第16話 ゲルダとカイ

 四月からは中学生になる、という春休み。久しぶりに梅ちゃんがうちへ遊びに来た。

 梅ちゃんと一緒に教会へ行って以来、たまに電話で話すくらいで全然会ってなかった。

 梅ちゃんのひまわりのことも聞いていない。

 プーさんの鉢植えを見せて、あの後シンプさんに貰った話をした。本当はシンプさんに貰ったのはきららちゃんだったけど、詳しく話すと長くなってややこしいからバラを貰ったとだけ話した。バラのことよりひまわりの話を聞きたかった。

「梅ちゃんが育ててたひまわりはどうなったん?」

 野口君が育ててたひまわりみたいにキレイに咲いたのかな。

「5年生の時初めて種蒔いたのは、台風で倒れて咲かへんかってん。でもその後もう一回6年生になってから撒き直したひまわりはキレイに咲いたで」

 梅ちゃんがスゴくうれしそうに笑った。

 野口君とおんなじやな……

 あれ?梅ちゃんがケンカしてた男の子も入院してた。もしかしたら梅ちゃんと野口君っておんなじ小学校なんかな?それでもしかして野口君の言ってた友達って梅ちゃん?

「ひまわり、一緒に育ててたお友達もおったんやろ?」

 梅ちゃんに聞いてみた。

「うん。あの時教会にお願いに行った子おったやん?その子と、もう一人友達の男の子と、三人で一緒にひまわり育ててん。ちゃんと仲直り出来たで。言うの忘れてた、ごめん」

 梅ちゃんが謝った。

「入院してる時お見舞い、って言うか元気になってくれてありがとうって言いに行った時、その子にひまわりの種あげてん。退院して学校に来たらその種蒔いてって。その子ちゃんと花壇にそれ蒔きに来てくれた。その時ちょうど、新芽が生えてきたとこやったから、ナメクジがついたりスズメとかカラスが芽を狙ってきてて、もう一人の男の子とどうしようって困ってたとこやってん。そしたらそのケンカしてた子が、畑やってるおじいちゃんがおるから対策の仕方教えて貰おうって言うてくれて。その後も手伝ってくれる様になってん。それで仲直りも出来たし、仲良くなった」

 梅ちゃんの話でやっぱり野口君のことやってわかった。

「中学が違うからもうあんまり会われへんかも知れんけどなぁ…」

 梅ちゃんが寂しそうに言ったので、すぐそこに野口君住んでるで、って言おうと思ったのに声が出なかった。野口君も梅ちゃんも会えたら二人とも喜ぶしうれしいはずやってわかってんのに、何でか言えなかった。

「もう一人の男の子はおんなじ中学やねん。でももう一緒に学校でひまわり育てるんは出来ひんと思う。多分…」

 梅ちゃんはそう言ってやっぱり寂しそうな顔をした。結局その後も言おう言おうと思うのに、言わないまんま梅ちゃんとバイバイした。


 なんで言わへんかったんやろう。なんでそんな意地悪すんの?梅ちゃんに。野口君にも。梅ちゃん寂しそうやったのに……野口君も卒業すんの悲しそうやった。それやのに、私のせいで二人が会えなかった。

 悲しくなって自分の部屋で泣いた。

 悪魔のガラス、刺さったんかな。胸がチクチクする。自分のことやのにわからへん。

 悪魔のガラスのせいやったらどうしよう。

 教会に行って讃美歌聴いたら取れるかな……シンプさんに相談する?悪い子やって怒られるかな。

 梅ちゃんの笑顔が浮かんだ。野口君の笑顔も。ごめんなさい。私は悪い子や……


 野口君はカイで梅ちゃんはゲルダ。

 ゲルダのお陰でカイは良い子に戻った。雪の女王からも連れ戻して貰えた。ゲルダのお陰で。

 そう、梅ちゃんはゲルダや。強くてカッコいい、私がなってみたいゲルダ。

 私が山賊の娘やったら二人が会えるように協力せなアカンのに。お話やったらそうするのに。

 野口君と梅ちゃんが会うところを想像しても、うれしくならない。何で? ホンマに悪魔のガラスが刺さってるんかも知れん。

 このまま取れなかったらどうしよう……

 

 胸はずっとチクチクしたままだった。

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