第31話 裏の者、表の顔

生命活動を除く行動を禁じる、、、、、、、、、、、、、。重ねて――ついてこい、、、、、


 ただの通行人。

 とはいえ貧民街には似つかわしくない身なりに違和感を抱き、視線が向いていた。

 警戒もされ、同業者かと疑われていた。

 その全てを無視。

 たった一つの力によって歪む。


「なるほど、絶対順守の固有能力といったところか」

「ま、似たようなモンだ。どう足掻いても悪人な能力だから嫌いだけどな。言いふらすなよ」

「口外する気は初めからないが……悪人という点は解せんな」

「あン?」

「力に善も悪もあるわけなかろうが。刃物一つとってもそうだ、料理人が持てば飢えを満たし、貴様が持てば恐れを打ち払う。察するに異世界の者なのだろうが……下らん。この国で生きる気がないのならばさっさと国から去れ。この件もわっしが片を付ける。手出しも要らん。国で生きる身内というのならばともかく外部の者に頼る気は毛頭ないわ」


 見開かれる。

 驚愕が隠せなかった。


「いい、のか?」

「悩む悩まぬは個人の勝手だ。だが、それは内に秘めておけ。貴様の過去に興味はないが、同様にこの国も貴様に興味はない。判断するは人間性と行動。いかに切れ味の鋭い剣を持ち合わせたとて、それを罪なき他者に振りかざさん限り誰も貴様を責めぬ」

「そうか。……そうか。でも流石に剣を抜き身で持ち歩くのはダメじゃないか?」

「それは不意の事故が危ないだけであろうが。剣が危ないから持ち歩くなという理屈を通すのならば、魔術を行使できる者は外出できぬであろう」

「それもそうか……」


 魔術を使えるということは、武器を身につけているも同然。

 規模は違えど魔術を扱える人間というのは珍しくなく、現代では全く使えない者の方が稀有。

 とするならば、危険だからはあまり理由にはならない、と。

 その理屈にヒイラギは驚愕し、納得した。


「ありがとう、ロザリンド」

「ハァ?」


 改めて。

 見知らぬ世界の、更に見知らぬ土地で。

 否定されない。

 思い出していた不安が払しょくされ、ヒイラギは静かに礼を述べた。


「わけのわからないことを言っていないで事を進めるぞ」

「ああ。――お前ら、この後どうするつもりだ?」


 切り替え。

 拘束のうえ座らせた二人の男に向き直る。


「騙しやすそうな子どもを見つけて、報告する」

「何故?」

「知らない」

「誰に?」

「俺たちの上司に」

「名は?」

「ザカリ」

「立場は?」

「一つ上の上司」

「ザカリの上司は?」

「知らない」

「……今回の件、他に関わっている人間は?」

「隣の――」

「他」

「……」


 落胆の感情が広がる。

 引き出せる情報がない、そういった感情がヒイラギの背後から二つ。


「今回関わってなくとも黒鉄の墓に所属している人間、あるいはその活動の一環で知った人間の名前を言え」

「レーン、ヴィンス……」

「そっちのお前は?」

「レーン、ヴァーチュ、ヴィンス……」


 ヒイラギは静かに驚いていた。

 情報をより多く持っているのは右腕に古傷のある先輩的男だと思っていたが、実際には白い刺青を大量にした子分あるいは後輩の男だったからだ。


「レーンってのは?」

「この街の衛兵団の上から三番目の奴」

「チッ、デケェ組織だから何かしら潜入してっだろぉとは思ったがよォ、その位置かよ」


 組織で犯罪を行うならばそういった行為があるのは必然。

 ヒイラギ自身それは予測していたが、街を護る団体の三番手まで上り詰めているという事実には驚愕を禁じえなかった。

 三番手。

 それが上り詰めた後での加入なのか。

 はたまた初めから黒鉄の墓の人間で、衛兵団の末端として入り三番手になったのか。

 不明ではあるが、どちらにせよ厄介に変わりはない。


「黒鉄の墓の歴史がどれくらいかは知らねえがクソ面倒だな。……それで? ヴィンスってのは?」

「俺を黒鉄の墓に誘った人」

「立場は?」

「ザカリよりも上」

「……これ以上聞いても意味ないか。んじゃそっちの刺青、ヴァーチュってのは?」

「黒鉄の墓の一番上」

「んッ!?」


 これまでの話から上下での繫がりが薄い、あるいは情報漏洩防止のために上下の繫がりを抑えていると認識していた。

 しかし思わぬ情報にヒイラギは思わず声を出す。


「具体的な情報は?」

「獣人種、白翼族。俺よりも遥かに若く、お前の方が近い」

「いや、お前いくつよ。それに俺の歳知らんべ」

「俺は二九歳。お前は……一七歳」

「待て、なんで知ってる? 初対面、それにこの世界に来てから歳なんてほとんど明かしてない。能力を介して認識が伝わってんのか? ……いや、今は関係ない。で、俺の方が近いってことは二三より若いのか」


 若い。

 実力評価の傾向が強い社会とはいえ組織の長というにはあまりに若すぎる歳。

 確かにこの国では以前の世界――日本とは成人の基準が異なる。

 地域差にも依るが一般的には一二歳から一五歳。

 古くから存在する宗教、例えば龍神教では一二歳。

 そしてルートヴィヒ国内で今最も信者の多い神星教では一五歳を成人としている。

 が、黒鉄の墓というノースミナスどころか国内でも名の知れた犯罪組織の長というには若すぎる。

 整合性もない。

 ヒイラギはその歴史を、発足から今までの年月を知らない。

 それでも年齢と、今の組織規模に至るまでの所要年数があまりにも不釣り合いということはわかる。

 組織運営経験など当然ないが、最短で行ったとしてもギリギリなのではないかと。


「人心掌握術に長けてるのか? あるいは組織構造からして……うん、ヴァーチュ本人を知ってるのは限られた人間。基礎になる人員を集めたらそいつらに任せればネズミ算的に増えるか? 根本的に基礎人員の能力値が高くないと成り立たない仮説ではあるけど一応矛盾はない、はず」

「ぶつぶつどうした?」

「なんでもない。さて、と……続きだ。お前ら黒鉄の墓の至近的目標と究極的目標はなんだ?」

「今やっているのは資源の貯蔵による生産力の低下と国内総武具数の低減、流通する鉱山資源を制限することによる物価上昇。最終的には国家転覆」

「やっぱりか」

「やっぱり?」


 予想はしていたが当たっては欲しくなかった。

 そんな顔つきでヒイラギは静かに舌打ちをする。


「犯罪を大規模に起こせば国が悪化するのはわかるな?」

「ああ」

「今の時代、人類国家はルートヴィヒただ一つ。龍壁山脈の先はほぼ一切開拓が出来ていない」

「遠征でいくつか拠点がある程度だったか」

「犯罪組織といえどルートヴィヒの中で暮らしている。それが崩壊すれば自分たちも被害は受けるし逃げ場もない。とすれば可能性は大きく二つ。一つは単純な破滅願望。もう一つは革命」

「ッ!」

「赤ん坊じゃねえ、組織で動くなら計画も必要。自分の行動が何を引き起こすかはわかってんだ、どっちにしろ国家転覆は決まってる。ただ個人的には否定したかっただけだ、死にたがりでしかなく大それたことしでかすつもりはないってよ……」


 残念にもそれは否定され、予想は現実だったのだが。


「で、だ。鉱山資源の流通部分でやってるワケで、そこの手段はパッと思いついたのは三つ。まずは掘った鉱石をそのまま盗む方法。けどこれは効率だったり製錬だったりの問題があるから可能性はナシ。次、どこかしらの鉱山会社と結託して流してもらってる説。最後に黒鉄の墓そのものが鉱山会社である説。さてどれだ?」

「表の名はララリマン鉱業。俺たちも所属はそこになっている」

「だとさ。ロザリンド、お前ララリマン鉱業って知ってるか?」

「当然のこと。この街で鉱山業を行っている組織の一つでミナス鉱業の下部組織の一つだ」

「ほぉ」


 ミナス鉱業という名前には聞き覚えがあった。

 具体的に何か噂を聞いたことはなく、あくまでも鍛冶屋巡りの中でチラリと耳にした程度。

 その規模は大きく、ルートヴィヒ東部一帯の鉱山には必ずと言って良いほど関わっている大規模企業だ。

 鉱山業を一位として、その下に製錬、魔道具などに用いる工業製品の生産など。

 街があればその中に必ず製品がある程度には国内での人気も高い。


「ララリマン鉱業が腐ってるのか、はたまた全体が腐ってるのか」

「わっしは前者だと思うぞ。極端な話ではあるが全体が腐っているのならばそこで一気に事業を撤退してしまえば良い。そうすれば一時的にではあろうが経済に大きな損害が与えられ、その対処に追われているところを適切に叩けば損害は継続し、国家転覆も容易くなろう。そうしないということは腐敗は全体ではないということ。ララリマン鉱業のみ、あるいはそこを含めた一部地点のみとなる」

「たしかに、それが妥当だな。それに全体を腐らすには優秀な人材の必要数が多すぎるし、そこに割くには人材がもったいない」


 敵の存在範囲はある程度限られている。

 その事実に胸をなでおろす。


「聞くことが多すぎる上にこれで合ってるのかわかんねー。……まあいいや、どんどん聞いてくぞ」


 そうしてヒイラギは時間の許す限り尋問を続けた。




――――後書きの前に――――

今日も今日とてヤツがやってきた。紛れもなく奴さ

何者かといえば、浮気心

設定を考えるじゃろ? 今の世界線、時代だと使えない設定だな~。ちょっと弄ったら使えねーかな? おっ、良い感じのシーン思いついた――いや、だからどう足掻いてもこっちじゃ使えねえのよぉッ!?

別の時代の物語書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい(イマココ)


――――後書き――――

手下A:男 31才 独身 普人種

手下B:男 29才 独身 普人種(白皮族)


白皮族:白皮というが肌そのものが白いからというワケではない。個人差があり白人系黒人系黄色人系、その他さまざま。

    では何故この名称かといえば地の文通り『白い刺青』をしているから

    刺青は全身に刻まれていて、生まれて少ししたあたりで右手の甲に生まれた日の情報などを記号化した刺青を掘る

    その後、様々な出来事があるたびに刺青を増やす

    誕生日の際は誕生日を示す模様を掘り、10の誕生日刺青が刻まれると白皮族的には成人

    そして出来事を示した刺青が上半身を覆い隠したら一人前扱いになる。下半身は一人前ののち刻み、これは特に重要な出来事に限る

    魔術的な効果はなく、あくまでも部族内での象徴的な要素。派生部族が近隣地帯に居て、それぞれで多少刺青の意匠が異なる

    手下Bは白皮族の中の『鉄騎の民』と呼ばれる部族

    話は戻り、白皮族全体に

    なぜ白皮族はそうして刺青を入れるのか

    外部との交流が少ないため情報が少なく定かではないが、狩竜人と開拓兵との狭間の時代に活躍した男に対する敬意とされている

    領土内に居ても属さず、竜を狩る一部族だったが狩竜人に助けられ、その敬意と憧れが今まで続いていると

    白皮族同士でも多少の違いがあり。龍のような牙の生えた男だったり、金髪金眼の男、赤い目の女、感情の高まりで刺青が増える大柄の旅人

    その正確さは欠け、単一神教の教えが曖昧な形で流れ込んだ結果とするのが主流


補足:神星教は拝一神教(神は複数存在するが、絶対神が存在し絶対神を信仰しましょう教)

   龍神教は唯一神教に近いが唯一神教ではない(龍という強大な存在が居て自分たちは敵いません。敵う者もいません。龍だといるかもね教)

                       (龍神教という名称は正確ではなく、龍を崇拝していた者たちを見た外部の者たちがそう呼称)

                       (唯一神教は排他的なため争いが起きやすいが存在が不確定な他宗教とは異なり龍は実在する

                        そのため『うちらの崇拝対象目の前にいますよ、そちらは?』で大体ねじ伏せていた)

   ルートヴィヒ国内での根底意識的には歴史的要因で多神教

   魔術種は神は否定派だが基本思考はアニミズム

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