第9話 孤独と煙

「――てな感じでやっております、と。一応、なんか良い仕事知らん?」

「知るか」

「ハッハァッ。容赦ねぇなぁ」

「そう言わずにマユゲせんせー、ちょっとしたことで良いから手掛かりくれよぉ」

「……異世界人オマエらってのは世間一般からすりゃァ未知の病気猿だ。うつりゃどんな症状が出るのか、どういうヤツがうつり易いのか。わかンねェからこそ取れる手段は掛からわないことになるワケだ」

「なるほど?」

「が、何しでかすかわかンねェヤツらを露骨に100拒絶して暴れられでもしたら被害が出る可能性がデケェワケだ。だから異世界人は忌避感を持たれてるって事実と合わせて就ける仕事を制限するワケだなァ」

「ほうほう。そこまでは理解した」

「つまり現状異世界人オマエらの選択肢に枷が掛かってる状況。それを外す鍵ってのァ、そりゃァ安心安全人畜無害だって行動で示すしかねェンだよ」

「あ~、はい。急がば廻れってことね。……ありがとう、マユゲ」

「あァ?なンもしてねェだろォが」

「いや、お陰で努力次第で道が開けるって答えを得れた。確証がある状態で歩くってのは闇雲に歩くよか遥かに気が楽ってモンだ」


 なんだろうな、この感覚……。

 ああ、そうか、これは多分……ズレ、だ。

 地道にコツコツが一番。なんてのは前の世界でも散々聞いた話なのに、今は自分の言葉としてその言葉が吐ける。

 どんな正論だろうと理性が納得してなきゃ事実が歪む、ってか。

 つくづく俺はガキだったっていうか、今さら気付いてる辺り今後しばらくもガキのままっていうか。


「弱さを自覚するって……こんな感じなのな」

「……相変わらずメンドクセェ奴だなァ。鬱陶しいからサッサと強くなりやがれってンだ」

「……おう!」




「――てな感じのが途中経過な」

「アンタ――永井、アタシたちが訓練してる間にそんなことしてたの?!」

「あ? たりめーだろォが。俺から言っといて何もできませんでしたこの国で異世界人が生きるのは無理に近いです、じゃ俺の言った事に反するからなァ」


 ンなカッコつかねぇこと誰がするかよ。

 こいつら相手にカッコつける気はさらさらねぇがダサいところ見せるってのも癪だ。


「業務自体は今話したとーり。地下下水路は広大だから依頼は一ヶ月の間は出続ける。荷物の仕分けはずっとある。やるなら好きにしろ。やらねぇでこのまま普通に開拓兵になるならそれはそれで構わん。俺にゃ関係ねーからなー」

「他人事だと思って!」

「他人事だもん。前も言ったろ? 俺は既に一日生きる程度の金稼ぎの能力は得た、この世界に骨を埋める覚悟もしてる。そっちとは状況が違いすぎて共感なんて不可能だっつーの」

「な、なんでそんなに簡単に心が決まるの!? おかしいでしょ!」

「……あ゙? いやゴメン、何言ってっかわっかんねーや。何が嫌なワケ? 知らない土地で暮らすこと? それとも日本から離れること? あるいは学生生活を続けたかった? もしくは自分の手で生き物を殺すこと?」

「ぜ、全部!」


 なおのことわからんがな。


「あ~、まず、お前は一生故郷で暮らすつもりだったのかって話。まあそこは個人差あるから深くは言うまい」

「それは……」

「日本から離れることに関しちゃ……まあ発展した文明ってのは魅力的だし一定の理解は示すがそれって生活に必須か?」

「で、でしょ――」

「んで、学生生活ってそこまで重要?」

「え……」

「最後に、自分の手で殺すのが嫌ってのが心底理解できん。他者に殺させてその肉食うのは平気でも自分はイヤですってか? ついでに言えばゴキブリ見つけりゃ殺すべ、蚊ァ見つけりゃ叩き潰すべ」


 殺しは当然のことで。

 生きるのに動物ならありふれているのに。それを否定するなんて。

 神かなにかにでもなったつもりなのかね?


「第一よォ、暮らしてた学歴社会で、試験の点数競って一喜一憂してたような奴らが今更それ言うか? 合格枠を自分が取るってのは他者の道を潰すってこった、つまり他者の未来を、人生を歪める阻む潰すってことだろ。合格できないことで自殺する奴だっているのに殺した実感ないから大丈夫ですってか? それとも一人死んだところで100の合格枠なら自分の責任は0.01だから殺してないも同然ですってか?」


 赤信号、みんなで渡れば怖くないってか?

 纏めて轢かれて死に晒せ。


「そりゃ命を奪う罪悪感じゃねーよ。嫌悪感でもねーよ。現実逃避だ、殺せばいつか自分も殺されるかもしれないから死を遠ざけようっつーな」

「死にたくないのは当然でしょ!?」

「うん。そこは否定してねーよ。ただ『自分が命を貪るのは良いけど高貴な私の命を奪うのは許せない』っつー頭のおかしい話を否定してるだけだ。賭け金ベットなしに|チップ得ようってのがおかしな話だ」

「あ、アンタこそ上から目線で偉そうに!」

「別に。俺はそっちの質問に対して答えただけだろ、主観付きだが。別にお前にどうこうしろって気はなーな、一応は最低限はするがそれ以降は知らねえしどこでどうなろうが知らん。目の前で暴れるな鬱陶しいってだけだ」

「ッ!」

「おっ、意外と理知的? てっきり逆切れからのぶん殴りでも来ると思ったんだけどな」


 そうなったら心底愉快だったな。

 思わず想像だけで笑いが零れちゃうくらいには。


「アンタ、性格悪いね……」

「褒めるなバカ」


 ぶっちゃけこっちがそっちをバカだと思ってる以上、そっちに性格悪いって言われてもマイナス掛けるマイナスでプラスにしかならんのよなぁ。


「――どっ、どうかしましたか?」

「ンぉ? あ~、香月か。なんでもねーよ? ただ単に意見の食い違いで声がデカくなっただけー、お気になさらずー」

「そ、そうですか?」

「そうだ、それよりもさ~。香月は今後どうするワケ?」

「えっ、えっ!? どっどどど、どうっていうのは?! どういう?!」

「あースマン、述語抜きはいかんよな。あと三日くらいで一週間経ちます、と。宿の更新です、と。金は多少の値引きで余ってるけど宿代にはなりません、と。で? 今日で半分だけど金策の調子あるいは計画は如何なモノで? 俺ぁ今後普通に一人で宿泊まる予定だし。養う気はねーぞ」


 今日で四日目の昼過ぎ、半分を過ぎている。

 俺は運よく初期段階を切り抜けられたが他の連中はそうではないはずだ。

 利用価値も利用する気も現状ないから香月には俺抜きの条件で生活してもらう……まあ本来それが普通なんだけど。


「え、えっと。しばらくはベアトリクスさんに戦い方を教えてもらいつつ永井君が宿で教えてくれたお仕事でもしようかと……」

「ほーん。ざっくり一日に一〇アスター程度か? まあ、一応値引き込みで考えりゃイケるか。頑張れよ」

「は、はい! え、えっとっ、あと三日ほど……私と一緒ですみませんっ……」

「あ~、気にすんな。こっちから誘った以上気にしてねーから。気にせず過ごしてろよ、そっちも金出してるんだからさ」

「はいっ」


 さて、一応報告も終えたことだしそろそろ行くか。

 こいつらとずっと一緒に居てもツマンネーし。


「俺ぁそろそろ行くわ」

「え、っと……どこへ?」

「……知り合った女からお小遣い貰ったからちょっと街で遊んでくる~」

「……へ?」

「…………?!」


 マユゲ様様~。

 こうして余裕持ってお金使えるのホントありがてーわ。


「は、はぁぁぁぁあああああッ!!? アンっ、アンタをヒモにする物好きがいるっていうの?!!」




 この世界の本というのは以前の世界の時代に類似した時代基準で考えると非常に安価だ。

 以前の世界、中世ほどの例えばイギリスでは「王領林」という概念があったしその巡視を行う委員会が存在し、現代日本にも尊大する森林法というモノがあった。さらにいえば16世紀に起きた「ドイツ農民戦争」の発端の一つは森林の使用権を奪われたからという側面もある。

 それほどに森林は時代、発展途上の文明に遡るほど重要な存在。

 植物紙は元々草や藁などを用いていたが木材を用いるという発想が近世まで出なかったのはその重要さもあったからだろう。


 が、ここでは高火力の燃料というのは他に存在し、そもそもトレントなどの植物系モンスターが存在するためそれを用いれば基本的に森林をむやみやたらに破壊する必要がない。

 需要供給が問題ないために植物紙は大量生産が可能であり、魔術を用いた転写技術によって製本も安易。羊皮紙などの手間とコストの掛かるモノも必要としない。


「ん~、昔嗅いだ古書のそれともまた違うこの国の製本技術特有の良きかほり……しゃーわせ」


 独特な匂いを放つ本の群れ。

 それなりに本好きなヒイラギは状況に笑みを浮かべる。


「何か探してる?」

「んぉ、あ~、具体的な目的はないんだけど簡単に言えば一般常識とか学べる本ない?」

「……流石にそんな異世界人向けぐたいてきなモノはないね。ただ……そうだね。何を読んで育つのかっていう参考として絵本、あとは純粋に国を知るという方向性で歴史本なんかは良いんじゃないかな?」

「……ちなみにその二つだとどんなおススメがある?」

「絵本だと……『建国の英雄 ルートヴィヒ』『求道の英雄 ルイス』『放浪の英雄 モード』。歴史本なら個人的には『狩竜から現代に至るまでの変遷 著:イゾルデ・イウォナ』だね。これは初心者が読むにはすごくおススメでね、大まかな歴史の変遷から導入して各所で細かな歴史を解説する、多少の細かさを無視して誤解を生まない範囲で内容を噛み砕いて注釈する、まだ不明瞭な部分も敢えて省かず主要な学説をいくつか紹介しつつそれぞれに対する反論も同時に記載しているんだ」

「お、おう……。そこまで言うならちょっと読んでみるか」


 熱量に圧されたヒイラギは思わず拒絶を忘れて絵本一冊と歴史本一冊を買ってしまう。

 いくつかの書店を見比べるつもりだっただけに二店目で既に買ってしまうという失態にヒイラギは肩を落としつつも気を切り替え、買った本を抱きしめた。


「おっ、ヒイラギくん」

「はい? ……あ~、えっと……ア、ア、アリ? アラ? スター? さん」

「アラステアだよ」

「すみません。人の名前憶えるのちょっと苦手でして」

「ははは。ヒイラギくんも散歩?」

「そうですね。軽く街を見つつ買い物って感じです」

「なるほど。随分懐かしい物を持ってるね」

「アラステアさんも読んだことが?」

「もちろん。まあそれとはちょっと違うヤツだけどさ」

「版元の違いですか」

「読んだのは半世紀以上前だから違って当然か」


(建国の英雄……初代国王のことだから当然だけどずっと人気のある絵本なんだな。おすすめされて買った本だし、期待しとこ。)


「そっちは歴史の本? 随分と面白い組み合わせだね」

「この国の事を知るにはちょうどいいかな、って思いまして」

「へぇ、知ってどうするの? 正直歴史なんて知らない人も多いのに」

「ここで暮らすのに常識がないと受け入れてもらえませんからね、色んな人と接して学ぶのと同時に歴史とかから社会の価値観とかその経緯とかを知ろうかと思いまして。……まあ、ぶっちゃけ本音を言うと面白そうっていうのが半分以上占めてるんですけどね」

「――ははは! 面白そう、面白そうね! じゃあ大丈夫そうだね」

「? 楽しんで学べるので、はいっ」


 呆気にとられた後、笑いはじめ、そして大丈夫という言葉。

 この国でも勉強は苦手意識があるのだろうと考えて少し親近感を抱いたヒイラギは勉強の目的を話した時の自重的な笑いから変わってつられ笑いを一瞬漏らし、そして笑顔で勉強を楽しむと答えた。


「じゃ、頑張ってね」

「はーい。また、仕事の時に」


 知り合いの少ない現状、このようなところで偶然出会うということに少し驚いたヒイラギはアラステアの後姿を見送りつつ力が緩んでズレた本を抱え直す。


「……散歩って聞かれてなんとなく否定するの躊躇って肯定しちゃったけど、買い物も終わったしホントに散歩してみるか」


 思わず吐いた嘘を後付けで真実にすることになったヒイラギ。

 だが特に目的もなく、金も特にないためふらふらと適当に街を歩くことに。

 生活排水などのために敷設された水路を遡り、高台になった場所から街を眺める。

 そこまでの高所ではないため街壁越しに街の外を眺めることはおろか、王都全体を見渡すこともできない。

 限られた狭い範囲の眺め、だが高所ゆえの真っすぐな風に心地よさを感じながらゆっくりと瞼を閉じる。


(喧騒から離れて、こういう一人の空間。前ならヘッドホンで作り出してた静かさがこうやって味わえるのは良いな)


 阻むもののない自然だけの静寂。

 ヒイラギは心の落ち着きを感じると同時に違和感を抱いた。

 以前ならば孤独な時間はヒイラギにとっての楽しみ。独りと静寂は娯楽だった。

 けれど今感じるのは安心と他者との交流の記憶。

 その変化の理由を考えるが答えは出ず、思考を打ち切ろうとし。

 ゆっくり瞼を開けた時。

 緑の匂いに交じって微かな煙の匂いも感じた。

 以前の世界でも街中で嗅ぐ煙草の臭い。けれどそれとは星が異なり植物が異なるからか雰囲気も異なる。


「おや、先客か珍しい」


 匂いにか、声にか、思わず顔を向けた先に居たのは一人の女。

 ヒイラギよりも一〇センチほど高く、一八〇近い身長。

 植物を思わせる紅い毛の交じった白髪。

 着ているのは中華服の長袍チャンパオのような服。

 そして手に持ち口に加えた煙管。


「え、っと……?」

「ああ、すまないね。これは私の生命力なんだ」

「え、ああ……はい」


 煙管に向けられた視線を咎める視線と捉えた彼女は微笑み、謝罪をしつつも煙を肺に貯め、ゆるりと吐き出した。


「君は……異界の民、かい?」

「そっすね」

「へぇ、初めて見た。面白そうだ」

「へ? ――ゲホッ、けほっ」


 眼を覆う薄布。

 その片側をつり上げ、開いた紅い眼で彼女はヒイラギを間近でジッと見つめる。

 煙管から発される煙が濃度を上げる。吸い込むヒイラギは不意の煙にむせ返る。


「お、っと……」

「綺麗な黒い瞳だ。黒曜石のように、魔石のように、深い深い黒をしている」

「一体なにを?」


 煙に慣れたヒイラギは反射的に覆った口元をゆっくりと露わにしながら彼女の行動に疑問を投げかけた。


「異界の民の、無垢な瞳は興味深いからね。くれないかい?」

「え。は。え? 嫌……ですが?」

「そう言わずに――おや? 髪に少し白と青と緑が交じっているね。なんだ、こっちに来て少し経ってるようだね」

「色? 髪? ……え?」

「異界適応による肉体の変化。まあ害はないハズだよ、多分ね」


 言われて初めて気づく。

 確かに陽に透けた色は馴染みのあるメラニンダークブラウンではない。

 そこには馴染みのない色が交じっていた。

 淡い寒色のそれは空に紛れるように、透けている。


「お、俺の髪ぃ……これ大丈夫なヤツ? 髪にダメージ、てか頭皮とか毛根とか……若ハゲとか嫌だぁぁぁぁ……」

「? よく聞こえないけど気にしなくて良いはずさ。何かあった、という話は聞いたことがない。まあ例がないだけかもしれないけど」

「あ、安心できねぇ……」

「まあ既に変異してるなら興味はないから安心して良いよ」

「……ちなみに何目的? 研究者?」

「少し違うね。私はしがない薬師さ」


 彼女は下まで続く長袍の脚部、深いスリットから覗くレッグホルスターから二本の薬瓶を取り出した。

 一つはヒイラギの見たことのないモノ。もう一つは色や瓶の特徴から考えて低級の体力回復薬。

 が、買ったものかもしれないためその正体の根拠にはならない。


「調薬には魔術的側面があるから面白い素材はなんでも試したくなるんだ。だから転移したてで空虚な素材があるとなれば手を出したくなるのは当然だと思わないかい?」

「は、犯罪」

「失敬だね。私は自分が属している集団の規則はちゃんと守るさ」

「あ、良かった。思考が俺と同じで安心」


 属する以上は属した群れのルールに迎合する。

 基本的に他者に合わせる気のないヒイラギではあるが、合わせるべき部分は弁えていて郷に入っては郷に従う。

 生きるため、己の欲を満たすために群れに属したい以上は順守するのは当然。

 ヒイラギはそんな考えを持ち、彼女も同様の思考という事でひとまず気を緩めた。


「ん~、にしても目玉から薬か。ちなみにそういう薬は実際にある感じ?」

「眼球を使用した薬かい? 例えばアルミラージの眼球を飽和魔力水に三鐘――九時間浸したモノを魔力の抜いた月光晶と藍色中和剤と錬成して、出来たモノを馬尾ヒッポス草の酒精抽出精製液と混ぜることで魔眼魔力暴走の鎮静薬が出来るね」

「魔眼魔力暴走?」

「ああ、知らないのか。魔眼持ちは必ず高い魔力持ちだからね、魔力制御の未熟な幼少期に魔眼が成熟してしまうと魔力の流れの変化に対応しきれずふとした拍子に魔力を暴走させてしまうんだ」

「原理ってわかってる?」

「うん。その薬は一時的に魔力の通りを抑えることで暴走しなくしているんだ。制御できてるワケじゃないってね」

「あ~、容器に水を入れるとして、出る量に比べて入る量が多いと容器が破裂するけど、入る量を抑えたら容器の耐久力は変わらないまま破裂は防げるみたいな」

「ははは、この場合水を流すのは管だけどね」

「細かいことは気になさんな」


 上手い例えができたと密かに得意げにしていたヒイラギはその訂正にテンションを下げる。


「それってモンスターの体毛とかでもやったりする?」

「するね」

「あ~、じゃあ。――この辺か? ……髪で良ければ渡すけど」

「こっちに来てすぐ、研究者にあったのよ。んでその時に研究材料として色々採取して、これは切った髪と、鮮度のために抜いた髪。ちゃんと保存してたから変質ってやつもしてないと思うぞ」

「おおっ! 良いのかい?!」

「そら俺から言ってるわけですし? 構わんさ」

「ふへへっ! 良い物が手に入った! これで、これで……」


 興奮した様子でブツブツと独り言を呟く彼女。

 無表情、目元も隠され怪しい状況で酷く興奮しているという事実にヒイラギは思わず引きながら髪を手渡す。


(この国じゃクローン技術とかはないって話だし大丈夫っしょ。そもそもたったこれだけの素材、万が一薬に出来たとしても数が限られるだろうから何かしらの影響も皆無だろうし。……念のため切った死に髪と根元から採取した生き髪の両方渡したけど薬にするのに意味あるのか?)


「他ッ! 何かあったりしない?!」

「他ァ? 一応色々採取はしてるけど――」




――――後書き――――


 髪、色素に関する情報


 生え方や髪質によって髪型に影響があるものの、それ以外にもヒイラギの元居た世界では自然にはありえないような髪型になることがあります

 オールバックがナチュラルな人がいれば、逆立った髪がナチュラルな人もいます

 そのため比較的ヒイラギの認識に近い髪型であってもアニメのように束になっていたり、それこそアニメでしか見ないような髪型の人物も存在します


 原子論、といいますか素粒子論といいますか、ともかくとして転移前の世界と転移後の世界とではそのあたりの基礎構成が異なっています

 クォークだったりレプトンだったりが素粒子である転移前世界、それとは異なるモノが素粒子である転移後世界

 どちらもその世界における『物理』ではありますがその違いは端的かつ大まかに『魔』と表現しますと、転移後世界の根本が魔であるために世界には魔的物体が多く存在し、色素もそれらによって変化しています

 細かい部分は興味ないでしょうから割愛しますが

 結論的には『素粒子の違いによって転移後世界では青や緑の髪、場合によっては虹色の髪もありえる』ということです

 また、同様に『紫の肌なども実在する』ということです

 


 追加情報として、素粒子が異なるものの最小単位がクォークなどではない、というだけでクォークなどは実在します

 転移前世界は『原子→素粒子(クォークなど)』だったのに対し、転移後世界は『原子→クォーク→素粒子』というさらに下が存在するというだけです

 なのでヒイラギたちが転移による肉体再構築によって死ぬ、ということはありませんでした(クォークなどの世界に転移してたら死んでいた。と思いきや世界の免疫のようなモノでそもそも転移してませんでした。肉体が転移後世界側で用意されず、二世界の壁で魂が永遠にさまよう、そんな感じ)

 ただ、転移によってその外見は変化なしに思えつつもその中身(素粒子構成)は大きく異なっているため転移後から徐々に適応が始まっていました

 そのわかりやすい例が今回の髪色変化ですが、それ以前にも症状は出ています(ヒイラギ自身が自覚していないため描写してませんが)

 具体的にはヒイラギは転移直後から弱めの聴覚障害と全身の疲労感、嗅覚の微鋭敏化などがあり、そこから少しして転移による影響で体内の細菌数が減少したため消化不良、ホルモンバランスの乱れによる感情の揺れ増大を抱えていました。ついでに肉体の適応途中という事で魔術的毒物耐性の弱化とアルコールなどへの耐性上昇がありましたが、毒を自ら接種するワケもなく、アルコールは転移後にマユゲなどと何度か飲みましたが転移前は飲んだことがないため自覚も出来ませんでした(そもそも転移前から肉体的にはアルコール耐性そこそこありましたが)

 そ例外の人物の例として香月を挙げると。生理の一時停止、味覚障害(塩味微増加、苦味微減少、甘味中増加)、幻聴(周囲の音を聞いたのち数分経って小さく再び聞こえる・頻度小)、青視症(紫寄り)です

 肉体が再構成された影響で肉体の不調が改善されるため視力が0.9~1.0あたりに戻ります

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