第30話 尋問へ
――――前書き――――
前話のことに関する補足
生物におけるターンオーバーとは異なる要因です。一部ターンオーバーも含まれますがそれとは別に並行して肉体の入れ替わりが起きています
そっちの方が比率的に恐らく大きいです。詳しい計算はしていないのでわかりません。そこの計算はしても展開、人物の行動に一切の影響を与えませんから。加えて言えばその入れ替わりによる魔的干渉は外部に行われないため環境への影響もナシ。よほど必要にならないと計算しません
――――――――
「近くで感じてて気づいたんだけど、ヒイラギって魔力使っての探査苦手よね」
「俺、まだ一ヶ月も経ってないんだけど?」
「それにしたって下手過ぎよ」
「そう?」
平均よりも昇級が早かった。それが心のどこかで自信に繋がっていたヒイラギはそう言われ、無意識に期間を言い訳にする。
けれど期間関係なく下手と言われ、気づいた。
運よく素早い昇級が出来たからと言ってもこの国で前提技術とされている要素があるとすればそこに掛けた時間が短ければ少なくともその点では劣って当然だと。
そして連ねてそもそも自分は万能ではないと思い出す。
自分には得意不得意があり、例えば走ることで言えば昔から速度は下から数えた方が早かったが持久走では上位にいくこともあった。経験のなさもあって技術はなかったが先読みが得意だから球技では球を奪うこともあった。得点はできなかったが。
運動だけでもそうであり、勉強で言えば理系の方が得意。
それを踏まえて考えれば自分の中にも下手な部類があるのは当然であり、自己評価が高すぎたと少し自己嫌悪に浸る。
「貴方、魔力に指向性を持たせるのは上手だけど魔力の加減は下手なのよね。ムラがあるのは今後の訓練で均せるけど、その雑さは早いうちに修正しておいた方が良いわ」
「雑……」
「魔力探知に魔力量は関係ないの。それは確かに長時間の探査とか広域でとかなら話は違うんだけど、今ここで必要な範囲を調べるのに今みたいな魔力は無駄が多過ぎよ」
「無駄……もっと少なく? う~ん……少ない量での微妙な加減ってちょっと苦手かも」
絹ごし豆腐を箸でつまむような微妙な力加減はヒイラギには難しく、魔力には揺らぎがあるためそれを一定に保ち続けるのは慣れのない状況では難しい。
「……あ。あ? あ~……」
「ど、どうしたの?」
「……ちょっとやり方思いついたっていうか。訓練方法?」
そう言ってヒイラギは、一気に魔力を解放した。
通常の魔術範囲と体内で圧縮していたことによる多少の範囲拡大ぶんの領域に周囲の魔を上回る濃度の魔力が行き渡り、数瞬の維持。
徐々に濃度が低下し、やがては周囲の魔に負けそうなほど希薄になるがそうはならずに僅かな魔力だけが周囲に広がっていた。
「何をしたの?」
「緊張をほぐす、というか肩の力を抜く方法でさ、普通に肩の力抜いても緊張してる時って肩の力抜けないじゃん?」
「そうね」
「けど一度思いっきり肩に力を入れてからゆっくり力を抜いたら初めよりも肩の力抜けんのよ。要はそれと一緒」
「なるほどね」
とはいえ現状では実用性がない。
魔力による索敵は魔力同士の干渉によって可能とする技術。
索敵を行う側は魔力を支配下に置き続けることによってその干渉による異変を感知、索敵される側は周囲の魔との区別がつかないことによって探知は一方的に行えるのだ。
しかしその魔力が高濃度となれば話は変わり、周囲の魔よりも圧倒的に濃い魔力が自身と干渉すれば索敵される側であってもその異変に気づくことが可能。
今回ヒイラギが行った方法は一度濃度の高い魔力を周囲に放つ工程が必須。
つまり必ず索敵に気づかれてしまう欠点がある。
「練習が必要ですなぁ」
「……ま、間違ってはいないし良いんじゃない?」
「ちなみにクアークはどうやって教えてくれる感じだったの?」
「魔力を直接流してその強さを憶えさせようと思ってたわね」
「外に放出する感覚をそれでってことは……違和感スゲーだろうなー」
そもそも他者の魔力を受け入れるというのは中々難しいことだ。
ヒイラギの場合、転移してからの時間経過の浅さによって外部からの魔力拒絶が薄かったという点やマユゲとの信頼関係、単純な相性、マユゲの技術など様々な要因があった。
だが時間を経て、信頼関係も浅く、相性も不明、技術もマユゲほどではないだろうと、ヒイラギは苦笑する。
信頼していても簡単にはできない技術というのは浅学ながらも知っていた。
「よう」
「……」
「どうしたよ、アイヴィ」
「気やすく呼ばないで」
「ん~。どうしたよ、アイヴィちゃん」
「アイヴィでいい」
さて。
ここに来たってことは前回の発言は嘘じゃなかったことか。
もしくはまだバレてないと考えて俺をカモにしようと――ンンン、逃げるために嘘を吐いたのにわざわざ戻ってくることもない。
うん、取り敢えず信憑性は高そうではあるな。
「進捗は?」
「身内に話を集めた。少しわかったことがある」
「ほう?」
「ボクの住んでるあたりに来る奴らは下っ端。そいつらは決まった時間に決まった場所を巡ってる」
「へぇ? 殊の外良いことが知れたじゃねーか」
今回の件に関わってる関わってないとは別で、そもそも相手は犯罪者。
なら躊躇もいらない。
「地図、読めるか?」
「むり」
「なら現地だな。そいつらが来るまでの猶予は?」
「あと鐘一つはある」
「三時間……よし、行くか」
順路把握、地形把握、周辺調査、その他細かい部分の計画。
行くとは言ったが間に合うか?
直前過ぎると計画に支障をきたす。
計画を進めるにあたってもいくつか手間がある。
面倒だ。
「まずここ。次に――」
……これ、結構空間的に広い部分でやってんなぁ。
地図見せりゃイケたんじゃねーか? いや、地図って見せてもわからん奴にはわからんか?
試しゃよかったか? ま、現地観るのは前提だし良いか。
「おう! 変な奴連れてるじゃねーか!」
勇ましい感じの女の声。
誰だ?
「なんの用さ」
「おいおい、身内が変な奴に絡まれてるんじゃないかって心配して来てやったのに? なのにわっしを鬱陶しいみたいな目で見やがって」
「……」
「友達?」
「違う」
「そうそう、友達」
「ああ言ってるけど?」
「たまに協力するだけ」
「気が合うのによ~」
うん、仲良いってことね。
わかった。
「あ~、なんだっけ……
「わっしの名はロザリンド。この美しい白髪に見惚れたか?」
「……まぁ、貧民街住にしては綺麗な身なりよな」
毛先が赤みがかった白髪。そういうの嫌いじゃないよ。
むしろイイよね。
俺とか髪色ごちゃごちゃしてっからそういう落ち着いた感じの配色羨ましいわ。
「これは風呂に入りに行ったのが少し前だから汚れているだけで……って、関係ないな」
「意外。安い公衆浴場でもここ住みなら高いハズなのに」
「汚い身なりは認識が悪化する。伊達にここ一帯の長はやっとらん」
「へぇ?」
うん。イイネ。
好きだ。
自分の出来ることを最大限やる。やろうと思ったからって簡単に出来ることじゃない。
その点で言えば俺より立派だ。
「なあアイヴィ、あのロザリンドって子は失踪について知ってるのか?」
「知ってるけどどうかした?」
「ふぅん……」
立地はここでも充分、移動も可能。
周辺環境も申し分なし。
よし、試してみっか。
「話があんだ。人気のないところに案内頼む」
「ああ? ……人数は?」
「俺、アイヴィ、ロザリンドの三人だな」
「……わかった、疾く着いて来い」
今気にすることじゃねえけど、蛇の下半身で移動するってあんな感じなのか。
「それで? 失踪のことを知っているというのは?」
「あれ?」
「わっしは角で音を拾う。常人よりも更に耳が良い」
「んじゃ、話がはえーや。孤児失踪に関わっている可能性のある人間に接触をする。それにあたって周辺にいる孤児の口止め、問題の人間から情報を引き出すために集中できる人目のない場所、あと多少の問題を起こす許可をくれ」
「深くは聞かない。しかし一つ聞こう。情報を引き出す、その確実性はあるのだろうな? それがなく、ただ単に拷問で行おうというのであれば取り仕切る者として許可はできぬ」
「ほぼ確実に達成可能だ。口約束程度の信憑性だが断言してやるよ。俺なら出来るしやってやる」
「フッ、良かろう。準備はこちらで済ませてやる、ぬかるなよ?」
さて、詳細を詰めるか。
目的を達成できないってことはないだろうけど下手したらこっちの動きが悟られかねない。
ロクな手掛かりナシの現状でそれは絶対避けたい。
やるなら迅速に、だな。
必要なのは時間、事運び、確実さ。
「具体的にはどうすればいい? 口止めに関しては今指示を出した。人目のない場所に関してもいくつか候補地を見繕い下見をさせている。他は?」
「そうだな……まず普段ここにきている奴ら、そいつらがロザリンドの縄張りに入ってから出るまでの時間。おおよそでいい」
「およそ半鐘。だが余裕を持たせるなら一時間と考えるべきだろう」
そうだな、そいつらも目的があって来てるワケだし。
どう処理するにしたって余裕は必要だな。
「じゃ、そいつらは普段何しに来てる?」
「始めの頃はこの辺りの下見をしていた。最近はそれを終えてここらの奴らにちょっかいを掛けてる」
「詳しい道順は?」
「地図はあるか?」
「あるぞ。読めるのか?」
「当然だ」
ん、なるほど、こういう感じか。
経路とざっくり傾斜から考えるに移動だけでニ〇分くらい?
ほぉ、他の場所にも行ってるのか。
「ここを出た後の道は?」
「あ~、大体この辺りだな。こっちに関しては縄張りじゃないから追跡は難しかった。あくまでもいくつかの目撃証言からの推測。時間は知らぬ」
「ほぉん、なるほどね。誘導地点はここか。うん、じゃあやるならここの位置だ」
「理由は?」
「大体が人目だな。縄張りの中央部だから外部の人間も少ない。道が入り組んでいて外から見えないから事を起こすのにも向いてる。情報を引き出すための場所も近い。んでここなら経路を短縮して最終地点に向かわせられるから時間も稼げる」
「……アンタは――いや、やはり気にするな。あくまでも個人の事、深く聞きはせん」
「ああ、そう。どうでもいい。……さて、やりますか」
「兄貴ぃ、本当にこれ必要なんすかね?」
「さあな。だが下っ端の俺たちは上からの命令をこなすしかねえだろうが」
「毎日毎日、ロクに成果もなく。かといって上から成果のなさを怒られもしないなんて……オイラ逆に怖いっすよ」
「……初めから期待していないんだろうよ」
手筈通りにいきますか。
――――後書き――――
アイヴィ:13歳 身長一四五
汚れているため今は苔色だが本来は若葉色の髪 同様に汚れでぐちゃぐちゃな髪だが綺麗な状況ならおよそ全体的に縦ロールな髪
伸びた前髪で目元が隠れている 瞳の色は暗い灰色
男装は得られる服の中で自分好みのものを選び続けていた結果それが本人にとっての普通になった
両親は奴隷。管理が雑な主人だったため奴隷同士で交わり、子どもが出来、主人の管理不十分で主人摘発。
その際妊娠を理由に母親は施設で管理され(その間父親は別の場所で奴隷労働)、出産後は一定期間両親と育つ。
のち、孤児院で育てられるも自分の両親が奴隷(犯罪理由)だと知り、居心地の悪さなどから孤児院を抜ける。
以降貧民街で生きる
ロザリンド:13歳 身長一七二(下半身が蛇のため明確に身長概念があるわけではなく、普段楽な姿勢での数値) 全長二八八
毛先の赤い白髪 束ねる者、表立って外部とやりとりをするため清潔には一応気を使っているが貧民街のため不充分 瞳は黄色
物心ついたあたりで開拓兵だった両親が死に、商人だった叔父と共にノースミナスへ。
ノースミナスにいる遠縁の親戚に預けられ商人とは別れる。
一年後、預けられた先の夫婦が謎の失踪。
以降貧民街で生きることに
歳が同じということでアイヴィのことを密かに気にかけている
龍や竜と似ているという理由で亜人の中では最も差別を受けている種族
亜人の中では特徴がはっきりわかれやすく、多くの場合は下半身が蛇のようになり、稀に二本足を有することがある
その場合は上半身に鱗が生えるなどの特徴が出て、また二本足の場合は上半身が普人種よりも長くなることが多い
種族全体として耳を持たず、頭部から生えた角から音を集めて聞くという特徴がある
毒を有する場合がある
ロザリンドは毒を持っている
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