第20話 日回り 【side 開土】

 ひまわりの動きが止まった。もう開花するのだ。

 ひまわりは太陽の動きに沿って動く。茎の部分によって生長速度が異なるからだ。ひまわりの茎は太陽光が当たる部分より、当たらない部分の方が生長が早くなる。そのため日陰側の茎が日向側の茎に被さるように伸びる。そのせいで茎の先端が曲がって自然に太陽の方を向くようになっている。

 でもこの現象は花がつぼみの間だけ。茎の生長が止まればひまわりも止まる。大抵東を向いた状態で止まるためひまわりは太陽に向かって咲くと言われているが、何故ひまわりが最後には動きを止め、東に、太陽に向かって咲くのか本当のメカニズムはわかっていないらしい。

 ひまわりを育てるために色々調べているときに、ひまわりに関する神話があることを知った。ギリシャ神話に出てくる神様オケアノスの娘、水の精クリュティエの話。

 クリュティエは太陽神アポロンに恋をした。でもアポロンは女神カイアラピに夢中。クリュティエの片思いだ。

 アポロンへの叶わぬ恋を悲しんだクリュティエは、アポロンが黄金の馬車で太陽と同じ軌道、東から西へ空の道を駆けていくのを毎日見上げ続けた。アポロンが好き、でもその気持ちは届かない。涙を流しながらクリュティエは9日間同じ場所で天空のアポロンを見上げて立ち続け、そのままひまわりへと姿を変えてしまった。だからひまわりは太陽の動きを追うのだそうだ。

 ひまわりの花言葉は「あなただけ見つめてる」

 ただのおとぎ話だと笑うには自分の状況と被りすぎてるなあと思った。まるで俺のことみたいだと。

 梅は高木が好きだ。梅をずっと見ていたからすぐにわかった。高木龍太を見る梅の顔で。

 そんな梅を毎日見ながらひまわりを育てていたあの頃。懐かしいけどちょっと切ないし情けない。

 高木は良い奴だった。仲良くなってすぐに思った、お似合いやなって。さんざん梅に嫌がらせをしてきた自分が、梅に許して貰って一緒に居られるようになった。笑いかけて貰えるようになった。それだけで満足しようと思った。もうそれだけで充分だと。

 そう割り切ろうとしてもやっぱり苦しい時もあった。やきもちを焼いてそんな自分に嫌気が差したり。それでも楽しかった。転校せずに過ごせた小学校最後の2年間は最高に幸せで大切な時間だった。

 3人で育てたひまわりの種がこうして今年も咲こうとしている。

 夏休み前に咲いてくれたので、もうあとはこのまま花が終わるのを待つだけだ。秋になったらまた種を取ろう。そしてまた花を咲かせよう。あと何回花が咲けば梅と高木を心の底から応援出来るようになるだろう。それまでひまわりを咲かせ続ける、小学校の卒業式の日そう決めた。そしてまたいつの日かひまわりのように、心からの笑顔で梅と高木に会いたい。


「野口~」

 同じクラスの秦野が花壇にやって来た。

「おう」

 手を上げてこっちこっちと合図する。秦野は美術部の幽霊部員だ。いつもブラブラとやって来てはひまわりの世話を手伝ってくれていた。

 夏が来たなぁ。見上げた空は真っ青で大きな雲が遠くの山みたいにそびえ立っていた。 

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