第13話 台風と神様 その2

「ごめん。ひまわりのことすっかり忘れてて、神様にお願いしてなかった。ひまわりの分もお祈りすれば良かったのに……」

 そう言って謝ると、野口君は首を振った。

「神様のせいじゃない。台風のせいでもない。俺のせいやから」

 怒ってるみたいな強い声で野口君が言う。

「ひまわり育てんの、ホンマは最初の方でもう失敗してた。芽が5.6センチぐらいになったら、一番強そうな苗だけ残しておんなじとこから生えてるヤツは抜かなアカンかってん。間引きって言うねんけど。でもせえへんかった。じいちゃんに教えて貰ってたのに、知ってたのにせんかった」

「何で?」

「……せっかく出て来たのに抜くんが可哀想で……」

 野口君の声は段々苦しそうになっていく。

「でもそのせいで、栄養も行き渡らへんし、太陽に葉っぱ向けて咲かれへんし、密集し過ぎて陰になる所に生えたヤツが病気になるし……全部がめちゃくちゃになった」

 私もつぼみを取るのが可哀想と思った。おんなじや。でもやっぱりせなアカンことやったんやな……可哀想と思っても、しなかったらもっと可哀想なことになってたんかも知れん。

「ひまわりは背がデカいから添え木したらなアカンのに、密集し過ぎて添え木も差されへん。支柱にヒモ渡してそこにもたれさせてたけど、真っ直ぐ生えられへんから横に茎伸ばしたりするヤツもおって。最後は昨日の台風でまとめて全部倒れてもうた」

 野口君は下を向いて黙ってしまった。

 何て言ったら良いのかわからない。どうしよう。

 

 野口のおばさんみたいにちゃんと準備しても、もしかしたら台風が強過ぎたら、きららちゃんも倒れてたかも知れない。だからおばさんは、あとは神様に頼むって言うてたんやな。自分に出来ることは全部したから。

 そうや。神様にお願いするのはそれからじゃないとアカン。自分は何もしないで、何もかも神様に頼むのは間違ってる。

 私みたいにひまわりのこと何もしてないのにお願いだけして、何もかも神様に助けて貰おうとしてもそんなん無理や。それやったら神様にお願いする前に、ひまわりの台風対策を手伝った方がよっぽど何とかなったんかも知れん。もう遅いけど……

 

「結局約束も守られへんかった」

 やっと野口君がしゃべった。

「約束って?」

「ひまわりの種蒔くって約束したのに」

「ひまわり育ててたんやろ?種蒔いてないのに?」

「……友達が先に蒔いてたヤツがもう発芽しててん。その芽を虫とか鳥とかから守るのに必死で、それ以上種蒔いても世話出来ひんかなと思って……」

 野口君はずっと下を向いたままだ。

「じゃあ種あるんや!それ蒔いたら良いやん」

 そう言うと、野口君が顔を上げてこっちを見た。

「いつ蒔いたら良いんか知らんけど、種蒔く季節になったら蒔いて、もう一回ひまわり育てたら良いやん。今度は…間引き?もちゃんとやったら、今度はちゃんと花咲くんちゃう?」

 野口君は考え込んでるみたいだった。

「一回失敗したから、今度はおんなじ間違いはせえへんやろ?そしたら1回目より上手に出来るんちゃう?」

「……そうかな……そうかもな。うん。もう一回やってみようかな」

「お友達と育ててるんやろ?お友達もまた誘ったら良いやん。みんなでもう一回やろうって」

「うん。そうする。誘ってみるわ」

 野口君が真っ直ぐこっちを見た。そして笑った。

 良かった。笑ってる。ちょっと元気になったかな。

 スゴくうれしくて、私も何か元気が出てきた。

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