eyes:3 やっぱ星テン、レストランでしょ

「ねぇ翔、お腹減ったー。早くどこかに入ろうよっ♪」


可愛い笑顔を翔に向けながら、早くお店に入ろうとせがむルミ。

けれど、そんな可愛いルミを連れて歩いていた翔だが、実は今ケッコーへこんでいた。


普通に考えれば、こんな可愛い年下の女の子と一緒にいて、なーにがヘコむんだと思うかもしれない。

が、ヘコむ理由は一つだけある。

それは、周りからの突き刺さる視線だ。


自分を見てヒソヒソ話をする人や、怪訝な目で見てくる人が多い事多い事。

多分、あまりよろしくない関係だと思われてるのだろう。

いわゆるパパ活みたいなモノに。


───ハハッ。そりゃあ、こんな年の離れた、しかも制服姿の女の子と歩いてたら誤解されるよな……てか、ルミは恥ずかしくないのか?俺なんかと歩いていて。


けれどルミは、翔のげんなりした気持ちもお構いなしに、嬉しそうな笑みを翔に向けながらグイグイ距離を詰めてくる。


「ねー、翔のオススメのお店でいいよ。むしろ、そういうとこ行ってみたいんだけど♪」

「俺のオススメー?」


翔は脳内を検索したが、浮かんでくるのはルミが喜ぶとは到底思えない店ばかりだった。

貧乏な生活を送る翔の行く店といえば、安っっっすいチェーン店か、おんぼろの定食屋だったからだ。


───あーぁ。せっかく可愛い子とご飯行く事になったってのに、俺の飯ナビ、マジでロクなとこがない。残念マップだわ。


しかも翔の残念マップは、恐らく今後もアップデートされる予定が無い。

皆無だ。

貧乏作家の翔には。

けど翔はそのまま答えるのもしゃくだと思い、ルミに冗談っぽく言ってみる。


「まあ、俺の行きつけの店といえば、ミシュランの三ツ星レストランばかりだよ。星、スター、輝きだっ!やっぱ行くならスターの店っしょ♪」

「スター?」


いきなり何言ってんの?大丈夫ですかー?という表情を浮かべながら、ルミは翔の顔を下から覗き込んだ。

翔はそれに構わず話を続ける。

こうなりゃ、勢いで突っ走るしかないから。

デタラメだろーと構いやしない。ゴーゴーだ。


「いや、もう言ってみたら星テンぐらいかもしれん」

「テン?!」

「ああ、もう星3つなんて雑魚よ。しかもあそこは、シェフがコック帽を被っていてね……」


大げさなリアクションをかましながら、訳の分からない熱弁をする翔。

こーなればもう、止まらない。

ルミは笑いをこらえながら、翔の顔を覗き込んでいる。


「ミシュラン?三ツ星?星テン?プププ……で、シェフがどーしたの?コック帽被ってるの当たり前なんだけど」

「ルミ、コック帽を舐めちゃいけない。シェフはな……」

「シェフは?」

「シェフは……今日はコック帽の重さに耐えきれず、首を捻挫したらしい。いやー、せっかくだから行きたかったんだけど、残念だーーー♪ああ、残念だ♪」

「アハッ♪マジでウケる♪コック帽そんな重くないからー♪しかも、全然残念じゃなさそうだし♪」


二人は思いっきり笑った後、翔は息を整えルミに言う。


「てな訳でルミ。今日は、し・か・た・な・く、俺の行きつけの定食屋さんに連れてくよ」

「あれっ?定食屋さんが行きつけだったの?行きつけは、ミシュランの三ツ星じゃなかったっけ?」

「あっ、やっべっ」

「アハハッ♪」


やっちまったという翔の顔を見て、ケラケラ笑うルミ。

それでも翔は、とにかく勢いでいっちゃえと思い胸を張った。


「ルミ、分かってないなー、定食屋にはさ、スターとはまた違う美味さがあるんだよっ♪いわば、プレミアムキラキラ!」

「プレミアムキラキラ?!なんよそれ。きーた事ないんだけど」


勢いに任せて、また半ば訳の分からない事を言う翔の事を、ルミは楽しそうに笑いながら見つめている。

ノリがいいのか優しいのかは分からないが、ルミは少なくともいい子であるのは間違いない。

翔のこんなムチャクチャな話を、笑顔で聞いてくれているのだから。


「分かった翔、全然いいよ♪じゃー今日は、定食屋さんね♪あっ、エビフライあるかな?私、エビフライ好きなの♪」

「ルミ、当然だろ♪エビフライは全ての基本だ。言ってみれば、この世界はエビフライみたいなもんさ」

「えっ?どーゆー事?」

「さあ?俺にもわからん」

「なにそれー?テキトーすぎ」


二人はそんな他愛のない話をして笑いながら、お店に向かった。

出会ったばかりにも関わらず打ち解けた二人は、まるで仲のいい年の差カップルに見えた。

街行く人達が二人を見て怪訝な顔をしなくなっていた事が、その事を密かに物語っていた……

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