第18話 吐露

「今日帰るんだっけか?」

「ああ、試験はもう終わったからな」

「またそのうち来いよ、それまでに遠征開拓兵になっておくからお前も遠征開拓兵になってよ、一緒に海に出ようぜ」

「ふっ、俺はともかくそっちはなれるのかよ」

「言うねえ、俺より弱いくせに」

「23戦1勝22敗……不意打ちでしか勝ってねえからなぁ。今度会う時は遠征の前にもっかい勝負だな」

「待ってるぜ」

「ああ」


 筆記試験、対人試験、実技試験、面談。

 全過程を終え、ヒイラギは無事に合格した。

 この街で親しくなったデューベやその他の開拓兵たちと飲み明かし、現在は昼前。

 別れの挨拶を交わし、新たな友人たちと拳を交わしてヒイラギは魔導船に乗る。


「……初めは試験と買い出しだけのつもりだったけど。意外と結構、楽しかったな」


 更新された開拓兵証カードを見て、昨日の出来事を記憶違いではないことを再び確かめる。

 書かれた数字は『1』。

 まだ出来ることには限りがあるが『口座』と『購入権限拡張』は与えられている。

 これで買い物の際にギルド加入店であればわざわざ現金を持ち歩く必要はないし、より強い装備を買えたり作ってもらうことが出来る。


「落ちなくて良かった~」


 他にもいくつか機能はあり、その中でヒイラギ自身は利用できないが重要機能なのは『達成依頼系統記録』というモノ。

 内容はその名の通りそれまでに完遂した依頼の種類と達成数などの保存。

 例えば下水路依頼のように、ギルドは定期的に人里近くのモンスター頻出地の全域調査を行っている。

 それは当然ギルド職員だけでは人手が足りず、開拓兵に依頼を発注するのだ。

 その依頼の受注条件――実力や調査依頼であれば調査報告書の完成度など。

 要約すれば『依頼をこなすほど受けれる依頼が増える』ということだ。


「へっ。良いねぇ、新たなステージなんてワクワクする」




「ウ~ッス」

「おかえり。どォだったよ」

「良かったぜ? 楽しかった。お土産も色々買って来た」

「あァ、街に入った時点で収納空間と接続してっから中身は把握してる」

「……」

「あ~、アレってサプライズだったのか」

「ホントお前、お前ホントっ! しまいにゃ泣くぞ!?」

「今回に関しちゃ、ワリィ……」


 色々買ったのに!

 せっかく色々見て回って買ったのにぃッ!


「まァ、なンだ……。オレの管理してる空間に入れたオマエも悪いってことで……」

「マユゲさぁん?!」

「……頭絞めるなら全力でやれよ」

「ホンット! これでも結構力入れてんだぞ!? 実力差あるの知ってるから強くやってんのに! せめてこういう時は受け入れません!?」

「断る」

「楽しそうだなァ、オイ」


 お前のそういうトコまじでムカつくわ。

 俺より性格悪いんじゃねぇか?


「お前はひねくれ方が素直過ぎだァ。根元で歪んでからそのまま直進してンじゃねェかよ」

「違いますぅー。グニャグニャに捻くれてますぅー、分かった気にならないでくださーい」

「そういうトコだ」

「……」

「せめてなンか言え」

「お前の嫌がることって何? 全力で弱いトコ突きまわしたいんだが? セクハラ? 胸でも揉めば良いか? うなじを全力で吸えば良いか? 太ももにでも挟まってやろうか? お腹に全力で頭こすりつけてやろうか?」

「お前の性嗜好じゃねェか。なンだ、抱いて欲しいのか?」

「や、いいです……はぃ…………」

「はっ、腑抜けがよォ」

「童貞にはちょっと厳しいです。それに抱かれちゃったら羞恥で死ねる……」


 まだこっちが攻めなら行為に集中する分マシだろうけど受けになると意識がそっちに向くから、うん。

 本気でやめて……。

 考えただけですっごい恥ずかしくなってきた。


「はははッ、お前がオレを夢中に出来たら抱いてやるよ」

「ヤメテっ!」


 耳がヤバいくらいゾクッとしたぁッ!

 性癖が壊されちゃうっ。

 元からアレではあるけど……。


「まァ、それはさておきだ。これからどォすンだ? オマエ」

「とりあえずギルドに顔見せに行くかなぁ。一応昇格報告はしたけどその時知り合いほとんどいなかったし」

「そォじゃねェよ。今後の活動についての大まかな考えだ。正直この辺じゃァロクな依頼ねェぞ」

「あ~、そうだなぁ。適当に他の街行くかぁ……どっかに行って、戻って来て、どっか行って、戻って来ての繰り返しだな」

「別にオレにこだわるコタァねェよ?」

「俺がお前といたいんだよ」


 そりゃこだわるに決まってるでしょーが。


「……なンでだ?」

「なんで、ねぇ。恩返し……お前のために何かできるならしたいって感じかなぁ?」

「あァ? 恩だァ?」

「情けねぇことに虚勢張ってたんだよ。【洗脳】とかいう力得て、いかにも悪人な力で、まるで世界に悪人って決めつけられたみたいで、多分その心の弱さに気づきたくなくて香月ちじんに能力使って、悪人みてぇに振舞って、俺は気にしてないんだって振舞おうとしてた」

「……」

「だけど、お前マユゲと出会って。世界に貼られた『悪人』が通じなくてひていされて。そっちは恩だとか貸しだとか思ってないかもしれないけどっ。俺は本当にそれに救われてッ。……だから、出来るなら俺に出来るならやりたいんだッ。きっと俺はあのままじゃ心が壊れてたからっ」

「……そォかよ」

「だから! 何かあるなら俺に言っ――ッ!?」

「アホが……」


 殴ッ……なんで……。

 いらない?

 俺に利用価値なんてない?

 研究価値も?

 髪色も、眼の色も変わって……だから?

 純粋な異世界存在じゃなくなったから?

 それとももう研究が終わ――


「オマエ、オレの左眼のこと憶えてるか?」

「確か、思考読みの魔眼だって……」

「そうだ。思考が読めるし嘘も見抜ける」

「……」

「それを周りに言えば怖がられることだってあった、心を覗かれたくないってオレから離れていった。必要に駆られてオレと話す奴がいたが嘘がわかるってわかってるにも関わらず嘘を吐く奴が散々居た。……普段の習性だろうな」

「それと俺とになんの関係が……」

「頭の足りねえ奴だな。オレだって似たようなモンだよ。能力そのものは悪じゃない、それを持つ奴そのものも悪じゃない、そういう社会でだって怖いのは怖い。だから逃げる」


 俺と……似てる?

 俺と……マユゲが?


「オマエ、オレに対して一度だって嘘吐いたことないだろ。吐こうとしたことも。言いづらくて言い淀んだことはあっても、まあそれも基本恥ずかしくてって理由が付くがな」

「そりゃ、嘘吐いても得ないし……それにお前には嘘を吐きたくなかったから……」

「オマエさ、オレに不満とか抱いても嫌悪感とか憎悪とか、向けたことないだろ。そういうの、オレわかるからよ」

「なんていうか、それは、冗談の範疇だし……」

「他人の憎悪を感じるし、嘘も考えてることもわかる。オマエはそういうの、無視して来た。それがオレにだって救いだったよ」


 俺が……。

 マユゲの、救いに?

 けどそれを言ったらマユゲと仲の良いシャプレだって。


「アレは事情がある。そもそも仲良くはない」

「え……」

「つまりな。――気にするなバカ!」

うぇえっとうぇっと?」

「オレとオマエは対等だ! それでオレはオマエの枷になる気はない! 好きに生きろッ! バカッ!」

ほぁはいふぁい!」


 俺は……どうすれば?

 結局、好きに生きて良いって……。

 ほっぺ……。


「いちいち帰ってくる必要はねェってことだよ。来たい時に来い。オレを前提に生きるな、オマエの生きたいように生きろ」

「わか、った……」

「お前の生き様でよ、オレをもっと惚れさせてみせろよ」

「――ああ!」




――――後書きの前に――――

 メンドクサイメンタルしてるよね、ヒイラギ

 自分の心を偽っているというか、自分の本心に自分自身気づいていないから地の文でも信用しきれないし

 まあ、自分が自分自身理解できないのは人間誰しもそうですね


――――後書き――――

ヒイラギ マユゲ


マ:とはいってもいきなりじゃお前もやりたいことわかんねーだろうからな、今回はオレが行き先決めてやるよ

ヒ:お?

マ:ノースミナス、行ってこい

ヒ:うぃ。ちなみにどういう理由で?

マ:現状のお前が一番効率よく成長できそうな街、というかモンスターが相手できる。あとそこで色々買ってきてくれ

ヒ:後半が本音ではなくって? まあ、優柔不断な俺には良いか、決めてくれるのはありがてーわ

マ:ついでに課題をいくつか出してやる。ほとんどがモンスター討伐だからしばらく過ごしてりゃ勝手に達成できるが、これは最重要だ

ヒ:え~と? ノースミナス滞在期間中は常に同じ人物と組み続けること?

マ:人数の増減は構わねェが固定の誰かとは一緒に居続けろ

ヒ:上がりたての一般に付き合ってくれる奴いるかなぁ?

マ:やれ

ヒ:うっす。……ノースミナスについて詳しく調べるかぁ。……あ、今夜帰りません

マ:――……風俗行くのか

ヒ:ぶっちゃけ、こっちに来てからゴブリンと戦ったり盗賊どもと戦ったり、ゼーフルスじゃ強い人と戦ったり……生存本能が刺激されてどちゃくそムラムラしてます。一人で発散を試みましたが一〇を超えたあたりで変化がないことに気が付いて諦めました、てことで……行ってきま――ぐぇ

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