第9話 黄色いバラ その2

 シンプさんに謝りに行こうと思うけど、次の日は土曜日で野球に行かないとダメだった。


 練習の後、教会に寄ろうかと思ったけど、もう夕方やしって言い訳して寄るのをやめた。怒られるかも知れないことより、シンプさんがガッカリしそうで怖かった。お役に立てなかったことが悲しかった。

 教会の代わりに昨日の野口さんのおばさん家に行ってみた。バラがちゃんと咲いてるか確かめて、シンプさんに言わんとアカンし……教会には明日行こう。日曜日やからお姉ちゃんと一緒に行って貰おう。

 

 野口さん家のピンポンを押した。ガチャガチャと音がして玄関が開いた。出て来たのは男の子だった。

 多分昨日の子、野口開土君だ。

「あ!」

 私の顔を見て野口君は玄関を閉めた。

 どうしよう……勝手に門開けてバラ見に行ったら怒られるかな……もう一回ピンポン押した方が良い?!

 困っていたらまた玄関が開いた。

 野口君は鉢植えを持っている。

「これ……昨日壊したやつと種類違うけど……」

 野口君が門を開けて出て来た。持っていたのは黄色いバラの鉢植えだった。

「買って来てくれたん?」

「いや……あの後……ぶつかった後、じいちゃんのとこに行って探して貰った。知り合いの人がわけてくれてんけど、そこの花と見比べたらちょっと違うかった……ごめん」

 野口君は鉢植えを持ったまま頭を下げて謝った。

「ありがとう。探しに行ってくれたんや」

 鉢植えを受け取った。似てるけど、ちょっと違う。でもおんなじ黄色でおんなじ様に可愛い。

「可愛い」

 そう言うと、野口君はちょっと照れたみたいに笑った。

「スマイルハニーローズ」

「えっ?」

「スマイルハニーローズっていう名前やねんて。そのバラ。別名『くまのプーさん』」

「くまのプーさん?」

 もう一回、目の前のバラを見てみる。

 シンプさんがくれたバラより黄色が濃かった。はちみつみたいな、プーさんみたいな黄色。レモンの皮みたいな果物っぽい匂いがする。良い香り。名前も可愛い。プーさん。ぷっくりしててホンマにプーさんみたい。

「貰っても良いの?」

 野口君は、うん、とうなづいてから、

「昨日ごめん、ぶつかって。バラ落としてもうて」

ともう一度謝ってくれた。

「ううん。ありがとう。可愛いバラ探してくれて。あと、おばさんがそこの花壇に昨日のバラも植えてくれてん」

 野口君は、

「うん。俺も世話する。でもここにあんまり居らんからお母さんに頼んどく」

と言った。

「ここにあんまり居らんって、何で?」

「俺、じいちゃんとこに住むから。そこから学校通うねん」

 あぁ、転校すんの嫌やって言うてたなぁ。

「じゃあ転校せんで良いの?」

「うん。前の小学校に行く」

「そっかあ、良かったな。友達とまた会えるな」

 そう言うと野口君はうれしそうな顔をした。

「ひまわりの種蒔かなアカンから……」

 何か決心したみたいに野口君が真面目な顔をする。

「ひまわり?」

 梅ちゃんとおんなじや。ひまわり流行ってんのかな。

「うん。約束したから」

 野口君はそう言ってこっちを見た。

「でも、こっちにも帰って来てバラのこともちゃんと見とくから」

「ありがとう。私もこの子大事に育てるわ」

 私はプーさんを見ながら約束した。

「日当たりの良いとこに置いて。秋から冬はあんまり水やり過ぎん様にって言うてた」

 野口君が説明してくれる。『恋きらら』と一緒やな、シンプさんが言うてた事とおんなじや。

「わかった。ここのバラも見に来て良い?」

「うん、見に来て」

 野口君がニッコリした。

 浜岡小学校でおんなじクラスになれたら良かったけど、転校しなくて済んだんやったら良かったなぁ。

シンプさんに新しいバラ貰った事も報告しよう。

 良かった。落ちた『恋きらら』もちゃんと育てて貰えるし、『プーさん』も貰った。

 

 私も野口君の顔を見ながらニッコリした。

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