第12話 台風と神様 その1

 水曜日、学校帰りに野口さんちに寄るとおばさんが花壇で何か作業をしていた。


「台風が近づいてるみたいなのよ」 

 おばさんは遮光ネットをはずして、支柱も一旦抜いていた。株の付け根に向かって支柱を差し直したから、そこにきららちゃんを固定するのだと説明してくれた。

「新しい枝も柔らかいから、風でもぎ取られちゃうかも知れないんだって。長すぎるのはカットして、残りはこの支柱に結んどこうかなと思ってるの」

 おばさんに教えて貰って手伝った。

 株の部分をひとまとめでくくる。その後支柱に枝をくくっていった。

 おばさんは枝についたつぼみも取らないといけないと言う。カットしなかった部分の柔らかい枝に付いたつぼみは、風で振り回されてそのせいで枝が折れてしまうことがあるらしい。せっかくのつぼみを取るのは悲しかった。でもプーさんの夏休みを思い出して私もつぼみを取った。

「またつぼみは出てくるからね」

 おばさんはそう言って励ましてくれた。それでもやっぱりちょっと可哀想だと思ってしまった。

 枝は固くしばったら、揺れたとき折れるかもしれないので、ゆるくしばってねとおばさんに言われた。

 固くしばるのは嫌だけど、ゆるくても良いなら優しくしばれるからホッとした。

 最後に防風ネットを固定して終わり。

「あとは神様に祈ろう」

 おばさんが言った。

 

 神様に祈るなら教会に行こうかと思ったけど、こないだ神様に失礼なこと思ったし、教会の神様はひとりやから、台風で被害に遭いそうな他の人を助けるので忙しいかも知れない。だから教会には行かなかった。おばさんが色々やってくれたから、きっと大丈夫だと思った。でもやっぱり心の中では、台風があんまり激しくありません様にと祈っておいた。

 うちのプーさんは、もし学校に行ってる間に台風が来たら、すぐにリビングに避難させてってお母さんに頼んでおいた。お母さんは大丈夫、ちゃんとプーさんを守るからと約束してくれた。

 

 次の日の木曜日は天気は曇ってたけど、そんなに風は吹いてなかった。ホンマに台風来るのかなって思ったけど、来ないでくれる方が良いので、このままどっかに行って下さいと台風にもお願いした。

 その日の野球の練習は、台風が来るかもしれないから中止になったので急いで家に帰った。プーさんはもうリビングの隅に居た。

「もう家の中に入れとくわ。そろそろ風も強くなって来るやろうから」

 お母さんはそう言って、プーさんの鉢の下に敷いた新聞紙のシワを引っ張って直した。


 結局台風は寝てる間に来たみたい。

 夜になって風の音と雨の音が聞こえた気がしたけど、眠たくて夢の中で聞こえてるのか、本当に聞こえていたのかわからない。

 金曜日の朝になって、とにかく急いでごはんを食べてから、きららちゃんの様子を見に行った。道路には色んなものが落ちていた。それを見てやっぱり台風来てたんやなってわかった。

 

 野口のおばさんは外に出て花壇を見ていた。

「どうですか?きららちゃん大丈夫?!」

 門のとこからおばさんに話しかけたら、

「大丈夫みたい。こっちに来てみて」

と言われたので、勝手に門を開けて入らせて貰った。

 防風ネットはちょっと外れてたけど、きららちゃんは昨日とそんなに変わらない様に見えた。

「早く外してあげないとね」

 おばさんがそう言ったので、きららちゃんをしばっていたヒモを一緒に外した。

「お祈り届いたみたいやね」

 おばさんが笑った。

 神様のお陰なんかな?おばさんがちゃんと準備したからなんちゃうかな。両方のお陰?どっちにしてもきららちゃんもプーさんも無事で良かったから、私もニッコリした。

 

 おばさんに行ってきますをして学校に向かう途中で思った。

 これからも色々あるんやろうな、お花のお世話って思ってたよりずっとずっと大変やなって。

 結局プーさんはお母さんが、きららちゃんは野口のおばさんが居てくれたから助かったけど、私だけやったら無理やったかも知れん。

 神様だけじゃなくて、お母さんにも野口のおばさんにもお礼せなアカンな。ありがとうってちゃんと言おう。これからも助けて貰わな無理やと思うし。でもお願いばっかりで何か情けないな。もっと色々出来る様になりたい。


 学校の帰り、もう一回野口のおばさんの家に行った。お礼を言うのと、きららちゃんの様子を見に。しばられてたから元気なくなってるかも知れん。

 ピンポンを押すと野口君が出て来た。金曜日のこんな時間にここに居てるのは初めてかも知れない。

 野口君の顔を見て思い出した。ひまわり。

 プーさんときららちゃんの事ばっかりで、野口君のひまわりのこと忘れてた。大丈夫やったんかな。

「ひまわり、大丈夫やった?」

 こんにちはを言うのも忘れて聞いた。

「アカンかった。全部倒れてもうた」

 野口君がこっちを見ずに言った。

 

 やっぱり神様にお願いしに行けば良かった……後悔したけど、もう遅かった。

 

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