第11話 プーさんの夏休み
やっと梅雨が明けて本物の夏が来た。
プーさんは前より少し大きくなって、深緑の葉っぱがいっぱい伸びて来た。
もうすぐ夏休みになる前の日曜日、せっかく出て来たつぼみを、お母さんが指でつまんで横に捻った。つぼみがポロッと取れる。
「なんで?!」
慌ててお母さんの手を掴んで止めたら、
「こうやってつぼみのうちに取ったら、バラがお休み出来るんやって。そしたら夏の暑い間はゆっくりして、涼しくなってからまた花が咲くんやて。プーさんもアンタらよりちょっと早いけど夏休みや」
「夏休み?」
「そう。バラにも夏休みあげんと。株の体力を温存させてあげんねん」
花が咲いてるところは、切り取って花瓶に生けてあった。
それから、今までの鉢よりもっと大きい鉢にプーさんを植え替えた。日当たりの良い場所から、ちょっと日陰になる所に移動もした。暑くなるからあんまりお日様に当たり過ぎるのも良くないんやって。
野口さんとこのきららちゃんは大丈夫かな。プーさんみたいに動かされへんから。
野球がない月・水・金は学校の帰りに野口さんのとこに行って、おばさんときららちゃんのお世話をしていた。野口のおばさんとウチのお母さんは、バラのお世話のことで仲良くなって良く電話してる。
「きららちゃんは大丈夫かな?」
お母さんに聞いたら、
「遮光ネット買ったって言うてたよ。西日も当たるからそろそろ掛けてあげるって」
遮光ネット?日除けみたいなやつかな。一緒にやらせて貰おう。
月曜日、学校の帰りに野口さんちに寄って、ネットを掛けるお手伝いをさせて貰った。
支柱を株の周りに4本立てて、その上にも支柱を渡して留める。そこに銀色の遮光ネットをフワッと掛けて、支柱の上のネットを筒状の留め具で固定したら出来上がり。汗だくになったけど二人で出来た。
野口のおばさんはよしっ!と両手をぱんぱんしてから、
「暑かったでしょう。中でジュースでも飲んで行って」
と家の中に入れてくれた。
「カイも夏休みになったら、こっちにずっと居てるのかと思ったのに、学校でひまわり育ててるからずっとは居れないって言うのよ」
おばさんはオレンジジュースをテーブルに出してくれた後、私の前に座った。
「今も土曜はこっちに泊まるんだけど、それ以外は全然帰ってこないし…」
おばさんは寂しそうにため息を吐いた。
「でもお友達と別れんで済んだし、元気になったから良かったですね」
と言うと、おばさんもちょっと元気になって
「そうね。前は怒ってばっかりで言う事全然聞かなかったのに、最近は帰って来たら色々手伝ってくれる様になったわ。遮光ネットも一緒にやるって言うてたんよ。きららちゃんの事も気にしてくれて、帰って来たらいっつも見に行ってるんよ」
と笑った。
野口君、約束守ってくれてるんや。うれしいな。
「中学はどうするんですか?」
「こっちの東中学に行くって約束なの。小学校は事情を説明したら学校が承諾してくれたけど、中学校はここから通って貰わないと」
そうかー 小学校のお友達と離ればなれになってしまうんやな。しょうがないけど何か悲しいなぁ。でもおばさんも野口君と離ればなれやと寂しいし。
オレンジジュースを飲みながらちょっと悲しい気持ちになった。
おんなじ中学やな。それはうれしいな。
お友達とは離ればなれになったけど、私と友達になってくれたら良いな。そしたら私もひまわり育ててみたいな。中学校でも育てられるかな。一緒にひまわり育てたら楽しそうやな。
そう思ったらオレンジジュースが急に美味しくなった。
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