第15話 卒業式と告白
卒業式は良いお天気だった。
浜岡小学校の生徒の半分は東中学校に行くから、本当にお別れするのは別の中学校に行く子達とだ。
ハッタンはおんなじ東中学校やけど、エッちゃんは私立に行くからハッタンとはお別れだと泣きながら言った。
「最後に告白しようと思って……」
エッちゃんは赤い目でこっちを見ながら言った。
野球に誘ったけど走り込みで帰ってしまったエッちゃんは、結局少年野球には入らなかった。けど、ハッタンとはそれがキッカケで良く話す様になった。もうハッタンと仲良くせんといてとか、野球辞めてと言われなくなったのでホッとしたし、エッちゃんとハッタンが仲良くなって良かったなぁと思っていた。
「秦野君のこと呼び出して欲しいねん」
エッちゃんがキリッとした顔で言う。
「どこに?」
「中庭の池のとこに」
浜岡小学校には中庭に噴水みたいなものがある。水は吹き出してないけど。石で作った丸い形で真ん中に本当なら水が吹き出すはずの部分があって、その周りに水が溜まってる。濁ってて水草みたいなのが浮いてて生徒は池って呼んでいた。
「わかった。今言いに行ったら良い?」
「うん……スーちゃんも秦野君と一緒に来てくれる?」
エッちゃんが下から見上げるみたいにこっちを見て来る。
「私がおったら邪魔じゃない?二人っきりの方が良いんちゃうかなぁ……」
告白ってそうやってするんやと思ってたけど。誰かの前で言うのって恥ずかしくないかな……
「おってくれた方が良いねん。一人やと勇気出えへんもん」
エッちゃんが、お願い!っと腕を掴んで来た。
別にエッちゃんがその方が良いんやったら、一緒におるのは全く問題ないけど、ハッタンは恥ずかしいんちゃうかな、私の前で女の子に告白されんの。
エッちゃんよりハッタンの恥ずかしいが気になった。
結局エッちゃんが泣きそうな顔で頼むので一緒におることにして、ハッタンを呼び出しに行った。
ハッタンは野球チームのみんなと輪になってしゃべっていた。
「ハッタン」
声を掛けるとこっちへ走って来る。
「おー 相撲も一緒に写真撮ろうや。皆んなで写真撮ろうって言うててん」
「うん、後で。あのな、ちょっと来て欲しいねん」
「どこに?」
「中庭の池んとこに」
「何で?」
「ちょっと話があって……」
「何の話?ここで言うたらエエやん」
「アカンねん。良いからちょっと来てって。お願い」
そう言うとハッタンは困った様な、ちょっと恥ずかしそうな変な顔をした。
「私が待ってるって言わんとって」
とエッちゃんに言われていたので、ハッタンにちゃんと説明出来なくてそのままハッタンの腕を引っ張って池まで連れて行った。
ハッタンは大人しく着いて来てくれた。
池のところでエッちゃんが立っていた。ハッタンの背中を押してエッちゃんの前に押し出す。
「え、黒川?何?どうしたん?」
ハッタンが私とエッちゃんを交互に見てキョロキョロしている。
「私がスーちゃんに頼んでん。秦野君連れて来てって」
エッちゃんが真っ赤な顔で下を向きながらハッタンに言った。どこに居たら良いのかわからなくて、とりあえず後ろの方に下がった。あんまり二人の声が聞こえない所に、でもエッちゃんに私が居てるのが見える所に。
その後二人は向かい合ってしばらく話をしていた。
こっちから見えるエッちゃんの顔は真っ赤なまんまで一生懸命な感じだった。ハッタンは後ろを向いていたので顔が見えなかった。
エッちゃんの気持ちハッタンに伝わったら良いのに、と気がついたらお祈りの時みたいに両手を胸の前で組んでいた。
急にハッタンが振り返ってこっちへ歩いて来た。
話終わったんかな……ハッタンはこっちを見ずにすれ違う瞬間、
「何やねん、コレ」
と怒った様な声で言って通り過ぎて行った。
エッちゃんは池の前で立ったまんま全然動かない。慌ててそばに行くと、
「ありがとうって秦野君言うてくれた。付き合うとかそんなんはまだよく分からんから出来ひんけど、好きでいてくれてありがとうって。小学校の友達おらんかも知れんけど、中学でもがんばれよって言うてくれた。気持ち伝えられたから、それだけでもう良い」
そう言ってエッちゃんは泣いた。
でも悲しそうじゃなかった。ホッとしたみたいな、満足したみたいな、そんな感じに見えた。
エッちゃんが抱きついて来たので私もギュッとし返した。忘れてたけど、エッちゃんとは今日でお別れやった。家は変わらないけど、きっともうあんまり会ったり出来ない。急に寂しい気持ちが押し寄せて来て、そのままエッちゃんに抱きついて涙を堪えた。
エッちゃんがさっぱりした顔で「ありがとう、スーちゃんも元気でな、バイバーイ」と帰って行ったので私も中庭を出た。
野球チームで写真撮るって言うてたな。
さっきハッタンがいた場所に行ってみたけど、野球チームの皆んなはもう居なかった。でもハッタンだけは残っていた。
「皆んなもう帰ってもうた?」
ハッタンに聞いた。ハッタンがこっちを見た。
「お前、さっきのわかってて俺のこと連れていったん?」
ハッタンが怖い顔で言った。
「え、あぁ、うん。エッちゃんがハッタンには内緒で連れて来てって、恥ずかしいからって言うたから……黙っててごめんな」
黙って連れて行ったから怒ってるみたいだった。
「黒川が俺のこと好きって知ってたん?」
「……うん。でもそれも内緒にしてって言われてたから……ごめん、言われへんかってん。でもエッちゃん、ずっとハッタンのこと好きやった。5年生の時からずっと」
「何、ソレ」
ハッタンは怒ってる。でも何に怒ってるのかわからない。ずっと隠してたからかな……どうしよう。
「ずっと隠してたから怒ってんの?もっと早く言うたら良かった?エッちゃんと内緒にするって約束してもうたから……でもごめん。ホンマにごめん」
「そんなんどっちでもエエ。黒川が俺のこと好きでも俺は黒川のことそういう意味では好きじゃないから」
ハッタンはやっぱり怒った声。どうしよう……
「じゃあ何で怒ってんの?ごめん、わからへん。何か悪いことしたんやったら謝るから。教えて」
ハッタンはこっちを見た。スゴいジーッと見てくるから何かモジモジする。ちょっと怖い……いつものハッタンじゃないみたい。
「ホンマにわからんの?」
やっとハッタンがしゃべった。良かった。黙って見られてるのは何か居心地悪い。
「わからん。ごめん。ヒント貰っても良い?」
頭悪いから考えてもわからへん。ヒントじゃなくて答え教えて欲しいけど、ハッタン怒ってるからとりあえずヒント貰おう。
「ヒントって……」
ハッタンはため息を吐いた。呆れてる?もっと怒った?どうしよう……
「もうエエわ。相撲にこんな事言うてもしゃあないわな。ごめん、そんな顔すんな。もうエエから」
そんな顔ってどんな顔やろ?情けない顔?
「怒ってない?許してくれるん?何がアカンかったかわかってないけど、私」
そう言うとハッタンはフフと笑った。
良かった。笑った。許してくれたんかな。
「相撲は悪くないねん。俺が黒川にあんな事言われて、慣れてへんからびっくりしただけ。そんで相撲に八つ当たりしただけや」
「ホンマに?それやったら全然八つ当たりしても良いで。もっと怒っても大丈夫。でもちゃんと仲直りしてな。またこれからも仲良くして欲しいから」
ハッタンは顔をしかめた後、目を細めて私の顔を見た。何を考えてるかはわからなかった。
「野球辞めても俺らはおんなじチームや。中学でも仲良くしよ」
ハッタンは笑ってそう言った。
良かった。私も笑った。
「うん、仲良くしよう!」
ハッタンが右手を出した。その手をしっかり握って握手した。ハッタンがおんなじ中学で良かった。
ハッタンはそのまましばらく手を握ったまま、私の顔を見ていた。
小学校最後の空はキレイな青色だった。
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