第28話 噂は尾鰭が付くし、尾鰭で歩く

「っと、ごめーん」

「んぁ? ……今のスリか」


 この国もそういうのあるんだねぇ。

 ま、盗賊がいる時点で当然か。


「げッ、膨らんでるから金持ってると思ったら一緒に魔石入ってるじゃん……。ボクじゃ売れないし……」

「少年、返してもらおうか」


 大したモンは入ってないけどタダでくれてやる気はない。

 身なりを見るに孤児なんだろうけどだからって興味もない。

 第一、孤児だからって許したらコイツはもう一回繰り返す。そうなると遅かれ早かれ捕まるし、将来的にも閉ざすことになる。

 善人気取る気はねぇが大人としての最低限はやってやんよやんよ。この国で生きる以上は、な。


「……」

「オイコラ」

「ボクは男じゃないから知らない」

「そのなりで女かよ……」


 ボロの服に男で想像する方の短髪。

 未成熟だから身体つきも中世的で目つきが険しいせいで顔つきが勇ましい。

 ついでに普段の生活の影響で貧相な身体のくせに筋肉にくはある程度付いてる。


「って、論点そこじゃねえ。返せ、ソレ」

「嫌だって言ったら?」

「あのなぁ……仮にも開拓兵相手に勝てる気か?」

「……開拓兵なの?」

「ああ。ホレホレこの開拓兵証が目に入らぬか」

「……ごめん」


 現金なやっちゃ。


「てか孤児なら孤児院行けよ。この国そういうのちゃんとしてるだろ。国営、街営の孤児院も。宗教関係の孤児院――神星教とか、少数宗教だけど龍神教とか」

「……大人はキライ」

「っぁ~」


 反抗期? 反抗期なの?

 別にキミが何を選ぼうと良いけどさ、未来閉ざすだけだぞ――って、説教臭い大人じみてるうえにこの手の言葉って本心だとしても本人には響かないんだよなぁ。


「何があったよ?」

「……知らん奴に――」

「ああ、知らん奴だ。つい最近来て、一ヶ月でいなくなる奴だ。つまり言っても言わんでも変わらん。なら自分の心を整理するがてら言ってみ?」

「……仲間がいなくなった」


 仲間?

 ……孤児仲間?

 餓死、ではなさそうだな。かといって犯罪で捕まったって感じでもないだろ。

 目つきでわかるけど明確に理由があって大人を嫌ってる系統。嫌う理由は理不尽じゃない。

 犯罪で捕まったならちゃんと自業自得って受け入れる類の人間性な気がする。


「アイツらだ……アイツらがッ」

「アイツらっていうのは?」

「黒鉄の墓って奴らだ。ボクも詳しくは知らない。ただアイツらが最近うろついてるって話で。だからアイツらだッ」

「黒鉄の墓ってのは? ――って、詳しくは知らないのか」

「うん。犯罪組織ってことしか……」


 犯罪組織、ね。

 そいつらがうろついてるってのが幼児誘拐と結びつくとは限らないけど、怪しいっちゃ怪しいか。

 ぶっちゃけ俺には実害がないけど。それはあくまでも現状での話、被害が拡大して治安悪化の一途を辿ると巡り巡って俺にも被害が出かねない。


「犯罪組織をどう相手するべきか……」


 メンドクセー。メンドクセーよぉ。衛兵にぶん投げたぁい。

 けど証拠もなしに頼っても効果なしだし。

 証拠、証拠……あ~、いや? 証拠はいらないか?

 仮に黒鉄の墓が犯人だとする。

 として、覆らない前提条件が『黒鉄の墓は犯罪組織だ』ということ。

 うん。直接居場所突き止めてそこを流せば証拠なしでも動くんじゃないか?

 不審人物を見たって体で情報提供? 通報? をすれば乗り込まないまでも多少の調査はするでしょ。

 だったら、俺がやるべきはそこまでだな。


「よし少年――じゃなかった、少女! 明日またここで会おう。んでその時に有益な情報があったら教えろ」

「なんでボクがお前なんかと合わなきゃならないんだ! それにボクは稼ぎで忙しい!」

「このお金をあげよう。ひもじいながらも一日食うには充分な額だ。明日来たらまた上げよう」

「期待して待ってろ」

「うん。素直でイイネ」


 実に楽だ。


「そうだ、俺はヒイラギ。お前は?」

「……アイヴィ」

「よろしくな」

「……ふん」




 さて、こっちでも調べるとして。

 犯罪組織ってどうやって調べるんだ?

 聞き込み? 黒鉄の墓について知らないか、って? ……露骨にダメなやり方だな。

 違う方法。目的を達しつつそれと知られない……あくまでも普通な感じで。


「それ一杯」

「おうよ、3アスターだ」

「ほいほい。ちなみにこの街特有の美味い飯ってなんかあるか?」

「この街の食事なぁ。農業も畜産もやってねえし」


 だよなぁ。

 特産的な食用向きモンスターもいないから肉が素材として残っても基本廃棄だし、そもそもこの街だとモンスターの肉の方に魔力が集まることがないから素材にもならないし。


「ああ、でも。そうだな、鉱山都市だからな、火を扱って汗を流す人間が多くてこの街の飯は他より濃いめだ。あと汗を流すための風呂も街の特徴かもしれないな」

「なるほど。ありがとうな」

「なぁに、また来てくれりゃそれで良いってモンよ」


 風呂……温泉?

 違うか、ルートヴィヒは火山がない。

 安定陸塊って話だから温泉もない。

 そのうち火山のあるトコに行って温泉入りてー。


「ギルド、行くかぁ」


 一応案もチロっと思いついたことだし。


「……そういえばここのギルドの店はあんま見てねーな」


 今はやることあるから今度行くか。どうせ一ヶ月あるし。

 ……やっぱチラホラ見られてんな。

 近場でいくか。


「俺のこと見てどうかした?」

「ああ、すまねえな。お前最近クアークのヤツと組んでる新顔だろ? それが珍しくて気になってな」

「ふっ、なるほど。確かにあの噂で近づこうって奴はいないだろうな」

「なんだ知ってたのか。なおさら変わった奴だ」

「興味があまりなくてな」


 俺個人が、じゃなくてクアークに関連しての興味か。

 ま、顔つきとか除けば髪色変わって日本人要素なくなってごく普通の人間って感じだろうし、特徴のない俺に対して大して意識も向けんわな。


「いやいや、そういう自分は興味ないですー好きな人が他に居るんですーって奴がクアークに狙われて虜にさせられるんだよ」

「そうそう。一体知り合いが何人やられたやら」

「そんなモンスターみたいに……」

「流石にそこまで言わねえけどパーティ崩壊って意味じゃモンスター以上に恐ろしいぜ?」

「まあ、それはそうだけど」


 クアーク……ホントやべえな。

 まあ俺は関係……こういうこと言うと嫌な想像が現実になりそうだからやめとこ。


「なんでアイツはそんな趣味してるんだ? 普通に好きな奴見つけて自由にすりゃ良いのに」

「さあな。聞いたことねえな。お前あるか?」

「ねえな。興味もねえよ、好きでもねえ女の恋愛観なんて」

「どうして他の女に好意を抱いてる男にしか興味を持てないのやら……」


 個人の趣味って言っちまえばそれで終わるんだけど。

 世の中には俺からすればキッショって感じの性癖もあるし。

 なんなら俺の嗜好も一般からすれば外れてるのもあるだろうから……。


「俺も詳しくはねーけどアイツの趣味にも一応ある程度の法則というか決まりはあるらしいぞ」

「へぇ? どんな?」

「確か――例え自分に好意が向いたとしても他の女にまだ好意があれば成功とは見なさないとかなんとか。複数いる女の中で一番でもダメ。自分ただ一人を好いてようやく。らしいわ」

「自分一人に一途になって、そこで捨てるワケか。うひー、恐ろしい」

「ははは、だからお前も気を付けろよ?」


 あくまでも自分以外見れなくして、そこから路頭に迷わせる。って感じか。

 ……怖いよ。


「お、おう、大丈夫とは思うけど気ぃ付けるわ。それついでに聞きたいんだけどよ、この街で他に注意しておくことってあるか?」

「注意しておくこと? なんだそりゃ」

「あ~、例えば。クアークみたいにヤベー個人とか、あるいは注意すべき集団、もしくはこの街特有の暗黙の了解とか? 他には、なんだろ、この店はあまりいい噂聞かない、的な」

「なるほど、そういう感じか。……なんだろうな?」

「個人なら『アーリック・ユリシーズ』か?」

「あ、確かにそうだな」


 名前からして男か?


「まあ、コイツはヤベエというか、メンドクセエだな」

「うっとうしいでもある」

「お、おう」

「他は……ガーランドさんだな」

「この人は関わるなってより関わる時に注意しろ、だ」


 ガーランド。ガーランド?

 てか開拓兵がさん付けってのは珍しいな。


「長年開拓兵として活動してる遠征経験のある爺さんだ。悪い人じゃねえし良い人だ」

「そう。俺らも昔色々教えて貰ったりした。身綺麗な人でな、整えられたアゴ髭が特徴」

「だからこそ言動には注意しろ。あの人に対して失礼してみろ、あの人がじゃなく俺らがお前を絞める」

「――うっす、了解」


 なるほど。世話になった人が多いからこそ、か。

 礼儀に注意、了解。


「他……集団、組織、店……う~ん。変なことすりゃ鍛冶で生きられなくなるからそんなことする奴はいねえしな」

「そうそう。下手に粗悪品を売ると一週間以内には孤立して遅かれ早かれ潰れるな。雑な仕事って思われたり、見る目がないだったり」

「鉱山都市ゆえの厳しさか。まあそれが普通っちゃ普通だな」

「あ~、でも最近変な噂は聞いたな。鉱山で働いてる奴ら曰く『質の良い鉱石を掘っても精錬してる奴らが下手くそなせいで街が潤わんー』ってよ」

「? 質の良い鉱石で街が潤う……」

「単純な話、良い鉱脈見つけるのに成功して純度が高いのをバンバン掘ってるけど精錬技術が悪いとかで流通量が変わらないんだとよ」

「あれな、質が悪いと体積に対しての含有量が低くて、質が良いと体積に対しての含有量が高いってこと」

「おー、一度の運搬での効率か」


 一回辺り5トンくらい奥から街に運ぶとして、含有率が1%なら50キロ。けど含有率が5%なら250キロ。

 そりゃ怒るわ。

 せっかく効率良く働いてるのにあとの奴らが無駄にしてるんだもんな。


「そこだけ聞くと精錬側が悪いけど……それだとただのよくある業界話だろ? てことはもっと続きがある感じか」

「そういうことだ。鉱夫たち側の言葉に対しての精錬側曰く『俺らは頂いた鉱石に対して充分な働きをしている。実際そのお陰で産出量に対する生産量も増やすことが出来た』だとよ」

「ちなみにここ数年の輸出量はどの金属・宝石も大きな変化ナシ。流石に鉱脈が枯渇するんじゃないかってのは減ってるがそれでもおおよそ横這いだとか」

「……この街での流通量は?」

「大きな変化なし」

「質も変わらず良いぜ」

「……変わった噂だな」


 まあ、仮に何かあったとしても俺の仕事ではねーな。

 その手のは黒鉄の墓と同じで公的機関にお願いするだけ。


「なるほどね。ありがとう、色々参考になった」

「良いってことよ」

「ちなみにさ、なんか黒鉄のなんちゃらがどうとかって噂で聞いたんだけどアレって何? なんか知ってる?」

「黒鉄の墓か?」

「あ~、多分そうそう。それ」

「ありゃ一種の都市伝説だろ」

「実体知らねえな」


 ……マジ?

 噂どころか都市伝説扱いなの?

 こりゃ相談して出動してくれるかどうか。


「噂の出所は貧民街の子どもだな」

「そうそう。なんでも黒鉄の墓がこの街を裏で牛耳ってるだとか。この街の悪は大半それが関わってるだとか」

「ま、そんな奴見たことないな。犯罪者どもに問いただしてもその手掛かりすらなし。ま、子どもの妄言だな」

「騙された? なあ、騙された?」

「ちょ、ちょっとだけだ」


 ……ちッ。マジか。

 こりゃ嘘吐かれたか?

 仮にあの……アイヴィ? が本心で言ってたとしても多分噂聞いて信じ込んだ話だな。

 黒鉄の墓。その実態は孤児の面白可笑しい噂と、信じ込んだ奴による虚像ってところ。


「はぁ、噂も考えて判断しないとな」

「くくくっ、噂話なんて全部冗談として聞くのが一番だぜ?」

「そうだぞ。噂を真に受けるな」

「ンマー」


 こ、これも人生経験ってことで。うん。


「あ、そうだ。暗黙の了解についてだが、まあそれは街ではなく開拓兵での話な」

「あれか。坑道」

「そう、坑道。北の方にある坑道の中に第一二坑道ってのがあってな、まあ廃坑道なんだが」

「ちなみにモンスターが湧くから鉱山資源は手に入る」

「そこの廃坑道。実は昔鉱夫が死んだとかで縁起が悪いんだが。……実際面倒事もある」

「それ自体は他の坑道でもあるけどな」

「少し前から坑道でアンデッドが湧くんだが、その中でもその第一二坑道はアンデッドがやけに多い」

「死霊系が多いから剣が基本効かない」

「だから行くな。行くなら注意しろ」

「ほうほう、そんな場所が。聞かなかったら言ってたかもしんねー。ありがとうな」




――――後書き――――

フェードロヴァ:23歳 身長一五八

        獣度高めの猫獣人 髪色は光沢の薄い金髪にまばらな黒髪 少しごわつくくせ毛の短髪

        口がデフォルメであるような猫口

        そこそこ頭は回るが直感派で勉強が苦手でギルド入社の筆記試験はギリギリの点数だったとか(長時間机と向き合って単一の仕事をするのが苦手。それを理由に基本は受付仕事)

        体系は細身だが今もまだ鍛えていて多少の衰えはあるがそこらの開拓兵より力強い

        ある程度気に入った人間と触れ合うのが癖。基本は手同士などだが拒絶しないと加速する


エリナ:28歳 身長一三九

    生まれつき透明感のある綺麗な肌をしているが基本不健康な生活のため汚い

    髪は淡い紫の長髪。ただし不健康にしているため光沢のない灰色の髪(正確には皮脂や身体から漏出した魔力が髪に常に纏わりつくことで大気中の魔との作用が断たれるのが理由。水などで髪の魔力を薄くして外部の魔の影響を受けると色が戻る)

    童顔・低身長。理由は主に栄養不足。体質的に外部との魔作用によって肉体変化が起こるため存在しない世界線では大人びた顔つき、高身長

    肋骨が浮き出るほどに痩せていてヒイラギに心配されている。貰う予定のノースミナス土産をヒイラギに人質に取られて現在は一応食事をちゃんとしているらしい


クレイオス:53歳 身長一八八

      白のフワフワとした髪 肉体は鍛えずともムキムキだが出力はそこまでないとの噂

      獣人らしく、角が生えているらしいが幼少期に折れてしまって種族(しんそう)は髪のなか

      叔母には英雄の仲間がいる。大叔母だったかもしれない


ポーラ・プロミネンス:16歳 身長一三二 小人ドワーフ:未来では敏小人ミゼット剛小人ドワーフに分化。今は力と速度両方

           輝く赤銅色の短髪 褐色肌 がっしりとした体型

           未来の英雄の武器を打つのが夢とのこと。そのため新顔に出会うたびに声を掛け、親に怒られている

           種族に関係なく鍛えられた男の肉体を見るのが趣味。装備の候補を見繕ったと言って更衣室の中に顔を覗かせ堂々と観察する

           ポーラ的にはヒイラギの肉体は現状21点(100点満点中)。怠けた生活感が出ていて減点、生まれ持った骨格的に加点

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