第26話 新入部員

 

 2年生になった。スーちゃんと同じクラスだ。

 なれれば良いなと思っていたが、想像していたよりずっとうれしかった。秦野とは別のクラスになってしまったが、また花壇に来てくれれば毎日会える。幸先の良いスタートだと喜んだのだが問題があった。 

 園芸部が存続の危機なのだ。部員は俺一人。部として認められるには最低三人の部員が必要だった。

 秦野に頼んでみた。

「俺、一応部長やぞー 美術部の」

 なんと秦野は美術部の部長だった。一人だけいた3年生の美術部の先輩が卒業した後、美術部は秦野達2年生が三人。秦野が抜けると美術部が無くなってしまう。

「活動してへんけど一応メンバーやしな。他の二人も美術室でダラダラ出来んくなったら嫌やって言うし」

 腐っても部長だ。確かに辞めろとは言えない。

 別に園芸部が無くなったとしても花の世話は出来た。放課後花壇に行って、今までと同じ事をすれば良いだけだ。問題は備品だった。肥料や薬剤を自腹で用意するのは結構厳しい。それに肥料はかなり重たいのだ。それを担いで学校に来るのは……うーん、台車で運ぶか?

 

 新入部員にも期待出来なかった。せめて俺が女子ならマシだったかも知れないが、男一人の園芸部に女の子が入ってくれるとは思えないし、勧誘もしづらい。ならば男子はと言うと……園芸に興味のある中一男子なんてそういるもんじゃない、俺も正直園芸部なんて恥ずかしいと思っていた。どうしたものか。

 

 そんな時、そう俺がピンチの時必ずやって来るスーパーヒーロー「ゼルダ」ことスーちゃんがまたしても助けに来てくれた。

「園芸部に入部しますっ!」

 そう俺に言って来た時、スーちゃんはソフトボール部をすでに退部していた。

「ホンマに良いの?!まだ退部取り消して貰えるんちゃう?」

 慌ててそう言うと

「ううん。もういいねん。別にソフトが嫌とかじゃないけど、私ちゃんと自分で花育ててみたい。今度は手伝うだけじゃなくて自分で」

 スーちゃんはそう言って真面目な顔で俺を見た。前に「自分の事が嫌いになった」と話してたことあったなぁと思い出した。きららもプーさんも誰かに助けて貰うばっかりで、ちゃんと自分で面倒見てないって気にしてた。スーちゃんが本気でそう思っているのなら一緒に花を育てたいなとも思った。

 でもまだ二人だ。あと一人部員を探さなければソフトボールを辞めてまで園芸部に入ってくれたスーちゃんの気持ちが無駄になってしまう。新入部員勧誘のポスターでも作るかと慌てていたある日、秦野が女の子を連れて花壇にやって来た。


「この子、一年生の水川あゆむさん。園芸部にどう?」

 秦野の言葉に一番驚いていたのは、当の水川さんという女の子だった。

「あの、私、美術部に……」

 水川あゆむさんは美術部に入部希望で見学に来た新入生だった。

「どう?ってお前……そんな斡旋業者みたいに……」

 しかも水川さんに無断で紹介するとは。

 秦野は全く悪びれた様子も無く説明した。

「だって、美術部っていうても絵描いてる奴なんか誰も居らんねんで。部長の俺からしてほとんど部室にすら行かへんし。他の二人も美術室でたむろしてるだけで何にもしてない男ばっかりやし。そんなとこに女の子が入部してもまともに絵なんか描かれへんで。描いてても男二人に邪魔されるし、何より危険や。可愛い女の子を飢えた野郎どもと密室で一緒にしてはいかんっ!!」 

 いや、そこは部長のお前が何とかせえよ!と言いたいところだが、この子さえ良いと言ってくれるなら、是非園芸部に入って欲しい。名前だけでも良い。理不尽だとは思いながら頼んでみた。

「あのー 水川さん?園芸とかまったく興味ないかな?花とか嫌い?嫌いじゃ無かったら考えてみてくれへんかな、園芸部。無理やったら無理って言うてくれて全然良いから」

 押しは弱かったが一応勧誘のつもりだ。

 

 水川さんは少し困ったように眉をひそめた。その顔を見て何となくどこかで見たような気がした。

 どこで見たっけ?水川?記憶にない。水川あゆむ……あゆむ?あゆむちゃん……あっ!!!

「高木の……寺で会ったことあるよな?豆まきの時!豆大福!」

 思い出した、小学6年生の時!

 

 高木龍太の家はお寺だ。当時梅と俺はよく高木の家である『龍間寺』に遊びに行っていた。龍間寺では季節の行事が行われていて、卒業間近だった2月、節分の豆まきがあった。行事が終わってから、高木と梅と俺は母屋の縁側で、おやつに出して貰った豆大福を食べていた。そこに檀家の娘さんであるこの子、水川さんが高木の弟に連れられてやって来た。縁側で俺達と一緒に豆大福を食べに。

 

 どうしてこんなに覚えているかと言うと、その時この子が泣き出したからだ。急に泣き出して俺と梅は驚いた。高木の弟が心配して自分も泣きそうになりながら慰めていた。あゆむちゃんが泣き出した理由と、その後の梅と高木の様子。

 そのせいで俺は、あの日のことを今でも覚えていた。

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