第22話 園芸部
「どうしたん?こっちの校舎に何か用事?」
スーちゃんはそう言って俺の方に近づいて来た。
「3年生の教室に行こうと思ってんけど、何か緊張して…‥行きづらいなぁって……」
情けないけど。何故かスーちゃんには情けないトコを見られても平気だ。俺の情けない話をいっぱい聞かせてしまっているからかも知れない。
「3年生の教室に何か用事あんの?」
不思議そうなスーちゃんに園芸部の先輩にひまわりを花壇に植えても良いか聞きたいのだと話した。
「ああ!またひまわり育てるんや!それは、う……」突然スーちゃんが黙った。
「何?う?」
スーちゃんは急にアワアワと慌てて
「あー それは……う、うわぁー 素敵!」
と大きな声で叫んだ。何か不自然だった。
「一緒に行こう。二人やったらあんまり緊張せんかも知れんで」
スーちゃんは何か誤魔化すみたいに、いつもより早口でそう言うと階段を上り出した。慌てて後を追いかける。
「なんて言う先輩なん?」
「小木由子さん。園芸部の部長やねんて」
「女の先輩かぁ。それやったら私が呼び出すわ」
スーちゃんはそう言うと、小木先輩のクラスまでズンズン歩いて行き、教室の前の廊下に居た3年生の男の人に
「すいません。このクラスの小木由子先輩を呼んで貰えませんか?私1年の岩下って言います」
と声を掛けた。全然緊張していなかった。やっぱりスーちゃんはゲルダみたいや。またピンチを助けてくれた。そして俺はまた情けないへなちょこのカイのまんま。
「小木さーん。1年生が何か用事あるって来てるでー」
男の人は廊下の窓から教室の中に向かって声を掛けてくれた。教室から眼鏡を掛けた女の人が出て来た。
「小木ですけど。何ですか?」
ちょっと不安そうにスーちゃんに聞いている。
「あ、私じゃなくてこの人が」
とスーちゃんが俺の腕を引っ張った。
「園芸部の先生に聞いて先輩にお願いがあって来たんです」
スーちゃんがそこまで説明してくれたので話がし易かった。
「1年の野口って言います。花壇の一部を借りてひまわりを植えたいんですけど良いですか?」
小木先輩は眼鏡のフレームを一回上げてから、俺の方をじーっと見た。
「園芸部には入らずにって事?」
小木先輩が俺の顔を見たまま聞いてくる。
「あー えっと……そうです」
男が園芸部とか何か変やし、ひまわりさえ育てられればそれで良いと思っていた。
「今ね、もう部員が私入れて2人しか居てないの、園芸部。今年新入部員が入らなかったら廃部になってしまう……だから部活としてひまわりを育ててくれるんやったら良いよ。何処でも好きなトコに植えてくれて。ついでに花壇のレイアウトを変えてくれても全然良いから。だから出来たら園芸部に入って貰われへんかな?!」
小木先輩が必死な顔でそう言う。えーっ でもまぁ場所だけ貸してって勝手過ぎるよなぁ……花壇に今生えてる花も誰かが世話したらなアカンし。
「3年生になったら受験とかで部活動もあんまり出来なくなるから……お願い。入部して下さいっ!」
とうとう小木先輩が頭を下げた。慌てて
「わかりました。わかったから頭上げて下さい」
と小木先輩に言うと、
「ホンマに!ホンマに良いの?やったー!ありがとう!」
と小木先輩は全開の笑顔で、俺の手を両手で包んでブンブンと上下に振った。
わぁーっ、と困ってスーちゃんに助けを求める様に視線を送ると、スーちゃんも全開の笑顔だった。
園芸部かぁ……こんな事になるとは思わなかったが、女の子を2人も笑顔に出来たんなら、まぁ安いもんか、と俺も何となくうれしくなった。
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