第14話 悪魔のガラス
それから野口君はあんまりこっちの家に帰って来なくなった。野口のおばさんは寂しそうだったけど、
「もう、こっちから行くことにしたわ」
と、土曜日は野口君が暮らしてる、お祖父さんの家に良く泊まりに行くようになった。
それまでは野球のない月・水・金に野口さんちに行ってたけど、6年生になってからはおばさん達がお祖父さんの所に泊まりに行く、土・日に、私がきららちゃんのお世話をしている。土曜日は野球があるので夕方、日曜日は朝に野口さんちに行ってきららちゃんの様子を見ていた。
お母さんはプーさんのお陰ですっかり園芸にハマって、庭に花壇を作ると言い出した。野口のおばさんとも相変わらず仲良しで、二人でホームセンターに行ったり、お互いの家に行って情報交換しているらしい。
花壇を作る相談もしたみたいで、もうすぐうちの家にも花壇が出来る予定だ。
プーさんもきららちゃんも元気だけど、すっかりお母さんとおばさんのお花になっている。お手伝いはしてるけど、私が育ててます!とは言えなくて、シンプさんのところにもアレから一度も行っていない。
6年生の夏休みに野口さんちに行った時、野口君が帰って来てた事があった。
「ひまわり、どうなった?」
と聞いたら、
「咲いた」
とひまわりみたいな笑顔で答えた。
「やったなー」
と言うと、
「ありがとう。スーちゃんのお陰や」
と言われた。何にも手伝ってないのに。
それにスーちゃんって言われて、ちょっとびっくりした。男の子にスーちゃんって呼ばれたことなかったから。野口のおばさんが私のことスーちゃんって呼ぶからやろうけど、何か恥ずかしかった。でもちょっとうれしくてドキドキした。
ハッタンにスーちゃんって言われるのを想像したら、めっちゃ気持ち悪いのに、野口君に言われたらうれしいのは何でやろ。
「俺、転校せなアカンって言われてから、ずっと嫌なヤツやってん」
野口君が話してくれた。
5年生の時引越しする事が決まってから、野口君はそれが嫌で毎日イライラしてたって。学校でも皆んなに嫌な事ばっかり言って、女の子をいじめたりからかったりしててんって。
でも、地震で怪我をして結局転校しなくても良くなって、それまでケンカしてた子とも仲直りしたんやって。ひまわりを育てだしてからは毎日楽しくて全然イライラしなくなったらしい。
「雪の女王って知ってる?」
野口君に聞いてみた。
「名前は聞いた事あるけど、どんな話かあんまり知らん」
「カイって言う男の子とゲルダって言う女の子がおって、二人はスゴい仲良しでバラ育てたりしていっつも一緒に遊んでてん。でもある時悪魔が作った鏡が割れて、そのガラスの破片がカイの心臓と目の中に入ってしまうねん。そしたらカイは悪い子になって、ゲルダにも他の子にも意地悪ばっかりする様になった。その後カイは雪の女王に拐われてしまうんやけど、ゲルダが一人で助けに行って、色んな人の力を借りて雪の女王からカイを取り戻すねん。ガラスの破片も取れてカイは元の良い子に戻って、またゲルダと仲良く一緒に暮らす様になる、そんな話」
「女の子が男の子を助けに行くんやな。珍しいな」
「うん。ゲルダカッコいいねん。それでな、野口君も悪魔のガラスが刺さっとったんちゃうかなって。でももう取れたから元の良い子に戻ったんちゃうかな」
野口君はちょっと考えて、
「ただ単に俺がひねくれてただけな気もするけど、悪魔のガラスのせいやったら取れてくれて良かったわ」
とテレたみたいな顔でちょっと笑った。
「中学は東中になるんやろ?お友達とお別れすんの寂しいやろうけど、私も東中やねん。一緒のクラスになれたら良いな」
そう言うと、うん、と言って笑ってくれたけど、
「卒業せなアカンねんな」
と小さい声でつぶやいた顔はスゴく寂しそうだった。
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