。
「……うん、多分」
それだけ言うと高木は話を逸らすように別の事をしゃべり出した。
どうしたんだろう。二人に何かあったのか?
わざと明るい声を出しているような高木に、それ以上梅の事を聞くを止めた。二人の問題だ。
それよりもまた高木とこうして話していることがうれしかった。
「うちにもひまわり植えたから今度見に来てや」
高木の言葉に「おう」と答えた。
あゆむちゃんは花壇の手入れや花を育てながら絵も描いた。
発芽したての新芽がふた葉を広げている。双子のような可愛い葉はお日様の光をいっぱいに受けているように光っている。その後ろには少し大きくなった若い本葉が一本、生まれたての新芽を見守るように生えている。青空の中、これからすくすく育って行くであろう苗たち。希望があふれているような、爽やかで美しく清らかな絵だった。
タイトルは『望』
スーちゃんはその絵を見ながら泣いた。
「なんで涙でるんやろー?」
自分で不思議そうに言いながら。そんなスーちゃんを見てあゆむちゃんの目も潤んでいた。
「文化祭に展示しても良い?」
秦野は美術部の出展に貸して欲しいとあゆむちゃんに頼んでいる。
「まともな絵も飾っとかんと、マジで来年美術部つぶれてまうからな」
今さらながらの美術部部長ぶった発言にみんなで笑った。
潤んだ瞳のままあゆむちゃんも笑っている。良かった。となりで泣き笑いするスーちゃんを見て思う。女の子の笑顔は男を元気にしてくれる。寂しい気持ちで入学した中学だったが、ここに来れて良かった。
小学校の卒業式のように真っ青な空を見上げながら、改めてそう思った。
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