第4話 少年野球 その2
「相撲は中学行ったらどうするん?野球、やるん?」
水筒のストローをくわえたままハッタンがこっちを見た。
「東中って女子野球部ないねんて」
水筒を口に持っていきながら答えたら、お茶がこぼれて顔がびちゃびちゃになった。
「何してんねん」
ハッタンが笑いながらタオルを貸してくれる。受け取りながら、ありがとうとお礼を言った。
土曜日授業が終わってから、野球チームと一緒に持ってきたお弁当を食べた。エッちゃんにもお弁当持っておいでよって言うてたので一緒に食べた。お弁当の時は楽しそうにしてたのに、エッちゃんはその後最初の走り込みで、
「ごめん、無理。やっぱり辞めとく」
と死にそうな顔をして帰ってしまった。せっかく女子が増えると思ったのに…。
「そんなにハードやった?!」
ハッタンが不思議そうな顔をした。
「ほんだら、もう野球辞めんの?」
顔を拭いたタオルを返すとハッタンがまた聞いてきた。
「ソフトボール部はあるみたいやから。そこに入ろうかなぁ」
野球部は男子しか入れないと思う。たぶん中学生になったらやっぱり男子の方がパワーがあるから、女子と一緒に練習するのは無理なんちゃうかなぁ。ソフトボール部は女子だけみたいやからそっちの方が良いのかも知れん。
「そうかー。まぁ、まだあと一年あるしな」
ハッタンはそういうと立ち上がった。今は5年生やから一年以上あるけど。
「ハッタンは?野球部入るんやろ?」
ハッタンはこっちを見て首を横に振った。
「坊主になるん嫌やもん」
「えーっ。それだけで?!」
「あほう。一番大事なとこやんけ」
そうなんかな?別に髪型なんかどうでも良いけど。
「そらお前には関係ないやろけど」
そう言うとハッタンはいきなり笑い出した。
「3年の時のこと思い出してもうた。お前チームに入るからって坊主にしてたもんなぁ」
ゲラゲラ笑いながらハッタンが私を見下ろした。
「笑ろたわー コーチもびびってたし」
「だって、チームに入る子は坊主にせなアカンって聞いたから…」
未だにみんなに笑われる。涼しいし、石けんで頭も洗えるし、乾かさんで良いし、便利やったのにな。
お母さんに黙って、お父さんにバリカンで切ってもらったから、お父さんも私もめっちゃ怒られた。特にお父さんは三日ぐらいお母さんに口を聞いてもらえなかった。お父さんはホンマは男の子が欲しかったから、私が野球やりたいって言うたらスゴいうれしかったんやと思う。
中学なって野球辞めたら、お父さん悲しむかなぁ。でも中学生で坊主になったらお母さんが哀しみそうやし……困ったなぁ。
「相撲と一緒のチームになれんねやったら中学でも野球やったのになぁ」
ハッタンがつぶやいた。
「坊主にしたらお母さんが泣くかも知れんからなぁ 困ったなぁ……」
そう言うとハッタンは一瞬キョトンとしてから、またアハハと声を出して笑った。
ハッタンの笑顔を見てたら、自然に笑いが込み上げてきて一緒に笑った。
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