第26話 白と色
――――前書き――――
元の話と乖離してるから基本的に元の話を読み返すことないんですよ
あるとしたら登場人物の口調とか一人称とかを忘れてたり曖昧だったりした時
実際今回ちょっと気になることがあって元の話を読み直して、そしたら意図せず元の話と近いことをしていたという……
確かに主軸部分は理由があってなぞってはいるんですけど、展開の仕方とかはそれぞれの世界線で違うんです
けど同じような展開していて、自分ってワンパターンなんだなぁって……
はい、それだけです
――――――――――
「ふッ! はぁッ!!」
訓練用の木剣が標的を撃つ。
木剣そのものは当たらず、けれど表面に刀傷が刻まれる。
そのまま一センチ、二センチと間隔を開け。六センチを超えたところでそれもなくなる。
「くッ……もっかい!」
繰り返す。
修復した標的を撃つ。
木剣そのものの攻撃から始まり、六の刀傷。
七つ目はつかない。
「もっかい!」
変わらない。
「もっかい!!」
変わらない。
「もっかい!!!」
幾度となく繰り返す。
魔力を木剣に流し続け、魔術回路に魔力を流し続け。
木剣よりも先に魔術回路が焼ける。
熱とは異なる理由で、腕がその回路形状を表す。
肌色が徐々に色を抜くように、彩度全てを上げたように白んでいた。
それが限界に至り、腕の疼きを無視して魔力を流した時――腕が僅かに裂ける。
「――? ……は、はは。ここまでやって成果ナシかよ」
変わりに治癒魔術を左腕で掛けて焼き裂けた右腕を治す。
練習中、それも左腕で行う魔術行使は難易度が高く治癒までに時間が掛かる。
さらには治癒能力の問題で表皮が僅かに色落ちたまま。
魔力を流そうにも回路破損によって穴の開いた管のように魔力が漏れ、また魔力の流れが歪んだことによって無関係の魔術回路に対しても正しくない負荷が掛かってしまい回路破損が伝播する。
「はぁ……『才能』なんて言葉、弱い奴が使う言葉だけど。…………才能ないのかな、俺」
消耗した体力、摩耗した精神。
電池の切れた機械のように動きを止め、後ろに倒れ込む。
舞う土ぼこりが汗に纏わりついていた。
「……負けるな。負けるな俺。心が折れたらまた……」
疲労は思考と現実を曖昧に、その多くを出力させる。
「いつも通り、そう、いつも通り。――へへっ、この程度で折れるほど柔なメンタルしとらんわい! もっかい――そうだ、魔力操作したらダメなんだ……」
やる気を出し。
訓練出来ない現実に再び意気消沈。
起こそうとした身体は気力を失ったことで滑りこけたかのように再び地に伏す。
「マユゲみてぇだ……」
体表に刻まれた魔術回路。
それはマユゲの体表に浮き上がった魔術回路と似ている。
違うのはマユゲのそれは時間経過で体表魔術回路が変化するのに対し、ヒイラギのそれは変化しないこと。
「何ぶつぶつ言ってるのよ……まったく、無茶して……」
「俺、物覚え悪いからさぁ、こうやって脳みそ筋肉にしてひたすら練習しないと強くなれないんだよ」
「やり過ぎ。それに教えたこと全部一日で憶えろなんてアタシ、言った?」
「……」
「言った?」
「言って、ない……」
「こっちも先輩後輩の立場で接する以上ある程度自分がどう動くかは考えてるの。計画はあるし計画がある以上は必要なことはちゃんと伝える。言ってないことは必要以上に、身体を壊してまでする必要はないの」
「……」
「わかる?」
「はい……」
本気で考えたうえでの言葉。
以前まで、前世では久しく経験のなかったことがこの世界に来て頻繁に行われている。
ヒイラギという一個人と向かい合った。その反応。
それが嬉しくもあり、また説教を受けているという事実が自分の成長のなさを表していて悲しくもあった。
「……見た感じ負荷が限界を迎えてすぐだから後遺症は残らないと思うけど。その後はもしかしたら残るかもしれないわね」
「まぁ、気にせんよ」
「今気にしなくてもそのうち気になるかもしれないのよ。ヒイラギがこの国に馴染んで、この国の文化が染みついて来たら、ね」
「……ん~」
過負荷による魔術回路の肉体に対する析出は人によって自己管理の未熟さや命を粗末にしている、長期的な視点の欠如と捉えることもある。
それを意図的に態度に出したり嘲笑したりということはないものの、それを理由にパーティを断られることは少なからずあるのだ。
一見すればマユゲのモノと同じヒイラギのそれも、ちゃんと見れば別物であることがわかる。
わかれば明確に違うがために誤解による態度の軟化もない。
「整えてあげる。手、出して」
「ありがとう」
「【念糸】っていう技術があってね、それそのものは魔力を細く束ねて扱う文字通りの糸として使うだけのものなんだけど。その魔力を一定の太さで伸ばす技能を応用してヒイラギの魔術回路に挿し込めば――」
「んっ」
「……妙に艶めかしい声を出さないでくれる? 襲うわよ?」
「やめて……」
舌なめずりをしながらジッと顔を見つめてくるクアークの姿にヒイラギは実感としてクアークが『クアーク』であると理解する。
「どう?」
「……多分、大丈夫? 痛みが結構引いた」
「一晩ちゃんと休んだら大丈夫なはずよ。限界量はまだ元通りにはならないけど普通に戦う分には大丈夫」
「本当にありがとうな」
「ったく……」
破損した魔術回路を整え終えたクアークは繋いでいた手を離し、軽くヒイラギの頭を叩いてその場から遠ざかる。
「ご飯にしましょ」
「あれ? 食ってないのか?」
「せっかくだしヒイラギと一緒に食べようと思って待ってたのよ。宿で食べるって言ってたから」
「ごめん」
「約束してたワケじゃないからそこは別に良いわよ」
「ヒイラギちゃんおかえりなさ~い。魔力がちょっと淀んでるわねぇ、ちょっと頑張りすぎちゃった?」
「わかるんスか?」
「わかるわよぉ」
「ヘーゼルちゃんは昔開拓兵だったのよ。それも遠征経験複数の」
「スッゴ……」
ヒイラギの向ける尊敬の眼差し。
だがそれを受けたヘーゼルは小さく首を横に振り、青く染まった左脇腹を指し示す。
「運が良かっただけなの。初めて組んだ仲間がわたしなんかよりずっと強くて、わたしはずっと弱くて。だから遠征に行った時に失敗しちゃって、呪いを受けて前線を退いたの。……足手纏いのままだったわ、いつかあの人に背中を任せて貰えるくらいにって思ってたのに」
「そう、なんですか……」
「ごめんなさいねぇ、こんな湿っぽい話しちゃって」
「いえ……」
大丈夫ですと笑うヒイラギは、すぐ神妙な面持ちで呪いを見つめていた。
「そっかぁ、呪いでその口調に……」
「違うわよ」
「違う違う」
「え?」
「これはわたしが女の人に憧れてるだけ」
「でも呪いの症状が見て取れないし……」
前線に出られないほどの呪い。
症状は重いはずだ。
けれどヘーゼルはなんてことなく過ごしているように見える。
手足が使えないということも、喋れないということも、魔力が失われているということも感じ取れない。
手足はどちらも正常に機能しているように見え、会話も成立し、魔力もヘーゼルから発されている。
問題はないはずだ。
「受けた呪いは魔力免疫低下って言ってね、言葉通り魔的なモノに対する防御力が下がるのよぉ。遠征で毒を受けたらほとんどの確率で治療の余地なく死んじゃうし、魔の濃い場所に行ったら体調不良を起こすどころかそれで死ぬ可能性が高いの。この街くらいなら大丈夫なんだけど、遠征に行ったらそもそも魔が濃かったり、乱戦で魔術の大量行使されちゃって魔が濃くなったりして絶対余計に足手まといになっちゃうから」
「……せっかく話変えようとしてくれたのにすみませんっ」
少し苦い表情を見せるヒイラギ。
そんな様子にヘーゼルは気にしなくて大丈夫だと笑いかける。
「そんなことより食事にしましょう、ね」
「うっス」
「ヘーゼルちゃん、今日は薬膳系でお願いできる?」
「あらぁ? 無茶しちゃったのねぇ。良いわよぉ、ちょっと待っててねぇ」
お品書きにはない薬膳料理。
だがそれを頼むとヘーゼルは特に気にした様子もなく厨房へ向かっていった。
「おっ、薬膳料理か。あの人のはかなり効くからなぁ」
席について纏うとしたところで不意にそんな声が聞こえる。
特に語り掛けられたというわけではなく、ただの独り言の範疇だったがふと気になって目が向いた。
そこには灰と白の斑髪を後ろで束ねた男。
「げっ、ロイド……」
露骨に、見せつけるように不快感を表す。
そこから読み取れる感情は『鬱陶しい』。
「ははは、さっきギルドで断られたばかりだからキミには興味はないさ。今俺が興味を示しているのはそこの彼。それとも気が変わって一夜を共にする気になったかい?」
「まっぴらごめんよ」
虫でも払うように手を振るクアーク。
ロイドと呼ばれた男はそれを意に介さず、直前の言葉通りヒイラギに目を向けていた。
「異邦のキミ」
「はい?」
「俺と一緒に夜の街に繰り出さないか?」
「あの、いえ、ご飯食べたら寝るんで……」
距離感を無視して肩を組むロイド。
それを強く拒絶することも出来ずに苦笑するしかないヒイラギ。
「俺が大人の遊びを教えてやるからさ。もちろん金は俺が出す」
「あ、あの、俺普通に好きな人いるんで。はい……」
そう口にした瞬間。
ギリッと小さく、歯ぎしりの音が鳴った。
ふと視線だけロイドの方へ向けると何故か取り繕ったような笑み。
加えて言えば理由は不明だがクアークの方から悪寒がしていた。
「そ、っか。いやぁ、邪魔したね」
ロイドは残っていた酒を一気に呷ると自室へ戻る。
入れ違うようにヘーゼルが飲み物を持ってやってきた。
「もう少し待ってねぇ」
「あ、はい」
机に置かれた水。
腰を下ろすとロイドが来た時から離れていたクアークが再び近づき、隣に腰を下ろした。
「一途、なのね」
「――ただ一人、俺の全てを受け入れてくれた奴なんですよ。だから、自分よりも大切な奴ではあります」
「……なんで敬語?」
「っと、直前までのが。ま、愛かどうかはともかく自分より優先度高いわな」
「自分を大切にって言いたいんだけど……一途、なのね」
「よせやい、そんな大層な人間じゃねえよ」
愛が分からない。
そう思う一方で愛されたいと思う。
自分の中にある物足りなさが何なのかはわからない。
もしそれが愛に飢えているのだとすれば、愛が欲しいと。
多くに愛されたいと。
だが同時に自分を曲げたくもないと。
歪で自分勝手を自覚しながらも、そう願い続けている。
そんな自分は褒められる人間ではないのだ、と。
「ヒイラギはきっと良い男になるわよ。今からでも手を出しちゃいたいくらい」
「おやめなさい」
「一晩、どう?」
クアークはヒイラギの手にそっと触れ、自分の胸に触れさせる。
「……」
「ね?」
強く押しつけ、手に手を重ねることで無理やり揉ませるクアーク。
突然のことに一瞬思考が停止するも即座に我に返り、どうにかできないかと考えつつふと右掌の感触に意識が向いた。
服の硬さと胸の柔らかさ。
何気なく一度胸を揉み、苦笑する。
「アッハッハ! 気分じゃねーや!」
「――酷い振り文句ね」
あまりにも素直で配慮のないセリフにクアークも呆気にとられ、苦笑を漏らした。
「そもそも人のお店で、それも他の人の目もあるのに盛ろうとしないでくれるかしらぁ?」
「はーい、ヘーゼルさぁん。俺は悪くないと思いまーす」
「そうねぇ。クアークちゃん、また前みたいなことしたら追い出すからね?」
「わかってる。ヤるならちゃんと外に行くわよ」
そもそも数多の男に手を出そうとするのはどうなのだろう。そう思うヒイラギなのであった。
――――後書き――――
ギルド職員 クロッカス、ジェット、オーキッド
ク:ジェットさん、この資料お願いします
ジ:わかりました。――クロッカスさん、この資料のこの人なんですけど――
ク:え~、ヒイラギ? あ~……え~っと――あ、いたいた、オーキッドさーん!
オ:はい? どうしましたか?
ク:このヒイラギって人のことでジェットさんが気になることがあるっぽいんだよね。確かこの街で担当したのってオーキッドさんでしょ? 分かる範囲で良いから教えてあげてくれない?
オ:ヒイラギ? ヒイラギ……ああ、異世界人の。登録してすぐの頃に秘匿面談しました。へぇ、ゼーフルスからの資料に入ってるってことは昇級したんですね
ジ:そうらしいです。特に事前資料や届いた資料に不備があったというわけではないんですけど、ただ……異世界人にしては適応速度が異常なほどに早いと感じまして
オ:登録してから今で二週間。実際に昇級試験参加した時期を考えると一週間ほどでしょうか。確かに早いですね
ジ:届いた資料には『多少の精神的不安定さはあるものの一般的範疇であり思想自体も特筆すべき異常性は察知できず。異世界人であるため偏った思想を有する者との接触を抑えるようギルド側で注意、補助を推奨』と
ク:変な思想をこの国の常識と思われたら困るからねぇ、この辺りは普通じゃない? 言われなくてもギルドの仕事だし
ジ:そこですよ。本来は言われずとも行うべき仕事、そもそもこうして資料に表記されることはありません
オ:そうですね……言われてみれば私も資料にこう書かれているのは初めて見ました……
ジ:その理由は、あくまでも経験上の認識ですが――異世界人は基本的に鍛えた肉体を有してはおらず殺し合いへの忌避感が強いため昇級試験への挑戦権を得るまでに約一ヶ月を要します。そのためその間にある程度の『常識』というモノは身につき、多少無知な新人と大きく異なることがないため
ク:おおよそ、そうね。なら早すぎる昇級速度がその表記の理由じゃないの?
ジ:恐らくは。ですがオーキッドさんの作成した資料と照らし合わせてみると少々引っかかることがあったので資料内容の再確認も含めて面談したオーキッドさんに直接話を聞ければ、と
オ:そうですね。まず第一印象は『人間不信であり人間嫌い』でした
ジ:……
オ:眼差し、座り方、表情、口調。明らかな警戒心が見て取れ、他者に対する嫌悪感と言いますか、他者と接することを面倒に思っていることがわかりました
ジ:なるほど、人間不信かつ人間嫌い
オ:第二印象は『不安定な純心』
ジ:純心?
オ:お二人ともご存じの通り、私は秘匿面談を行う際は多少の冗談などを交えながら行います。同様のことを彼にも行いました。……もちろん認識に不備が生じる嘘は言ってませんし冗談を言った場合は少しして訂正を行っています
ク:オーキッドさんそういうの好きよね
オ:冗談への反応で人間性がわかりますから。……そしてその冗談を通じて判明したことなのですが、彼は酷く他者の話を信じやすい
ジ:人間不信でありながら他者の話を信じやすい? 矛盾していませんか?
オ:どうやら彼は表情や声音によって話の内容を判別する傾向にあり、私が真面目な表情で冗談を言った場合はどんな冗談でも真剣な表情で聞き、逆に笑いながら本当のことを言った場合が笑って返していました。これで同時にわかったのは彼は『初対面の相手には常に表情を作っている』ということ、そうでありつつも『感情はそのまま表現している』ということです
ジ:他者に対して仮面を被ることで対話を可能としている、ということですか
オ:秘匿面談以外にも交流した際に聞いて判明したことなのですが、彼は他者に対して『嘘を吐かないことが一般的』と思っています。より詳しく言えば『必要な際以外は嘘を吐かない』、です
ジ:随分と生き辛そうな思考をしていますね
オ:冗談から続けて話をすると彼も冗談で『本当にぃ?』と言いますが基本的には他者を疑いません
ジ:……一周回って馬鹿なんですかね?
オ:……一応友人なのでそういう言い方は……
ジ:……申し訳ありません
オ:話を戻しますが、彼は少々他者との距離感がおかしいです。初めは他者との距離を取ります、ですがある程度親交を深めると唐突に距離感が近づきます。他者との間合いの把握ができてません
ジ:……個人感情が混ざっていませんか?
オ:…………失礼しました
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