第18話 やきもちと嘘 その1

「ごめんな。急に泣き出して。自分のことが嫌になって……」

 やっとしゃべれるようになったので謝った。

「何で嫌になったん?」

 野口君が心配そうにこっちを伺う。

「野口君がくれたプーさんも、あときららちゃんも、誰かに任せてばっかりで全然ちゃんとお世話出来てないし、何かあっても神様に頼ったり人に頼ったり、自分で何にも出来ひんから情けないし悲しくなって…」

 

 しかも野口君と梅ちゃんを引き離そうとしてるし。サイテーや。


「俺も自分のこと嫌やったで。転校決まってからイライラしてってこの前話したけど、ホンマに嫌なことばっかりしててん。例えば誰かが運動会の話してたら、その時はもう俺はここに居てないのにって腹立って、八つ当たりしていじめたり。

 そしたらある女の子が俺に怒ってくれてん。何かうれしくて。そこで嫌なこと言うたりやったりすんの止めたら良かったのに、俺、その怒ってくれた女の子にもっと怒って欲しくて、今度はその子に嫌なこといっぱいした。毎日絡んで怒らせて。誰かに怒って欲しかったんか、その子ともっとしゃべりたかったんか、自分でもようわからん。とにかく絡んで怒らせた。それで本気でその子に嫌われた。地震の前の日もひどいこと言うて今まで以上に怒らせて、その子に『死ね』って言われた……」

 

 やっぱり。やっぱり梅ちゃんや。梅ちゃんのことや。


「何でその子は怒ったん?何て言うたん?」

 野口君はどこかが痛いみたいな顔をした。

「クラスで飼ってたハムスターが居ってんけど、そいつがケージから逃げてん。放課後みんなで探したけど見つかれへんかった。みんな諦めて家に帰ったのに、その女の子と、もう一人、その子の友達の男の子だけが最後まで探してハムスターを見つけた。でももう死んどってん。二人でお墓も作って埋めてんて」

 

 ハムスター死んでたんか。梅ちゃん、ショックやったやろな…


「俺、その女の子に『ハムスター殺したんお前やろ、お前が殺して食ったんやろ』って言うた」

 野口君の声がちょっと震えた。

「その後で謝ったけど許して貰われへんかった。当たり前やけど。その日に地震があって、頭怪我して入院しててんけど、もうすぐ退院する頃に病院にその子が来た。それで『ありがとう』って。元気になってくれてありがとうって言うてくれた。まだ許してくれてなかったけど、ハムスターのお墓の近くにひまわりの種蒔いてやれって種くれた」

 

 梅ちゃん。やっぱりカッコいいなぁ。


「俺、やきもち焼いててん。その女の子と仲良い男の子に。ハムスター探すときも、病院に来たときも一緒やった。いつも一緒に居て仲良かった。だからやきもち焼いてイライラして…」

 

 やきもち。そうか!私もやきもち焼いてたんや!梅ちゃんに……


「その後退院してひまわり育てるようになって、その女の子と男の子と仲良くなった。いっつも三人で遊んだ。それでわかってん。その二人はお互い好き同士やなって。二人とも相手のこと特別に思ってるってわかった。だから、大丈夫やなって」

「何が大丈夫なん?」

「その女の子と中学で離ればなれになっても、その男の子、高木って言うねんけど。高木がそばに居てるんやったら大丈夫やなって。その女の子は高木が居ったらいつも笑って元気で居てられるやろうなって。何か失敗しても、辛いことあっても高木がちゃんと見ててくれるやろうから」

 そう言うと野口君はこっちを見て笑った。ちょっと寂しそうな、でもスッキリしたみたいな。ハッタンに告白した後のエッちゃんみたいな笑顔。

「会いたくならへん?その女の子に」

 

 私が邪魔せんかったら会える、すぐにでも。


「会いたいけど会いたくない」

 野口君が笑いながら言った。

「どっち?」

 

 会いたいのか、会いたくないのか、どっち?


「会ったら辛い。その女の子のことは好きやけど高木も好きや。お似合いやし邪魔したくない。でもやっぱりちょっとやきもち焼いてしまうと思う、まだ今は」

 野口君はそう言って私を見た。

「花はこれから一生懸命世話したったら良いやん。俺も今まできららの世話なんかちゃんとしてなかったし。そんなことで自分のこと嫌いになったら可哀想や。これからナンボでもがんばれるやんか」

 

 そうかな。そうかも。これ以上悪い子にならんようにこれからがんばれば良いんや。神様にお願いするより、まず自分で出来ることやらな。梅ちゃんに電話しようかな、野口君のこと。

 あ、でも今は会いたいけど会いたくないって、野口君言うてた。もうちょっと後の方が良いのかな……でも梅ちゃんは会いたいかも知れん。どうしよう……もうちょっと待って、野口君が大丈夫になったら梅ちゃんに言おうかな。それでも良いんかな。

 

 やきもち焼いて先延ばしにしてるんちゃうかな。そうかも知れん。それでもやっぱりもうちょっと待とう。悪い子になっても良い。野口君が梅ちゃんに会っても辛くないようになったら言おう。それがいつかわからんけど。

 

 野口君を見た。梅ちゃんのこと好きなんやな。そうやな、私も梅ちゃん好きやもん。でもその高木君のことも好きなんやな、野口君は。

 野口君も胸がチクチクしたんかな、と思った。

 

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