第17話 バラのお世話

 教会に行くことにした。悪い子のお願いは聞いてくれないかも知れんけど、もうどうしたら良いのかわからなかったから。

 野口さん家の前を歩いていると

「スーちゃん!」

と声がした。周りを見たけど誰も居ない。

「こっち!上、上!」

 見上げると二階の窓から野口君が手を振っていた。

 どうしよう……野口君の顔が見れない。梅ちゃんと会えるのを邪魔した……どうしよう……

「そっち行くからちょっと待ってて」

 野口君はそう言って窓から見えなくなった。

 野口君来てしまう、どうしよう…梅ちゃんのこと言うてあげんと。

 でもホンマに梅ちゃんと友達なんかな?ちゃんと確認してないからもしかしたら勘違いかも知れん。そうやったらいいな。そうであってくれへんかなぁ……


「入って」

 二階から降りてきた野口君は門を開けて私を呼んだ。きららちゃんに会いに来たと思ってるみたい。

 野口君の顔を見るのが怖いのに、そのまま花壇の方に入って行った。せっかく声掛けてくれたし、野口君としゃべりたいし。でも顔は見られへん……何でやろ。昨日からわからんことばっかりや、自分のことやのに思ってんのと全然違うことばっかりする。ホンマに悪魔のカケラ刺さったんちゃうかな……


「この季節は虫がついたり病気になったりしやすいねんて。毎日様子見て薬かけたりせんと、一気に病気が広がって手遅れになったりするってじいちゃんの知り合いの人に教えて貰った」

 野口君は手にスプレー式のお薬を持っていた。プーさんにも、お母さんがおんなじようなお薬をかけている。

「毎日見てくれてんねや」

 野口君、きららちゃんのことちゃんと見てくれてる。約束守って。それやのに……

「出来ることはちゃんとしたらなアカンってひまわりで失敗してわかったから。今は芽かきとかもちゃんとしてるで」

「芽かきって何?」

「1カ所から2本伸びた芽は1本かき取るねん。養分が分散したら栄養が行き渡らへんし、芽を減らしたら風通しとか日当たりも良くなるから」

「へえー」

 野口君の方が私より全然バラに詳しいな。お世話してるつもりやったけど結局お母さんと野口のおばさんに全部やって貰って、自分で何にも勉強せえへんかった。恥ずかしい。

「約束したのにコイツの……きららの世話ちゃんと出来て無くてごめんな。これからはしっかり見とくから」

 野口君が言った。胸が苦しくなって涙が出て来た。何で野口君が謝るん。謝らなアカンのは私やのに……

 野口君が泣いてる私を見てギョッとしたみたいに

「えっ!?」

と声を出した。どうしたら良いかわからんみたいに私の顔を覗き込んで

「何で?ごめん。何か嫌なこと言うた?ごめんな、どうしよう…」

とオロオロしてる。

 違うねん、野口君のせいじゃない。そう言いたいけど声が出ない。ずっと首だけ振って顔を隠した。野口君は困ってたけど、そおっと背中に手を当ててさすってくれた。そしたら余計に涙が止まらんようになってそのまましばらく泣き止めなかった。野口君はその間、ずっとそばに居てくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る