第23話 花壇作り

 そんなこんなで俺は園芸部に入った。

 学校の花壇は赤茶色のレンガが五段ほど積み上がった、縦1メートル、横2メートル程の長方形だ。2人の先輩の話では、夏に咲かせるための準備として、プランターで育てている花があると言う。

 今咲いているのは、去年の秋からプランターや鉢で育てていたものを花壇に植え替えたものだった。

 手前からパンジー、キンセンカ、チューリップ、ジャーマンアイリス。奥に行くほど背が高くなってる。そうか……見栄えも考えないといけないのか……

 レイアウトも変えてくれて良いから、と部長の小木先輩は言ったが、何をどうすれば良いのかさっぱりわからない。コレは大変だ。今から勉強して間に合うだろうか。

 夏に咲かせる花は、マツバボタン、マリーゴールド、百日草、グラジオラス。花を見ても名前がさっぱりわからなかった。

「グラジオラスの後ろにひまわりがくるように植えたらどうかな?ひまわりの後ろに他の花を植えると、多分日陰になってしまうと思う。もしくは日陰でも問題なく咲く花を植えるのも良いと思うけど……」

 もう一人の先輩、遠藤遥さんがそう言ってくれたが、せっかく準備した夏の花たちを花壇に植えないのは可哀想だと思った。とにかくこの夏に向けては先輩達がいるので問題ないが、秋になれば春に向けての花達を育てる事になる、それは俺が一人でやらなければいけないってことか……大変なことになったなぁ。またじいちゃんの助けを借りなければ無理そうだ。

 でもちょっとワクワクもした。


 秦野は美術部をサボって、と言うかほとんど美術部には行かず、俺が花壇にいる間横で何やかんやと喋りながら、最初のうちは冷やかしに来ているだけだったが、そのうちに花の世話を手伝ってくれる様になった。

 先輩達は1学期の間は部活にも参加するが、2学期からはほぼ引退する。その間にちょっとでも知識を伝えておこうと色んなことを教えてくれた。

 顧問の森山先生は、園芸のことは何にもわからないから当てにしないでねと、ごめんという様に顔の前で両手を合わせた。要するに名前だけの顧問だった。

 スーちゃんも時々花壇へやって来た。ソフトボール部の練習があるのであまり長くは居られなかったが、しょっちゅう花の様子を見に来てくれる。

 秦野と俺とスーちゃん。小学校の頃、高木と梅と3人でひまわりを世話していた時の事を思い出して何だか懐かしくなった。

 じいちゃんの知り合いに、生花を育てている人がいて、その人に色々花のことを聞きに行ったり、本を読んだりしながら少しずつ園芸の基礎知識を増やしていった。花によって世話の仕方が全然違う。手入れの簡単なものから難しいもの、咲く季節、与える肥料、罹りやすい病気、付きやすい虫の種類、勉強する事が山程あった。でも面白かった。どんどん園芸にハマっていく。

 動物を飼ってみたいと思ったことはあっても、植物を育てたいと思ったことはあんまり無かった。梅がひまわりの種をくれたあの時までは。

 

 土の養分をかなり奪ってしまうので大量に咲かせる訳にはいかなかったが、ひまわりも先輩や秦野に手伝って貰って5本程だが花を咲かせた。もっと数を増やすなら、それこそ花壇のレイアウトや一緒に植える花を考えなければならない。

 ひまわりは種がたくさん取れる。秋頃には5本のひまわりでもかなりの量の種が取れるだろう。でも今はひまわりだけではなく、他の花達にも愛着が湧いている。そしていずれやってみたい事も出来た。

 自分だけの品種を作る。バラの交配だ。きららとプーさんを交配させ新しい品種を作ってみたい。

 もし交配に成功したら、きっとスーちゃんは喜ぶだろう。スーちゃんの全開の笑顔を思い浮かべると、俺も自然と笑顔になれた。

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