第16話 異なる環境、応じた性質
――――前書き――――
今更ながらのこの世界の単位系統プチ解説
メートル:二秒間隔の振り子の長さを基準にした
実際にはコンマゼロゼロ数秒多い、コンマ数センチ短い
その後他単位との擦り合わせで基準再訂
秒:分の六〇等分
→特定鉱石の特性に合わせて秒再定義(現代使用されている秒定義)
分:時の六〇等分
時:日の一二等分
→日の二四等分
日:月の約三〇等分
月:年の約一二等分
年:月の満ち欠けが一二度で季節が巡るという経験から
(60進数になるのは2~6すべてで割り切れるから使いやすいという理由。30,20,15,12,10。そのため時は元々一二等分、後にもう少し区切って二四等分に)
かなり端折りましたが大体こんな感じ
詳しく解説すると歴史が関係して長くなるので……
ちなみに重力加速度は9.8よりほんのちょっと小さい、公転周期は我々と比べると一日あたり秒単位でちょっと長い、離心率は少し違うけど平均距離はざっくり同じ(様々な要因でワリとすぐ変化する。戻りもするけど)
――――――――
「モンスター討伐試験、試験官のシモーヌです。今日と明日を担当させていただきます」
「あ、はい、ヒイラギです、よろしくお願いします」
待ち合わせ場所。
やってきたのは一瞬親近感を抱いた黒髪の職員。
だが日本人のそれと違うのは風に靡いたことで瞬時に理解した。
髪に透けて見える色、日本人なら茶色だろう。
彼女は髄まで黒だった。
光を通さない黒。
けれどその毛先は美しいと感じるほどに透明感がある。
「本日は貴方がどの程度動けるかの確認を行います。目的地は昨日の対人試験の情報を素に決めさせていただきました」
「了解です」
職員の制服。
その上に開拓兵としての装備を纏ったその見た目。
現役時代のモノを装備しているのだろう、豊満な胸を抑えるその胸当ては修理してなお残る細かな傷や凹みが見えた。
「……これはお気になさらず」
「あ、すみません……」
次に目を引いたのは口元の刺青。
向かって左。口の右端から外へ伸びる灰色の模様。
注意深く見ればその中に鋭い傷跡があるのが見える。
(カバースカーってヤツか……)
戦いでついた傷。
それは国衛のために戦った証であり、それを醜いと侮蔑するような幼稚な常識はこの国にはない。
が、本人がそれをどう思うのかは別であった。
己の未熟によって生まれた消せない傷。
当人には恥であった。
「今日行くのはどこですか?」
「海岸沿いの先にある海蝕洞です」
「東側、ですか」
「その中でギルドが試験用に管理している場所に向かいます」
「ってことは情報は一般公開されてないですね」
「はい。初見での動きを見させていただきます」
「後方で見させていただきます、距離の指定などはございますか?」
「一〇メートルくらい後ろでお願いします」
足裏に刺さるな、安全靴的なの履いてくれば良かったか?
「ちなみに、道の指定とか時間制限とかってあります?」
「そういったモノは特にございません」
「了っ解。あ、あと、シモーヌさんの立ち位置ってどう考えたら良いですかね? 戦力換算しないのは当然として、いない扱い? それとも護衛対象扱い?」
「基本的には荷物持ちとお考え下さい。有事の際にはこちらで対処しますがそれ以外は自衛程度の力まで制限しますので」
「そういう感じですか。はいはい、理解しました。んじゃ行きましょうか」
荷物持ち。
パーティを組んだのがイヴォンヌと……あれはパーティ扱いは無理か。
まあ、共闘関係皆無だし、の荷物持ちの運用方法がわからないし、本当に荷物持たせるくらいで良いでしょ。
予備の武器は自分で持つとして替えの武器はシモーヌに。
回復薬もいくらかは持たせて、戦闘が長期になりそうな時用に携帯光源の予備を持たせる、と。
基本の探索動向は俺でやるとして、一応切り替えが楽なようにある程度パターンを決めておくか、うん。
「っと、敵。はい止まってください――数は三」
この洞窟もそうかは知らんがこの辺の洞窟に出るモンスターは大体が
そこにちらほら
……ホント、脳みそ翻訳の都合上しゃーないとはいえ海蠍はどうにかならんのかね、姿見たことないから実在してた方でイメージ出るわ。
「あー、訂正。別枠で二。多分連戦になるから――一体目に接敵したら時間設定して残り二体の内遠い方の目の前で発光させて目くらましお願いしますね」
「わかりました」
まだ戦ったことないから実力わからんのよなぁ、まあ事前情報だと適性帯ではあるし一体目に先制攻撃しての二体同時相手なら動き方次第でイケるっしょ。
「――行くぜぃ――」
昨日の感覚を思い出せ。
本物の戦場に準備なんてない、一瞬で、全力全開、冷静沈着、イケおらッ!
「活き締めぇッ!」
空気の凝縮、足場の増幅。
加速して下から上へ一気にエラを突き上げる。
よしッ、顎が下りた――ちッ、咬んだか。
「借りっぜ!」
洞窟で長物って使いづれぇッ!
後ろ警戒しつつ突き主体で行きますか!
「すぅぅぅぅ――」
「ボーボッ」
残った二体。一体は目くらましで見当違いな方向へ進み、壁に激突して転倒している。
そして俺は残る一体に奪った三叉槍を向ける。
魔力を纏わせ、右半身を引き、右手を前に左手を後ろにして槍を顔の高さまで掲げて相手の顔に穂先を向ける。
俺が知っているのは剣術の構えだけど使ったことのない槍を適当に振るよりははるかにマシな――右雄牛の構え。
二体目
(やるならカウンター。攻めはほぼ百槍の技術が反映されるけど待ちならこれまでの動きが流用出来――)
思考途中。
殺意に満ちた顔への攻撃。
狙いは正確、避けなければ顔に三つの穴が新たに開く。
(来たっ)
合わせて斜め右へ踏み込む。
右手を前に左手を後ろにして槍を握りそれを右側に構えることで生じていた両手の交差を解くように戻しながら槍を身体の左側へ持っていくことで相手の槍を打ち払い、そして同時に突きを入れた。
と同時に右手で持った槍を手首の角度調節で横にし、腕の僅かな動きと指先の力でその喉へぶつけ、ひるんでいる隙に予備の武器を腰鞘から抜いて
痛みと、そして筋肉や神経が傷ついたことで片足の力を大きく失って体勢を崩したところにすかさず目潰し。
逃げられないように眼窩に入れた指を鉤爪のように折り曲げ、同時に腕を強く引いてそのまま首にナイフを突き立てた。
左脇に抱くようにして拘束し、首を刺されて死に、残るは一体。
「じゃあな」
一体目が霧散する。首に残っていた短剣が落下してカラと音を立てる。
少ししてソイツの三叉槍が霧散し、直後に二体目が霧散。
同じくして立ち上がった三体目の胸にナイフを突き立て魔石を割った。
短剣音に反応して全く違うところを向いていたから何の抵抗もない。
「……あなた、本当に元一般人ですか? 異世界出身の」
「そうだけど? なんで?」
「いえ、短い期間にも関わらずよく適応している、と」
「あ~……ぶっちゃけ俺としてはバカバカしいと思ってるけど生き物殺すのに抵抗感ある奴いるからなぁ。危害を加えてくるなら殺す、モンスターはそういう存在だから殺す。放置すればこっちが死ぬ。生きるために殺すなんて食うために殺すと同じようにやってることなんだけどな」
「生き物を殺すという行為に一定の忌避感を抱くようにしなければ他者の家畜を勝手に殺すという行為の敷居が低くなってしまいますからね。他者の所有物だから殺さない、という理由だけではなくそこに行き物を殺す忌避感という理由を付け加えることで世を保ってきたのでしょう」
「あ~、そういう視点はなかった。なるほどねぇ」
「それと」
「んにゃ?」
「そちらが本来ならそれで構いませんよ。態度で採点が変化することはありませんので」
「あらそう。まあ、俺って気分で口調が変わりやすいから深くは考えなくて良いよ、と。まあ意識して敬語使わなくて良いってならそうするか」
ぶっちゃけ初対面の相手への対応ってムズイんだよねぇ。
まあ、この国って敬語とかそこまで気にしないっぽいし深く考えなくて良いらしいけど。
前の感覚は簡単には消えんわなぁ。
「ほいほい、それはともかく連戦ですよ、と。とりあえずこっちで相手してみっから補助はナシで」
「かしこまりました」
二体――あ~、足音的に追加でサソリちゃんも来てはるわね。
「……物陰で」
「はい」
サソリちゃんのヘイト管理は面倒らしいし隠れててもろて。
んじゃ、やりますか。
「【
まずは
こいつらの鱗はこの実力帯だと高い水準の魔術防御力を持つものの、唯一水に対する魔術防御力は皆無に等しい。
理由としては水という概念に対する『親和性』の高さ。
海中において水という有意を魔術的に発揮する
「うしっ、イケんね」
貫通までは届かず。が、肩を半ばまで抉るのには充分。
流石にそのまま棒立ちで受けてはくれないし、鱗が水中での推進力増大のために水流を操作するから魔術の軌道も若干斜めに逸れてる。
そこは流石に技術不足か。
「ほいほい、折れた腕なんて怖かねーよぃ。腕折り余裕ですた」
魔術で肩の骨に罅が入っている、折るのは容易だ。
ついでに言えば、そもそもこの辺りに出るのは比較的幼い
その証拠に鱗の形状が平坦で棘がないし、色も夜空みたいな暗い蒼。
問題は二体の後、
「綺麗な色しやがって。装備にしてやる」
現れたのは海に溶けるような色、マリンブルーやネイビーと形容するのが相応しい美しい光沢を持った青の装甲を纏ったモンスター。
その鋏角や触肢、背甲、尾節はあまり見た目に興味がなくて着やすい黒ばかり好んで着ている俺ですら美しい、欲しいと思うほど。
「――ッ!!」
前座を倒して得意げになっていた俺を嘲笑うように、尾の先端から放たれた光線のような水の筋が奔る。
僅かな尾の動きから咄嗟に方向を察知していた俺は大きく動きをとってそれを避ける。
見切れなかった。
「……ブネ」
僅かに耳を掠めた。
経験したことのない箇所への痛みは本来のダメージよりも痛覚を刺激する。
【洗脳】を用いて痛覚を半減させ、無視した。
「後ろから、行けっか?」
装甲の重なり構造上後ろから差し込むのが最も楽なダメージ稼ぎ方法。
が、それは相手も理解しているからこそ最も難しい。
事前情報からある程度対処を考えていたが、現実とは非情でそんな甘い算段は不可能だと、自分たちを見くびるなとばかりに確かな実力を威圧感を知らしめて来た。
「……行くか」
水の筋は緩やかな対象には相手――俺の中心を狙って打ってくる。
だからそれを防ぐため、早すぎも遅すぎもしない程度の速度で身体を左右に揺らしていたがそれをやめて一気に加速。
問答無用の水の筋が無数に襲い掛かってきた。
(くッ……)
近づけば密度の増える水の筋。
くぐり抜けて近接戦を挑めば――鋭い鋏の煌めきが胴を狙ってくる。
下手に避ければ水の筋に脳を穿たれ、対処を間違えれば胴体が両断される。
現実は本当に非情だった。
「死ねッ!」
過剰魔力を孕んだ石の塊を打ち出す。
近づいてきた物体を問答無用で両断しようとする
俺の制御可能な限界まで魔力を込めたソレの威力は、こと弾き飛ばすということに関しては秀でていて、破壊しないまでもその鋏を大きく上に撥ね上げる。
そのまま鋏の根元、くびれの部分を狙って短剣を薙ぐが阻まれる。
「らァッ!!」
戻ってきた鋏を踏みつけ、触肢と鋏をぶつけ合わせ同素材による防御無視で僅かな隙間を生み出した。
隙間はほんの二センチほどのヒビと欠け。
切っ先が入り込むほどの余地はない。
「ッ」
反撃を予期して後ろに跳ぶ。
ついさっきまで右脚があった位置に鋭い鋏が襲い掛かり、地面に二つの穴を穿った。
その深さは脛の半ばまではある。
それだけの
(ちッ、このウォーターカッターもどきも鬱陶しいッ!)
刹那、直感で避けた直後に鳴る破砕音。
背後の直線上の壁が砕かれ、僅かな揺れが脚を振るわせる。
「フッ――」
接近、反撃、受け流し。
蒼に削られて銀が舞う。
強い負荷に手首がズキと痛む。
そしてその過程で短剣に魔術を込め、剣身を線に切っ先を指標にして差し込んだ装甲のヒビに魔術を放ち入れる。
ボンッ――そう小さく音を発して内部が焼けた。
魔術を跳ね返す装甲、入り口は剣で蓋を。
炎の魔術は内部で乱反射し、片側触肢を内部から落とす。
「へッ!」
勝ちの確信。
一度の離脱ののち、
今度は蓋が不完全だから炎は外へ漏れ出るが命を絶つには充分だった。
「あ~、つっかれたぁ……」
霧散し、残ったのは一部の背甲。
「そういえばこういう素材って試験中はギルドのモノ扱い?
「いえ、試験のために管理しているだけなのでそこで正当に得たモノに関しては開拓兵の皆様に権利があります」
「ほーん。んじゃ貰うか」
軽量な装甲。
表面に細かな擦り傷はあるものの目立つモノはない、物理的にも魔術的にも硬い。
一式造るにも軽装分ですら足りないのが惜しいけどこの試験期間中に手に入れば戻って造ってもらうのもいいかもしれないな。
――――後書き――――
ヒイラギ シモーヌ
ヒ:サハギンって生きた年月によって全然強さ違うけどそこの買取価格ってどんな感じなの?
シ:より長生きな個体は魔石が大きくなるためまずそこで価格が上昇します。加えて素材などを残す確率が高くなるので一応全体としての収入はそれに見合ったモノになってます
ヒ:素材など? ああ、ごく稀に三叉槍も残すんだっけ?
シ:一ヶ月に一本程度の頻度ですね。現状では実用性がないため収集目的の貴族や研究者たちがお買いになります
ヒ:魔力の通りは良いけど軽く使った感じ扱いが色々面倒だからなぁ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます