第8話 黄色いバラ その1

「おばさんのウチって花壇ありますか?」

 しばらく地面に散らばったバラを見ていたけど、思いついておばさんに聞いてみた。

「えっ?あぁ、小さいけど一応あるよ」

 おばさんが答える。

「このバラ、植えてもらえませんか?」

 頼んでみた。

「ウチの花壇に?良いの?持って帰らなくても」

「鉢植え割れてるし、ウチにこんな大きいのないんです。買いに行ったりして準備してる間にバラがどんどん元気なくなりそうやし……」

 おばさんはバラを拾うと

「そうやね、植えてみようか……」

と門のところへ歩いて行って振り返った。

「どうぞ、入って」

 おばさんに付いて門の中に入ると、右手に煉瓦で作った花壇があった。

「お日様がいっぱい当たる所が良いって言うてました」

 そう言うとおばさんは、

「ここやったら日当たり良いと思うんよ」

と花壇の隅に置いてあったスコップで穴を掘って、そおっとバラの根っこを入れた。

「散らばった土もここにかけようかな」

 おばさんがホウキを持って来てくれたので、それで道路に飛び散った土を全部集める。おばさんはチリトリに土を入れるとバラを植えた周りにかけた。

 土を手でパンパンと均していると、おばさんは

「ごめんね。せっかく持って帰るはずやったのに」

と謝った。

「こっちこそすいません。花壇の場所取ってもうて」

 お役に立つはずが、おばさんにバラの花を押し付けるみたいになってしまった。シンプさん、ガッカリするかな……お世話するって約束やったのに……


 考えてたら、おばさんが話しかけて来た。

「浜岡小学校の生徒さん?」

「はい」

「さっきあなたを突き飛ばした子も、浜岡小学校に転校する予定なのよ」

 突き飛ばした訳じゃない。ぶつかっただけやけど。

「転校したくないって怒って、さっきもそれで家から飛び出して行ったの」

 さっきの男の子。カイって呼ばれてた。雪の女王に出てくるカイとおんなじ名前や。

「地震の前から引越しすることは決まってたのに、ずっと嫌がってて。それから全然言う事聞かなくなっちゃって……」

 はぁ、とおばさんはため息を吐いた。

「何年生ですか?」

と聞くと、

「5年生。あなたは?」

と聞き返された。

「おんなじです。5年生」

「そう、もし同じクラスになったらよろしくね。あの子、カイトっていうの。野口カイト。開く土って書いて」

 野口開土か。変わった名前。

「お祖父ちゃんが付けてくれたの」

 心の中で思っただけやのに、聞こえたみたいにおばさんが言った。

「地震で怪我して入院しててね。やっと退院して月曜日から学校に行くはずだったんだけど、入院してたせいで前の学校のお友達にも挨拶出来てないし、転校するのは絶対嫌だって言うのよ」

 確かにそれは寂しいだろうなぁと思った。

 あの子もケガして入院してたんやなぁ。神様、ついでにしたお願いも聞いてくれはったのに、バラのお世話せんとここに預けたらバチ当たるかな……どうしよう。でも今植えたとこやのにまた鉢に移したら、バラの花死んでしまわへんかな。困ったな……


「あの、時々ここにバラお世話しに来ても良いですか?育ててって頼まれたから……」

 おばさんに聞いてみた。

「もちろん。いつでも様子見に来てね。せっかくのバラを取り上げてしまって、ごめんね」

 おばさんがまた謝った。

「ううん。ありがとう。よろしくお願いします」

 おばさんは優しい顔で笑ってくれた。

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