第27話 それぞれの休日
「え、今日は休み?」
「流石に今日くらいは、ね」
「なぁにしよぉ……」
ノースミナス三日目。
唐突な休みにヒイラギは机に突っ伏しながら食器を指先で弄ぶ。
「アタシは行くところあるから一緒には行けないわ。好きに観光でもしたら?」
「ん」
提案を聞くと小さく返事を返し、食器を重ねて宿を後にする。
時間はおおよそ七時。
「いきなりだと迷うなぁ。どすっぺ……。あれ? 俺、この世界でファンタジーな場所とか見たくて世界観光~って考えてたけど……俺って実は観光に不向き?! 観光の楽しみ方身につけないと……」
将来の目標と、今自分の出来ること。
その食い違いにヒイラギは慌てる。
「くぁ……」
「それ美味い?」
「ああ、めちゃんこウメーぜ」
「めちゃんこ……? じゃあ一つくれ」
俺の脳みそ翻訳どうなってるんだ?
発言内容的には変じゃない。発音? 語調?
そのうち自力で翻訳する時の参考用にこういうのも憶えた方が良いんだろうし、人と接するのはまだちょっと苦手だけど今日一日色々接してみっか。
「お、美味い。これ何?」
「アラミナつってな、ラズラミ粉を使ってっから体内魔力の巡りも活性して健康にも良いんだ」
「アラミナ、ラズラミ? ラズラミは知ってるかも、穀物だっけか」
「ま、見た目通りだな」
「真っ黒だもんなぁ」
炭混ぜたのかってくらいの黒さ。ビックリだね。
「なぁ、この街って観光のおススメある?」
「観光……鉱山都市だから観光する場所なんでねーぞ? どうしてもって言うなら普通に街観て回れ」
「ほーん。わかった、適当に観て回るわ。ありがとうな」
「おう」
そもそも、そうだよなぁ。
考えてみればこの国は一種の戦争状態。
モンスターと一世紀以上戦ってんだ、そのための資源を繰り出してる鉱山都市はそりゃそれに集中してるしだからこそ観光なんて意識にないわな。
……てかそもそも観光名所って用意されてるモンじゃねーや!
普通に人の営みがその街の観光名所みたいな。そういう感じじゃんよ。
「……鉱山都市、製鉄所? 鍛冶屋? 武具屋? ……あ、そういえばマユゲに買い出し頼まれてるし色々お土産も買おうと思ってたんだ――金あんまねぇや!」
旅の道中で得た諸々を売却したが微々たるモノ。
どうしたものか――お土産だから今買う必要ねえな!
あ、でも一部希少素材があるから定期的に店を巡る必要はあるか。
「商業地区は――あっちだっけ」
脳内に地図を思い浮かべる。
目印になる建物を軸に照らし合わせて現在位置を正確に把握、脳内地図から進むべき道を決める。
「……あっれぇ? 想定してた道の形状と違ぁう」
路地を進んでいると自分が迷子だと気付いた。
昔から地図を見ても迷うのは何故だろう?
「ここは直進のハズ、曲がらないハズ……ま、進みゃ大通りに出るっしょ」
細かい部分で間違えても大通りに出さえすれば修正はできるし。
――おん?
「階段……」
地図上ではわからなかったけどこの街に来て、見て、わかったこと。
この街傾斜結構ある!
階段階段、踊り場、階段階段、踊り場。
今行こうとしてる商業地区の――鍛冶系は山方面だから余計に傾斜が強くてそこに合わせて街を創ってるからキツイ。
「んへっ、でもちょっとワクワクすんべ」
多分こういう地形とか街の構造自体は前世でもヨーロッパとかに行けばあったんだろうけど、でもやっぱ初めて見る景色ってのはドキドキワクワクが止まらないな。
少年心が疼くっつーか。開拓兵としての冒険心が疼くっつーの?
狭くて薄暗いこういう路地、好き。
なんかこういうとこに良い感じの店とかないか?
マユゲの店も実際に行こうと思ったら路地裏の中っぽいし。
「でも種族のアレか意外に道広いな。今まで見てきた中で一番デカい
そう考えると狭いのか。
でもその影響で暗くなりきらないこの光量がまた良い感じだねぇ。
夜に通ったら魔石灯に照らされてまた雰囲気が違うんだろうな。
この人気のない路地って感じの朽ちた壁と、掃除はしてるけど清潔ではない感じの地面に、子どもの悪戯の跡。
もうね、最高よ最高――
「――おおぅ、これまた絶妙にそそるじゃないの」
横に逸れた更に細い道とその奥の鉄格子の門扉。
店名は――『白晶金の針』。なんの店なのかわからないトコもイイネ。
「いらっしゃい」
「ドモ」
薬屋? いや、薬草系も売ってるってだけで雑多だな。
乾燥させた薬草に薬……見た感じ簡単な部類だけか。全部はわからんが分かる範囲だと多分……第四級薬剤師資格で売れる範囲か?
んで、魔道具。術式を刻む系統じゃなくて物性との掛け合わせの類か。どっちかってーと錬金術方面だな。
「何を探しているのかな?」
「うぉっ……まあ、特に目的があって入ったワケじゃなくて街の散策っすね。面白いのないかなー、程度の」
「ほうほう。ならばこれなどどうだね?」
白い箱? 大きさ的には木刀の握り幅くらいか。
「これは魔力を流すと一定時間の遅延ののち一気に拡大するんだ。大きさは可変で魔力量によって調整できて、遅延時間は面に対する範囲で決められる」
「へ~……一度変形させるとそのまま?」
「そうだね」
……面白そうだと思ったんだけどなぁ。
「今は立方体だけど変形させると針の球になるんだ」
「栗……」
栗かな? ウニかもな?
……ハリネズミだな。
「使い捨てってことは在庫結構ある感じ?」
「作ったのは俺じゃないからなあ」
「そうなの?」
「娘が作ったんだよ」
「んじゃその娘さんに依頼すればいい感じか」
親子でこの品揃え維持してんのね。
気配感じないところを考えると買い出しか、もしくは別んとこに工房ある感じ?
「無理だな。グラムテカにいるから」
「なんだっけ。北の方にある学術都市?」
「そうだ。ここ数年戻ってきてない。手紙は来るがな」
「そっかぁ」
年単位で戻ってきてなくて、それでここに在庫あるってことはよっぽど売れなかったんだろうな。
まあ、旧時代の……なんだっけ? 魔石具? 的な使い捨て前提の魔道具って今時人気はないわなぁ。
「面白そうだから買おうかな。いくら?」
「五〇〇〇アスターだね」
「一個?」
「うん」
「微妙にたけぇ……」
「素材が、ね」
説明文曰く……白亜銀と形状記憶系の金属を使ってる?
そりゃ高くなりますわ。
……てかよく加工できたな?! 白亜銀って龍壁山脈南西部のごく一部でしか採掘できない金属で高いし、通常銀に高濃度の
たしか……単体ならまだ加工できるけど単体だと使い道が皆無。単体性の高さゆえに素材同士の組み合わせで魔道具化も困難、だっけ。
…………あ~、だからか。その難易度の高さが理由で再利用がムズイのか。
「……いや、これスゲエな。再利用できないから実用性はそこまで高くないけど、技術力って意味での芸術性だとスゲェ……」
「わかるのかい?」
「素人だから一見しただけじゃわかんなかったけど……この素材で遅延と大きさ可変性、加えてこの携帯性。アンタの娘さんホントスゲェぞ」
「……魔道具のことがわかる開拓兵さんは珍しいね」
「いるにはいるだろ」
「魔道具そのものの知識が豊富な人は、ね。でも素材からそこを判断できる人は中々いないよ」
?
そういうモンか?
俺なんかがわかるんだし、他の人たちもわかると思うんだけどなぁ。
「大抵が魔道具という大きな括りでの機能性と経験則で判断するからね。地面を利用して大きな針を生み出す魔道具は指輪や腕輪でそういう魔道具がある。一時的に大きな槍を生成する魔道具も存在する。そういう知識で判断している開拓兵たちにとってこの大きさかつ元に戻せない使い切りの魔道具というのは論外なんだ」
「あ~、魔道具の性能を一覧で憶えてる感じか。確かにぃ……その節はあるなぁ」
否定ぃ……できないッスねぇ……。
確かにこれまで他の人らと話してても性能とかばっかで技術力がどうとかってのは言ってなかったっけ。
触れて……どの工房の魔道具が安定してるとか壊れにくいとかその逆とか、どの商会で取り扱ってる魔道具がどうとかそういう。
「まあ、俺の場合は色々教わってるんで。
「おお、なるほど。それはなるほどだ」
種族的な信用度がヤベェな。
「それはともかく。これ、二個くれ」
「あいよ」
――――Quirk Side――――
「お、珍しいな、お前がこんな時間に独りなんて」
「アタシだって休みくらいとるわよ。アタシをなんだと思ってるの?」
「変態」
「……仮にも女にヒッドイわね」
「自分の胸に手ぇ当ててみろ」
「男を誘惑するための武器が二つあるわ」
「悔い改めろ『友情壊し』がよぉ……」
(……なんだったのかしら? 用事があって声を掛けたんじゃないの?)
独りの食事。
声を掛けられるもほとんど会話が行われることなく終わることで覇気が抜かれ、それまで保っていた姿勢が崩れる。
「ホント、退屈……」
用事がある。
そう言ったはいいがそう言った理由のほとんどが休むことを知らないヒイラギに休みを受け入れさせるためのもの。
正確にはちゃんと用事があるのだが、一日が潰れるほどではない。
開拓兵としての活動後、夕方でも済む用事だ。
何せこの街は眠らないのだから。
「はぁ……」
(異世界人なら……アタシも……期待しない方が良いわね。普通に、ただの開拓兵仲間として。後輩として……)
「……はぁ」
「これは珍しい光景だ。キミが一人でいるのみならず溜め息続きというのだから。狙っている男が存外手ごわいと見える」
「言っておくけどアタシだって普通に悩むのよ? そりゃあ今も男関係で悩んでるんだけどぉっ」
カッと表情を崩すクアーク。
背後から声を掛けた緑の
「……久しぶりね」
「ああ、久しぶりだ。キミが活動時間を変えてから会っていなかったからおおよそ四か月か」
「……調子はどう?」
「良い――とは言えないな。以前から坑道の様子が変だったが最近は以前に増しておかしい。その調査で俺も、アーリックもガーランドさんもギルドからの指名依頼をこなす日々だ」
「……大変ね」
「構わんさ。キミがいなくなって負担が増えたことへの小言は稀に言いたくなるがね」
「謝らないわよ?」
「求めていない。疲れた時に出そうになる心にもない呟き、という程度だ」
「心になくとも頭にはあるじゃない」
「それくらいは許せ」
「わかってる。元を正せばアタシ、でしょ?」
「ふっ」
追憶と軽口。
クアークの視線がふと遠のく。
焦点がブレる。
「今は、どうしているのだ?」
「言ったでしょ、男のこと考えてるって」
「如何様な者だ」
「……異世界人。自覚はないんだろうけど挙動不審。嘘が吐けない人間。人間不信交じりで、多少の改善の跡は見えるけど表情が張りついてる。思い込みが強くて独りで突っ走りがち。なんでも独りで抱え込もうとする。ろくでなしを自称する癖に頼られたら断らないお人好し。多分誰かしらからアタシのことを聞いてるのにそれとは関係なく普通に接してくる。相手を個人でしか認識してない。その癖に名前と顔の記憶力が低い」
「……いつから一緒なのだ?」
「二日前」
「そ、そうか……」
短期間のうちに重なった感情。
その濃さに
「その者の名は?」
「ヒイラギ。元々の名前は知らないわ、使う気もないらしいけど」
「そうか。今のキミと行動しているから会う機会はないだろうが、もし会うことがあれば気に掛けることくらいはしても良いやも知れぬな」
――――後書きの前に――――
書くことは色々あるだろうけどもその前に文中で表記していなかったから想像し辛いだろうなと思い出した点について情報を開示することにしました
登場人物の想像がし辛くてゴメンなさいね
必要ないと思ってたんです……
ある程度復習をしつつ時間経過で変化した部分があればそこも訂正
――――後書き――――
ヒイラギ:17歳 身長一六七→一六八 【洗脳:対象に干渉し、自在に操る能力】
髪は世界渡来直後は一般的な高校の校則に則った範囲での長髪(髪確認から時間が空いていたため実は髪が耳に掛かっていたし目に少し掛かっていた)→世界移動によって成長が加速し、現在肩に掛かる程度まで伸び、一部は背に届くほどに
髪色も変化し、褐色が暗んだ一般的日本人の髪色から白と青と緑の髪に(比率は3:3:4。基本は白と青のツートンカラーでそこに緑のメッシュが入り、ごく少量の白と青のメッシュが入る)
顔面偏差値は平均程度ではあるが目元の薄い隈や目つき、表情の使い方によって周囲からの評価は下の上
体格は元々小食ゆえの痩せ型で筋肉はないが脂肪もないための筋肉が浮き出た体型。訓練によって体脂肪は平均未満ながら体重は平均程度まで戻る
自称の性質は猫
桂木香月:17歳 身長一五二 【活性化:対象を想定されている条件での稼働を行わせる、またその加速】
メカクレ
魔的要素の濃い食事を行っていない、魔術の使用回数が少ないなどの理由によってヒイラギがノースミナスに行った時点では髪色に変化はなし。ヒイラギにニキビを指摘され、髪は貞子からポニーテールに(額と頬にニキビがあるためメカクレも止めるように言われたが落ち着かないと拒絶、最低限頬を髪で隠して蒸れるようになるのは止めた模様)
アデル:23歳(既に誕生日を迎えている) 身長一六八 上級騎士
光の加減で金にも見紛う亜麻色の髪
制限の多い試合でなら彼女に勝つ人物は幾人かいるが、装備など一切の制限をなくした場合であれば勝率第一位は彼女。一対一でも混戦でも変わらない。苦手分野は魔術(低級下級中級上級特級の分類があるが、中級までは完全に、上級はいくつか使える。特級はほぼ使えない)
ヒイラギのいた国ほど容姿が重要ではない価値観の国ながらも彼女の素顔を見た者は多かれ少なかれ魅了されるほどに整った顔。曰く――芸術品のように汚すことを禁じられている気分になる類の整い方らしい。それでいて万人に通じるほどの美しさ(国が一つで閉じた価値観だからという理由もある)
イヴォンヌ:16歳 身長一六二 魔術種に似た耳を持つものの魔術種のそれよりも短く、尖りも少し弱い 種族としては分類されない類
絶壁胸。弓使い
緑(常盤色に近い)の髪と紅い瞳
血色が少し悪い顔、眠そうな目つき(チベットスナギツネ的)
何かを求めて随所を転々としているらしい
ベアトリクス:27歳 身長一七八 |戦女種《》:見た目は普人種とほぼ変わらない。筋肉が特殊で魔的な効果を持つため同じ体格の人物の約4倍の筋力を持ち、身体強化による上乗せで更に強くなる。筋肉は普通よりも1.7倍の重量
赤い長髪。だが結んでおらず戦いの際は全身への身体強化によって過度な靡きを抑えている
戦闘力が高いが基本的には王都ギルドに滞在している。理由はギルド(国)からの依頼で密かに新人育成をしているから
マユゲ:年齢不詳 身長一二〇
外ハネ短髪 特徴的な太目短め眉 空色と紫色のツートンカラー そこそこ女性的特徴のある身体 緑の右眼と黄の左眼
サイカ(薬師):25歳 身長一七七
白髪を主体として赤メッシュの長髪(腰から尻辺りまで)
黒地に赤の服(チャンパオ的な服)を着ている
生まれつき病気になり易かったため何度か死にかけた。現在は度重なる病気で免疫が付いたため病気になることはほとんどないが、15歳の頃から両目の異常に悩まされており現在はその治療のために東奔西走。目の異常が理由で目つきが険しく、目隠しの下も痛みを堪えるために基本的に目つきが険しい
薬煙草を吸っているため喉が少し痛んでおり、元々低音気味の声は更に低音。ただし笑い声は高い(全力で笑うと咳き込む)
シャプレ:25歳 身長一六一
濃紺混じりの金髪 後ろで三つ編み 背中くらいまで
地味と美女の間を反復横跳びする類の顔。表情次第で。無表情だと間違いなく美女だがそうなることはまずない
特殊な魔術素質を持っている が、強いわけではない 魔力が少なく、どれだけ鍛えても魔力上限が伸びることはあっても魔力保有量が増えることはない。回復してもすぐに体外に放出されてしまう
クアーク:21歳 身長一七〇
灰青色(薄い灰色)の肌と紅藤色(くすんだ淡い赤紫色)の髪 左側の髪を細い三つ編みにして先端をヘアカフスで止めている(なぜかその部分だけ髪の成長速度が早い) 他は長くても肩に付く程度
見た目良し、家庭力高し。趣味悪し
他者に対して好意を抱く第一基準が『自分以外の女に興味を持っている事』。ただし『自分に好意が向いた』時点で好意は消える
ヒイラギとはある意味で相性が悪い。それが良いことか悪いことかはクアーク本人次第
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