第25話 友達

 梅と高木と俺の三人でひまわりを育てていた頃。

 梅はよく俺に「顔に土付いてへんかな?」と聞いてきた。その度に梅の顔を見ながら「大丈夫やで」とか「右のほっぺたちょっと汚れてる」などと答えていた。上手く汚れが取れないときは自分のシャツで拭ってやったりもした。梅は「ありがとう」と笑顔で言う。その度にドキドキして、もしかして梅は俺のことが少しは好きなんじゃないだろうかと期待した。

 でも勘違いだとすぐに気がついた。

 梅が汚れた顔を見せたくないのは高木龍太にだけ。俺にはどんな顔を見せても何とも思わないが、高木に見られるのは嫌だったんだろう。高木が梅の頬の土をハンカチで拭おうとしたら振り払われた、と笑って話していた。梅は高木の前では良く真っ赤になった。意識していたのだ、男の子として。俺はただの友達。高木は男の子。

 高木がうらやましくて、時々憎らしかった。知らず知らず睨んでいた事はきっとあったはずだ。高木もそんな俺に気がついていただろう。 

 スーちゃんにとっての俺は、梅にとっての高木とは違う。でも男と意識して貰えない秦野はあの頃の俺と同じだ。苦しいし切ない。

 高木もこんな気持ちで俺を見ていたのだろうか……それでもいつもくったくなく笑いかけてくれた。今は梅よりも高木に会いたい。そして俺もくったくのない顔で高木に笑いかけたかった。

 秦野の気持ちを思うと切なくなった。すごく良くわかる。でも…… もし秦野の想いがスーちゃんに届いて、二人が相思相愛とかになったら……俺は何のためらいも無く笑顔になれるだろうか。

 梅と高木、スーちゃんと秦野。大好きな友達の幸せをいつも心から願えない、そんな自分がたまらなく嫌だと思った。情けない。

 やっぱり悪魔のガラスはまだ胸に刺さったままなんじゃないのか? チクチクする胸を感じて、気持ちが沈みそうな俺を助けてくれたのはまたスーちゃんだった。

 花に水をやろうと、はす口付きじょうろに水を入れようと蛇口をひねったスーちゃんが、激しく跳ね返った水でびしょびしょになったのを見て慌てて飛んで行った。拭くものを探しててんやわんやになり、びちゃびちゃなのにテヘッと笑うスーちゃんを見て俺も笑った。

 やっぱりスーちゃんはゲルダだ。そしてやっぱり俺は情けないカイだった。

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