第10話 ひとりだけの神様
家に持って帰った『プーさん』は一瞬でウチの人気者になった。お母さんもお姉ちゃんも、可愛い可愛いと大喜びだ。
プーさんの鉢植えは、『雨が当たらなくて風通しの良い、お日様が当たる場所』に置かなアカンとお母さんが言った。ネットで調べたんやって。
みんなで相談して、一階のリビングから庭に出るテラスに置いた。庇があるから雨も大丈夫。
「もっと調べてみるわ」
お母さんの方が私より張り切ってる。
「明日、教会一緒に連れて行って」
お姉ちゃんに頼むと
「イビキかきなや」
と言われた。がんばって起きとこう。
日曜日、シンプさんのお話の間、何とか寝ないでいられた。何の話かはあんまり覚えてないけど。
ミサ(さっきのをミサって言うとお姉ちゃんに教えて貰った)の後、シンプさんにバラのことを報告しに行った。
「そうですか。バラが増えましたね。良かった」
シンプさんはそう言ってニッコリしてくれた。
「結婚式のブーケに使って欲しいと頂いたものだったんです。残った花を地植えにしてあげたかったので、お庭でまた咲かせて貰えるならとてもうれしい。ありがとうございます」
「自分の庭じゃなくて、野口のおばさんのお庭になってしまったけど、ちゃんとお手伝いしに行きます」
シンプさんは頭を撫ぜてくれた。
帰り道、お姉ちゃんが
「教会の結婚式見たかったなー」
とうっとりして言った。
「あそこで結婚式も出来るんやな」
「うん。教会の結婚式、憧れるー」
「お姉ちゃんも結婚する時、あそこでやったら良いやん」
そう言うと、お姉ちゃんはうーんと考え込んだ。
「あそこで結婚式したかったら、信者にならんとアカンねん。新郎か花嫁さんのどっちかが信者じゃないと結婚式させて貰われへん」
「日曜学校だけやったら信者じゃないの?」
「洗礼受けなアカン」
「せんれいって何?」
「罪を洗い清めて、神様の子どもとして生まれ変わるねん」
「神様の子どもになんの?」
イエス様を思い出した。あんまり大事にして貰われへんのんちゃうかな……
「名前も付けて貰えるんやで」
「名前変わるん?!」
お姉ちゃんが杏じゃなくなるってこと?せっかくお父さんとお母さんが考えてくれた名前やのに。
「でも、ちゃんと神様のこと信じてないとアカンねん。神様は信じてるけど、キリスト教の神様だけしか信じてないんかって言われたら、ちょっと違う様な気ぃする……」
お姉ちゃんは困った顔でそう言った。
「他の神様のこと信じたらアカンの?」
「キリスト教の神様しか、神様はおらんねんて」
えーっ!
「神社とかにもいっぱい神様おるけど、アレもキリスト教の神様なん?」
「だから、神社の神様は神様じゃないねんて、キリスト教的には」
えっー!!知らんかった。
そうなんか。でもホンマかなぁ。神社の神様も神様やと思うけどなぁ。ひとりしか神様がいなかったら、みんなのお願い聞くの大変やのに……だからイエス様ガリガリになったんかな。
「心から信じてないと信者にはなられへん」
お姉ちゃんはため息を吐いた。
「杏の方が良い。お姉ちゃんは杏っていう名前じゃないと嫌や」
そう言うと、
「うん、私も杏が良い」
とニッコリ笑った。
神様はいっぱいいた方が良いから、私も信者にはなられへんなぁ。結婚式も教会では出来ひんのかぁ、それは残念やなぁ。
でもバラはちゃんと育てよう。信者じゃないけど、シンプさんと約束したから。
「天国には行かれへんようになるけどな」
お姉ちゃんが言った。
「天国行きたいからって信者になるのは、ちょっとズルい感じがする。そんなん思ってたらやっぱり天国行かれへんのんちゃう?」
そう言うとお姉ちゃんは
「ホンマやな」
とまた笑った。
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