第7話 社会で生きるためには

「くぁあぁぁ……」


 昨日の記憶が途中からねぇ……。

 訓練のし過ぎでマユゲに怒られて……訓練切り上げて一緒に酒飲んで。

 俺って酒飲むと記憶飛ぶタイプなのか?


「てか香月いねぇ。つか今何時だ?」


 太陽の雰囲気からして……昨日と大して変わらなさそうだけど。


「とりあえず軽く飯食うか」


 この時代、一日の食事は昼食と夕食の二食が主らしい。

 理由としては食料の鮮度維持技術と単純な食料の供給量や物価。

 とはいえ肉体労働者は三食食べる。

 開拓兵は腹に入れ過ぎると動きが鈍るから夕食以外は一食の量が少なくて代わりに回数を多くするのが普通だとか。外だと危険で時間も取れないから夕食も少ないらしいけど。


「よっす」

「……おはよ」

「目的あるって言ってたけど進捗は?」

「…………全然」

「そっか」


 口数すくねー。


「あ、イヴォンヌちゃん、おはよ!」

「おはよう」

「昨日はどうだった?」

「ダメ」

「そっか! じゃあ今日は私も手伝うね!」

「ありがとう」


 ……一般人のエーベルヴァインでも手伝えること?

 てことはギルドの依頼とかじゃないのか。

 まあそもそも個人的な用って感じだし、危ないことではないのか。


「あ、俺にもイヴォンヌと同じので」

「はーい!」


 ところで、それ何?

 パンと……肉と穀物のスープ?

 スッゲー炭水化物。


「銅貨四枚だよ~」

「ほいほい」

「はーい、ちゃんと銅貨四枚ね」


 味は……普通に塩味プラス肉の味って感じか。

 そこに風味で穀物の感覚。

 穀物自体は……食べたことなくて変な感じだな。




「長井ッ!」

「うぉッ、ビックリした。いきなりなんだよ……え~、と? なんだっけ?」

霜村愛那しもむらあいな……アンタが香月を連れて行ったんだってねッ?!」

「あ~……あ゙? 誰がンなこと言ったのか知らねえが一人だったから誘っただけだ」


 まあ、嘘はついてない。

 値引きのために連れて行ったってのが真相だけど。


「はぁ? アンタ何言ってんの?」

「あ~、ダメだこりゃ。聞く耳持たナッシング」


 メンドくせー。

 君ぃ、人間だろ? 人間の最大の武器って高度な言語による意思疎通だろう?

 なんで話したうえで理解できないじゃなくて、話さず理解する気なしになるかな。


「ま、待ってくださいっ。ほ、本当なんですッ」

「いたんだ」

「わ、私が一人でいたところを永井君が声を掛けてくれたんですっ。は、話し方が悪くて誤解を生んでしまってすみません……」

「嘘じゃない……みたいね」

「は、はい」


 解決したならもう俺いらんよね?

 もう行って良い?


「で?」

「『で?』?」

「アンタとは付き合いないけど一緒のクラスで見ててある程度把握してる。やっすい同情心で動くような人間じゃないでしょ。目的は?」

「……宿代安くするダシ?」


 なんで付き合いないのにこっちのこと把握してんの?

 ……キッショ。


「それだけじゃないでしょ」


 ホント、キッショッ。


「んぁ~……興味本位よ。別にお前らが思ってるようなことはせんよ、興味ない」


 流石に【洗脳】の練習台、とか言うワケにゃいかんよなぁ。

 向こうが思ってることに関しては、うん。正直マユゲといいベアトリクス、アデル、シャプレとかなり見た目もスタイルも良いのがいるからなぁ。興味持っても香月には興味は出ねぇな。


「計画性も何もなしに自分本位で他人を巻き込まないでくれる?」

「どの口ぃ……いや、何も言うまい」


 逆に聞きたい。

 そっちは具体的な計画あるのか?

 知ってる限りじゃ一昨日時点でギルドに行ってたのは少数、行ってた奴もベアトリクスの誘いを断ってる。

 まあそこは怪しいから断ったってことでわかるが、それでも帰りにギルド内で一人も見なかった。

 昨日は朝から昼にかけてしかほとんど見てないけどその時も見かけたのは少数。話を聞く限りじゃ来てたのも少ない。

 そんな初速でどうこう言われてもね。


「やっぱこの際言わせてもらうわ。俺は既に一日生活分の日銭を稼ぐ程度の基盤は形成できてる。俺一人と、まぁ香月が変に出費をせずに一日二食で済ませれば問題ない範囲だ。今後の展開はまだ決めてないから計画性は、と聞かれればゼロと答えるほかないのが現状だが。で? そっちの基盤形成と計画性は?」

「……は?」

「ざっくりクラスで女は半数20、素泊まり雑魚寝部屋だと一日大銅貨六枚でベッド部屋だと素泊まり一部屋大銅貨五~七枚の三部屋として大体二〇枚か、それが一週間だから雑魚寝大銅貨四〇枚強、ベッド銀貨一枚と大銅貨四〇枚。そこに食事やらなんやらで一週間で一六〇~一八〇くらいか? 値引きして大体このくらいだな。つまりトータル大銅貨二〇〇~三二〇は最低でも行くワケだ。初期所持金トータル二〇〇だけど、どうすんの?」


 一人辺り初期所持金大銅貨一〇枚。

 一週間以内に稼ぎガンバレー。

 ま、開拓兵としての登録料やら回復薬とかの出費除いた額なんだけどね(笑)。


「ちょっ――」

「あ~、ごめんごめん、もうこっちの世界に来て三日目だもんな、そんなこと言わなくてもわかってるか」

「え――」

「で、あと四日だけど? その間の収入は?」

「合計で二〇〇〇アスター?!」

「あれ? 計算ミスった? こういうのは先にこまいのを計算するのが楽だから……雑魚寝一人で銅貨三枚か四枚、食事一食銅貨四枚か五枚かける三で合計銅貨一五枚。人数で二〇、日数で七。二一〇〇だな、多くて二七〇〇弱。ベッドで安全安心に寝たいならここに一〇〇〇足してろ。ま、一〇〇は誤差だ誤差」


 君ら、働いてないのに三食食べるの?

 贅沢ですねぇ。


「ほ、本当に?」

「……あっ、もしかして値引き交渉とかせずに適当に泊まった? もしくは移動が面倒だって大通りの宿に泊まったぁ? そ・れ・で・出費がかさんでるとかですかぁっ?」

「ば、バカにすんな!!」


 値引きアリとか街少し歩けばわかることだと思うんだけどなぁ。

 バカじゃないの?

 あ、バカだからこんな感じなのかぁッ!


「で、なんだっけ? 話を戻して……計画性? いやぁ、俺には計画性がないから是非ともそのスンバラシイ計画をご教授願いたいですなぁ!!」

「ぅぐ……」

「な、永井君!!」

「へいへい、弱い者いじめはもうしませーん。反省してまーす」


 よし冷静になろう。

 今この場では俺の選択肢は二つある。一つは見捨てる、一つは助ける。

 見捨てる場合こいつらと香月の親交度によっては俺と香月の関係性が悪化する可能性がある。正直宿代の抑えと人間相手への固有能力の実験が済んだ現状香月の利用価値はそこまでない。

 香月の固有能力【活性化】も有用ではあるけど必要かと言われればそうじゃないから興味もない。

 ただ、こいつらの異世界人っていう特性。もし今後俺が気の迷いか何かで帰りたくなった時、あるいは帰る必要性に追われた時、こいつらが役に立つ要素でした、助けなかった結果死んで帰れませんじゃ話にならない。となると一応の救助はやって損はないかもしれない。

 それに、目の前で死ぬ可能性の高い奴らがいるのに見て見ぬふりをするってのは流石の俺でも精神衛生的によろしくないだろう。


「お前らのやる気次第だが、やる気があるならある程度手助けはしてやる」

「え!?」

「え、じゃねえよ。助けを求めるならちったぁ助けてやる、同情すんなっつーなら助けん。どうすんだ?」


 もういいや、メンドクセーし望むなら助けるか。

 変に放置してモヤるよか3000倍良いだろ。


「で、出来るの?」

「知るかよ。この国のこともこの世界のこともロクに知らねーんだぞ、こっちも手探りだっての。……イイか? 俺が言ってるのは道を示すことじゃねぇ、道を一緒に模索するかどうかって言ってンだよ」

「……考えさせて」


 はぁ、この期に及んで考えるねぇ。

 そういうトコだゾ。


「な、永井君はやっぱり優しいですね」

「はぁ? どこが。自分本位だぞ」

「だ、だって霜村さんたちに何も要求しないじゃないですか」

「あのなぁ。利用するってのは利用価値があるからすることだぞ、価値ねーじゃん」


 奴隷堕ちさせろってか?

 間接的に殺す行為じゃん。

 別に殺人を躊躇いはしないだろうけど快楽殺人は話が違う。

 手段として殺すことはあるかもしれんが目的として殺す気はさらさらない。

 売って金儲けを企むなら俺はもっと安全に賢く生きる。

 不健康な金儲けは間接的な自殺でしかないからな。うん。


「協力、お願い」

「しゃーねーなぁ」




「てことでとりあえずこいつら鍛えてやって」

「お、おう。私は別に構わねぇけどよ……多くないか?」

「まとめて連れて来たからな!」


 んじゃ、よろしくベアトリクス!

 頼んだ~!

 

「街から出ずに出来る仕事ってない?」

「他に条件は?」

「経験なくても出来る仕事が良い」

「であればこちらなどは如何でしょうか」


 片方は『荷物輸送のための仕分け』、もう片方は『地下下水路の調査』、ね。

 仕分けの方は輸送系クランからの依頼か。

 どっちも常駐依頼、と。

 下水路の方は……定められた道を辿っていくつかの地点を経由、詰まりがないかを確認しつつ道中でモンスターと遭遇したら討伐しつつ種類と数を報告。

 なるほど。仕分けはいくつか勤務時間の指定が出来るのか。

 ……よし、昼まで仕分けやって昼過ぎから下水路行くか。


「あんがと、両方行ってみる」

「こちら、それぞれの勤務地を示した地図です。ご使用なさいますか?」

「お、助かるぅ。幾ら?」

「お金は結構です」

「ありがとう。じゃ、行ってくる」




――――後書き――――


奴隷制度:大きく分けて二種類存在し、【犯罪奴隷】とその他の奴隷

     雑な分類と思うかもしれないが端的に言えば【人権】を有さない奴隷と、一定の人権を有した奴隷

     犯罪奴隷は文字通り罪を犯した結果なる。罪の大きさや反省の意志によって決定し、村八分ならぬ国八分になると犯罪奴隷認定される

     その他の奴隷は罪を犯しつつも罪が小さかったり反省の意志が見える犯罪者や、借金を負った結果の奴隷、行き場を失った結果など

     【人攫い】による奴隷堕ちは【法で禁じられている】ため基本は存在しないが、【闇社会】では存在するという

     奴隷になる(する)にあたっては国への申請が必要であり、申請中を意味する【仮奴隷紋】と許諾済みを意味する【奴隷紋】の二つがある

     そのため闇社会の奴隷は奴隷紋を持たない


     ルールの上に定められた制度であり、現代社会を維持する不可欠要素の一つ


奴隷紋:奴隷であることを示す印

    命令強制能力はない

    主人あるいは指定された地点から一定以上離れることが出来ないように魔術が掛けられている

    許可なく暴力(魔術)が使えない

    命令に背くと苦痛が伴うように設定可能


主人紋:奴隷購入時に規約について説明を受け、それに反する行為をした場合は主人にも相応の罰が下る

    奴隷所有権の個人間での譲渡は出来ず、権利を他者に移す場合は奴隷商のもとで手続きを行う必要がある

    その際には譲り受ける者も規約説明を受ける

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