第11話 現実となった戦い、無法者たち

「中の様子は?」

「人はいる。何言ってるかわからない。叫び声は……聞こえない」

「奴隷、って言ってたしそれなりに扱われてるか。もしくは手遅れか」

「っ……」


 二人の足下には死体にほど近い無法者の気絶体。

 ヒイラギの受け持った女は鼻の骨が折れ、鼻から大量の出血痕。

 イヴォンヌの受け持った男は両脚が踏み折られ、目ぼしい創傷はないがその内部は酷くダメージを負っていた。


「洞窟での気配察知はできる?」

「一応」

「最悪、中の光源潰す」

「了解。けど何かしら合図くれ」

「……舌、鳴らす」

「あいよ」


 方針を決めた二人はそれぞれ準備を始める。

 ヒイラギはメインの短剣と、予備の短剣をそれぞれ確認し。

 イヴォンヌは弓を取り出して弦の張りを指に感じる。

 そして共に回復薬を確かめ、レッグホルスターに戻す。


「攻撃はこっちで合わせる。好きにして」

「よし。行くか」


 カッ――。反響する足音。

 警戒と殺意が奥から這い出る。

 だが二人は気にせず、警戒のみで足音を放った。


「誰だ、テメェら。……いや、関係ねぇな。見られた以上殺す」

「安心しろよゴロツキども。殺しゃしねーよ」

「随分温いガキが来たもん――」

「――死んで濯げる罪なんざどこにもねェ」


 乗り込んでいる時点でそうだが、捕まえて罪を償わせるという宣戦布告。

 それに応じるように凶悪な笑みを浮かべる男に対し、ヒイラギは無表情のまま武器を構え、飛び出す予備動作に入り。

 その最中に魔術が発動した。


「卑怯だぞ!」

「ありがとう」


 そこで初めてヒイラギは笑みを零した。

 相手の準備を待つ必要はないし、自分の予備動作と実際の行動を同期させる必要もない。

 身体強化に紛れて魔術を構築して男が油断した瞬間に発動。その効果は確かで、不可視の風弾は男の腹部にめり込んだ。


「野郎ッ!!」

「羽虫どもめ」


 様子を窺っていた他のゴロツキたちもヒイラギの攻撃に反応して一気に攻撃をしようと襲い掛かり、イヴォンヌの弓にそれを阻止される。

 冷気――魔術の籠った矢が腕や脚に突き刺さるとその切っ先から迸り、血液を凍らせた。

 肉体は凍らず、血液のみが凍り血流を阻む。

 だがその時点では大きな損害はない。

 その状態で動き、その身で血氷を砕いて損害が拡大する。

 固体となった血が肉を刺す。血氷片となり血流に圧され、そして強い凍気を孕んだままの血氷片が種のように周囲を凍らせることで雪崩のように肉体の随所を痛めつけた。

 そうならないのは人体の中でも特に魔術耐性のある心臓部や脳、魔術回路。

 それ以外は尽くが凍てつき、身から血を生やす。


「ア゙ァ゙ァァァッ゙!!」


 男たちはかつてモンスターに村を滅ぼされたか家族を殺されたかなどして盗賊に身を堕とした者たちであり、それ以前は一般人。

 特別な訓練を受けた者は皆無であり、そのほとんどが脆弱。

 この世界ではモンスターを殺すこと以外にも人間を殺すことでも強く――レベルアップするが、盗賊たちが襲う行商人などはほとんどモンスターを殺したことのない弱い者を選んでいて、それを盗賊団として襲うために強くなることはほとんどない。

 つまり多少といえど訓練を積み、単独でモンスターを倒すヒイラギよりも遥かに弱い。

 結果、魔術を防げて残ったのは奥で様子を窺っている盗賊団のリーダーらしき男を含めて数名だけ。


「テメェら、おおかた攫って来た嬢ちゃんを取り戻しに来たんだろ? じゃあ、こういう手があるのは当然だよなァ?!」

「ッ――エーベルヴァインッ!」

「……」


 下卑た表情で鼻筋に大きな傷が走り片耳の欠けたリーダーらしき男がそう叫ぶとその更に奥からエーベルヴァインを連れて来た他の男が現れる。

 その首筋にはナイフが当てられ、彼女は恐怖で目を瞑り涙を浮かべていた。


「お前らッ!!」

「おー、怖い嬢ちゃんだ。ビビって手が震えて首を切っちまいそうだぁ」

「ッ!!」


 歯が砕けそうなほど食いしばり、弦から矢を放すイヴォンヌ。

 片耳の欠けた男はそれにほくそ笑むと今度はヒイラギに目を向ける。

 次はお前だ。

 視線でそういうが、ヒイラギは武器を下ろしも手放しもしない。

 それに怪訝な目を向ける片耳の欠けた男と責めるような視線を送るイヴォンヌ。


「コッ――」


 苦虫を噛み潰したような表情で舌を打つように鳴らすヒイラギ。

 ようやく覚悟を決めたか、と片耳の欠けた男は馬鹿にしたような笑みをヒイラギに向けた。


寝てろ、、、ッ!」

「――コッ」

「ひゃッ!?」


 【洗脳】でエーベルヴァインを抱える男を眠らせ、倒れ込んでいるところを風弾でナイフを弾き飛ばす。

 そしてヒイラギの合図に応えたイヴォンヌが舌を鳴らし、光源を破壊した。

 無光。視覚で判断していたゴロツキたちはそれによって情報を失う。

 対して、あらかじめ行動を決めていた二人は既に気配察知の地形把握を行っており、光源破壊と同時に次の行動に移っていた。


「おらァッ!!」

「ぐッ!?」


 全力で片耳の欠けた男の腹を蹴る。

 その勢いで吹き飛び、ヒイラギはそのままエーベルヴァインの救助に取り掛かった。


「ンンッ!?」

「静かに」


 極力情報を減らそうとヒイラギは少しの間エーベルヴァインの口を塞いで声を殺させ、小さく頷いたのを把握して口から手を放す。

 そしてそのまま横抱きにして後退。イヴォンヌの後ろまで送り届けた。


「チッ……何が起きやがった? 精神作用系の能力、久々に見たぜ……」

「……」

「お前ら、そこ動くんじゃねえぞ。見えねぇ状態で動くな邪魔だ」


 手加減はしていなかった。だが服の下に隠し着ていた防具によって威力が抑えられ気絶まで至っていなかった。

 片耳の欠けた男以外は素人。

 気配察知すらできない。

 だから足手纏いとなる手下たちを即座に大人しくさせ、一人武器を構えた。


「一つ聞きてぇ。その能力があるならなんで俺を問答無用で気絶させねぇ」

「一つ、矢を防いだのを見て無効化の可能性を考えた。一つ、記憶消すなら少ない方が安心できる」

「なるほどな」


 その考えに至ったのはアデルとの出会いが大きい。

 圧倒的強者。自分の能力が入り込む余地がないと確信できる程。

 その出会いがなければ問答無用で使っていたかもしれない。


「あと、単純に……疲れる」

「くはッ! そうかよ――……あ?」


 愉快そうに笑う、その腹に矢が当たる。

 そして込められた魔術が発動し、矢が回転し腹を突き破った。


「ま、無音でできる遠距離攻撃使い忘れるなって話だ」

「……合図がわかりづらい」

「ちゃんと凍結じゃなくて矢って言ったのに気づいてよかったぜぃ」

「私に感謝」

「はいはい、感謝感謝」


 軽口を叩きながらヒイラギは探索時に用いる浮遊型の光源で周囲を照らす。

 何が起きたのか理解できていない手下たちはゴロツキたちの最強が地面に倒れ伏している現実を真っ先に目の当たりにして戦意を喪失し、片耳の欠けた男は腹部に空いた穴のダメージ、そして壁に激突したさいの背中へのダメージの影響で力が出せずにいた。


能力の記憶を失くして気絶しろ、、、、、、、、、、、、、、――さて、縛るか」

「エーベルヴァイン、大丈夫?」

「あ、う、うん!」


 持ってきた拘束具を用いてゴロツキたちを縛る。


「あ?」


 片耳の欠けた男を縛る、その腹部。防具があるのは蹴った時の感触から知っていたためイヴォンヌの攻撃で壊れているとはいえ取り上げておこうと服を切り裂き、そのおかしな光景に思わず声を発した。

 その声に反応してイヴォンヌ。そして彼女と共にエーベルヴァインもヒイラギの視線の先に目を向ける。

 男が着けていたのは想像通り防具。

 だがその質が明らかにおかしかった。ヒイラギ自身と同じ程度であるならば特に問題はなかった。

 自身で買ったとも、行商人から奪ったとも考えられる。

 しかし実際にあったのは明らかに質の高い防具。

 イヴォンヌの一撃で貫かれたことから考えるに質が高い、というよりは装飾品だろうか。

 ともかくとして高級品。恐らくは貴族の所有物。

 であるならば、その輸送もそれ相応の実力者が行うハズ。

 それをこの程度の実力の人間が勝てるとは思えない。


「あッ、これ、奥に似たような物があったよ」

「複数? ロクな準備なしに二人で挑んで、勝てる程度の奴らが?」

「……これ、オーガスト分家の」

「え?」

「ここに滅んだ王国で使われてた文字の『太陽』の原文字。『木』の原文字。こっちもオーガスト家を意味する。わかりやすい方はこっち。太陽を包むように寝た猫の王紋」

「猫? ネコ……猫?」


 紋章らしいと言えば納得できるが、少なくともヒイラギの価値観では初見でそれを猫と見抜くのは難しい程度には認識する猫の姿と離れていた。

 言われればそれに該する特徴は見て取れるが、言われなければ別の動物の特徴として、それこそこの星特有の動物と認識しそうなほど。


「紋章の縁、上が途切れた二重線」

「ホントだ」


 細く途切れた上部の縁。

 本家を意味する紋章は一本線かつ繋がっている。


「持ち主が明確な盗品か。こいつら引き渡すついでにこの大量のお宝アデルに渡しておくか」

「……知り合い?」

「一応、向こうが覚えてるかわからんが」




「アデル様に合わせろ、だと? なんだ貴様ら」

「え~っと……ああ、そうだ。これ」

「なんだ、弱そうな奴が持つには不釣り合いな――オーガスト家の紋章? 分家のモノだが意匠は正確、材質も高級品、待て、確認をする。名前は?」

「ヒイラギです」

「少し待て」


 一般人と上級貴族。

 会おうと思って会える存在でないのは当然。

 だがそこで渡そうとしているモノが効力を発揮すると思いついたヒイラギは素直に状況を説明しようとしていたイヴォンヌを後ろ手に静止して破損のない紋章入りの貴重品を兵士に見せた。

 兵士はそれが本物と認識し、ワケは不明だが確かに貴族相手への客人だと察し、連絡を急いだ。

 すると少し経って見覚えのある亜麻色の髪の女騎士がやってきた。


「四日ぶり、かな?」

「少しぶりっす」

「盗賊を捕まえたと聞いて驚いたよ。それで、用事というのは?」

「これを」


 待機するにあたって案内された部屋。

 運んで来た荷物の大半は一度預けているが手荷物として部屋に持ち込めた豪華な装飾のナイフ。

 それを目にしたアデルは少し目を見開く。


「なるほど、分家のモノだけど確かにオーガスト家の所有物だ。これはどこ――盗賊団かい?」

「ええ。森で偶然、見つけた盗賊団のねぐらの中に」

「他にも?」

「沢山ありました」

「今はどこに?」

「一度ここに預けてあります」

「それは全て確認されたかい?」

「いえ、荷物の回収、とだけで恐らく確認はまだのはずです。――なので紋章入りのモノはこのナイフだけ人目に、それも一人の兵士の方のみ目にしただけです」

「………理解が早くて助かるよ」


 ふぅ、と小さく息を吐いて安堵した様子のアデル。

 ヒイラギは全貌ではないが質問の内容からなんとなく状況を察し、その望むであろう答えを出していた。


「前話したかもしれないけれどオーガスト家は国衛の一族なんだ。その実力は一種の伝説として国に広がっている。遠征にも参加することで一種の鼓舞になる。それほどに信用されている」

「だからこそ失態を表に出すわけにはいかない、と」

「そういうことだね。本当に助かったよ、ありがとう」

「ちょっ、やめてくださいよ! そんな頭下げる必要なんて……。なぁ? イヴォンヌ!?」

「気にしない」

「ほ、ほら! だから、ね?」


 身分制に馴染みはないがそれでも偉い人間に頭を下げられるというのは心臓に悪い。

 ヒイラギは頭を下げられ大きく取り乱し、イヴォンヌに同意を求める。


「表立って私たちから礼は出来ないんだ……。そもそも功績自体がなくなってしまう」

「私は、構わない」

「俺もまあ、それがあるって知らなかったですし」

「盗賊の討伐はヒイラギの功績。私は表に出ない」

「うぇっ?! なんでさ」

「人探しする。顔も名前も知られるのは面倒」

「あ、うん。……今度食事奢るよ」

「別に。私で払う。私の所為だし」


 失態を揉み消す。

 同時にそれを解消したという功績もなくなる。

 つまり残るのは盗賊団の討伐と攫われた市民の救出。

 だが人探しの障害になるとイヴォンヌはそれすらも拒絶した。


「……助けてもらった上にその功績を無駄にしてしまって申し訳ないのだけど。重ねて『誓約』をして欲しい」

「ああ、口外しないって。良いですよ」

「私も」

「本当に申し訳ない。この礼はいつか、個人的にさせてほしい」

「気にしなくて良いんですけど……まあ、そのうちお願いします」

「任せてくれ」

「あ、そうだ。盗賊から聞き出した情報によるとこの街の中……具体的には地図のこの辺りに拠点があるって。それと誰かはわからないですが門番に仲間が紛れてるらしいです」

「! 重ね重ねすまない。感謝する」


 本来はダメな一市民の個人での捜査という危険行為によって突き止めた情報を洞窟で得た情報だと、さも当然のようにそう話すヒイラギにイヴォンヌは内心で強く動揺し、けれどそれを悟られないように無表情を突き通しながら視線を壁に掛けられた王都の地図に固定していた。


「お話し中失礼します! ヒイラギ、イヴォンヌ両名の捉えた盗賊たちの特徴を人相書きと照合した結果、数名がその情報と一致しました。首領の名はキース、西から流れて来た盗賊です」

「その名は聞いたことがある。賞金首だったか」

「その他の者も一部は賞金首です」


 人相書きを持って現れた一人の兵士。

 そこには特徴を列挙されている。

 キースで言えば身長175センチ、細身、色白、鼻に横に伸びた剣傷、右耳欠損、くすんだ金髪、灰色の瞳、右の犬歯がやや短いなど。


「……懸賞金出るのか。やっぱ奢るぞ」

「ならありがたく」




――――後書き――――

適当に選んだキャラの説明と現時点でのキャラクター性をポエんでみたヤツ


永井柊ヒイラギ 男 現在17歳 身長167cm

固有能力【洗脳】 対象の情報を支配、書き換え、操ることが可能。特化しない汎用魔術防御ではヒイラギレベル10の場合相手側にレベル48以上の差を【洗脳】回避に要する(平均のためそれ以上のレベルでも回避できないことがありその逆も然り) 特化魔術防御ではレベル33 ただし、相手も同様の能力を有する場合は干渉に容易に気づける上に耐性もあるためレベルは21で済む

:自分が正しくても、自分は正義ではない。自分が間違っていると、自分は悪になる。――社会とはそういうもの、わかっている


桂木香月かつらぎかつき 女 現在17歳 身長152cm

固有能力【活性化】 対象に籠った思念を読み取り、そこから対象があるべき動作とされている動作を強制的に引き起こすことができる。その速度は現在低速0.3倍から高速120倍。ただしそれに消費する魔力は本来消費する分と同様(1440分で治る怪我を12分で治したとしてもその消費量は変わらない、短縮するための手数料的に増加してすらいる)


イヴォンヌ 女 現在16歳 身長162cm

固有能力【直感】 短期的な行動の結果を察することが出来る 経験を蓄積することでその精度が高まる 時に直感がビジョンとして過ぎることがあるがそれは未来視ではなく、能力が脳の一部に強く作用した結果の幻視

:空白、満ちてる。何かが、欲しい。――ぃ……


ベアトリクス・ブレイズ 女 現在27歳 身長178cm

固有能力なし

:戦いは心を映してくれる。――だから口で話すよりも好きだ


マユゲ《本名???????????????????? ??????????????????????????》 女 現在???歳 身長120cm

固有能力【固有能力模倣】 既知のモノなら自由に使用可能、未知でも一度自力で組み上げればフォーマットとして記憶可能 制限も存在し、ほとんどの場合は効力がオリジナルに劣る

魔眼【魔力視の魔眼(翠玉エメラルド・右眼)】【思考読みの魔眼(黄玉トパーズ・左眼)】

:好きなモノとは一生を共に。――心底欲すれば命を削ってでも


アデル・オーガスト 女 現在23歳 身長168cm

固有能力なし

:心の髄まで歯車に。抱えきれないほどの宝を心に、国衛に準じて。――それが私の使命です


シャプレ 女 現在25歳 身長161cm

固有能力【連結】 異なる二つ以上のモノを一つとみなすことが出来る 理論値的には限界がないが連結するためには対象の情報を脳で処理する必要があるため思考処理能力が実質的な限界

:皆さんが大好きですよ。皆で楽しく過ごせればいいと思います。――そうでなければ悲しいですからね


霜村愛那しもむらあいな 女 現在17歳 身長164cm

固有能力【真偽看破】 本当か嘘か分かる


オルロヴァ 女 現在15歳 身長176cm

固有能力なし

:白い樹結晶の森、空に浮かぶ大陸、逆巻く滝。見たい憧れはあるけど多分夢とは呼ばれない。――夢って何? 憧れとは繋がってないの?


薬師(サイカ) 女 25歳 177cm

固有能力

目の病気

:私の世界は歪んで見える。歪みのない世界は忘れちゃったよ。――今の私は歪みのない世界を正しく見れるかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る