第6話 ありがとうございました

 神様がお願いを聞いてくれたのがわかったのは、6月も終わりの頃だった。

 梅ちゃんから電話で、その男の子のお見舞いに行って来たと報告があった。

「元気やった?」

と聞くと、

「うん。まだ頭に包帯巻いてたけど元気に見えた。携帯でゲームしてたし」

「そっかぁ。良かったなあ」

 本当に良かった。神様が気づいてくれて。

「ちゃんとありがとうも言うたから……」

 梅ちゃんはちょっと怒ってるみたいな声だ。

「仲直り出来たんやー」

「……それはわからんけど」

「でもちゃんと顔見てありがとう言うたんやから、大丈夫や。梅ちゃん悪い子になってないで。それも叶えてくれたなぁ」

 そう言うと、梅ちゃんはちょっと黙ってから、

「ありがとう。スーちゃんのおかげや」

と言った。

「ちゃうで。神様のおかげやで。あと、お見舞いに行った梅ちゃんが良い子やからやで」

 ホンマはあんまり期待してなかったから、明日神様にお礼してから謝っとこう。疑ってすいませんて。

 やっぱり教会の神様が聞いてくれたんかな。もしかしたら違う神様も聞いてくれたんかも知れんけど、とりあえず教会に行って、ありがとうとごめんなさいをした方が良いんやろな。


「……ちゃん?スーちゃんって!」

「あ、ごめん。何か言うた?」

「アタシも教会行こか?」

「良いよ。わざわざ来るのしんどいし。そこでお礼言うても聞こえるんちゃう?神様やったら」

「お願い聞いてもらったのに……良いんかな…」

「梅ちゃんもお礼言うてました、ってちゃんとお祈りしとくから。梅ちゃんひまわり見たらなアカンねやろ?」

「……うん。ごめんな」

 

 梅ちゃんは地震の前に、学校の花壇にひまわりの種を蒔いたらしい。そのお世話を毎日していると言っていた。初めての芽が出たとき電話ですごくうれしそうだった。

 地震の後、仲の悪いその男の子が入院してから今日までで、梅ちゃんが楽しそうな声を出したのは、その時だけやった。だから大事にして欲しい、ひまわりのこと。


「大丈夫。ただで言うこと聞いてくれる神様やから、そんなことで怒りはらへんわ、きっと」

「アハハ。ありがとうな、スーちゃん」

「梅ちゃんもありがとう。その男の子にありがとうって言う約束守ってくれて」

「……うん。仲直りはしてへんけど……」

「また学校来るようになったら、仲良く出来るかも知れへんやん。仲直りはゆっくりでエエんちゃう?」

「……別に出来んでも良いしな…」

 またそんなこと言う。でも梅ちゃんのことやから自分からは謝らへんやろなぁ、その子から何か言うて来てくれたら良いんやけど。

 

 またねー と電話を切ってから、お姉ちゃんの部屋に行った。

「神様にお礼する時って何か持っていかなアカンのかな?」

 お姉ちゃんは椅子ごとくるんと回ってこっちに身体を向けた。

「お礼って何のお礼?」

 梅ちゃんと男の子の話をした。

「そっかぁ。それでその子が元気になったから、アンタがお礼に行くん?」

「私も一緒にお願いしたし、梅ちゃん今忙しいから。私だけでも良いと思ってんけど、アカンかな?」

「良いんちゃう。もしかしたら神様が聞いてくれたんは、梅ちゃんのお願いよりアンタのお願いの方かも知れんし」

「そうなん?!」

「うん。だって自分の為のお願いより、他人の為にするお願いの方が神様は聞いてくれはるで」

 そうなんか。良かったぁ、一緒に行っといて。じゃあ余計私がお礼せんとアカンな。

「何にも持っていかんでもいいけど、何か教会のことお手伝いしてきたら?神父様にそのこと話して、何かお役に立てることありますかって聞いてみぃや」

「お役に立てること?あるんかなあ……でもわかった。そうする」

「一緒に行ったろか?」

 お姉ちゃんはそう言ってくれたけど断った。お姉ちゃんも部活があるし忙しい。

 

 お役に立てることありますか?

 無いって言われたらどうしよう。 

 まぁ、その時はそん時か。

 

 とにかくありがとうございました。 

 

 神様にもう一回心の中でお礼を言った。 

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