第14話 演劇部

「どうも。手品部兼ボードゲーム同好会兼SF研究会兼クイズ研究会兼歴史研究会の司風雅です。東花凛はいますか?」


 演劇部が活動する多目的室に到着するなり、風雅はとんでもなく長い肩書きを、活舌よくスラスラと並べた。演劇部の部員の視線が集中した直後、小規模な笑いが起こる。その中の一人、奥で部員と談笑していた東さんが立ち上がり、目を細めて入口に近づいてきた。人数はまばらだし、風雅の言うように全体での活動は終わり、残った生徒達が自主練や打ち合わせを行っていたようだ。


「相変わらず長い肩書きね。なんなら前より長くなっていない?」


 学校指定のジャージを着た東さんが呆れ顔で苦笑する。長身の風雅を見上げているけど、意志の強そうな大きな瞳は迫力満点だ。

 

 それにしても、前より長く? 驚いた。風雅は毎度の如くこの口上を多用しているのか。


「ここで問題です。増えた肩書きは何でしょう」

「クイズ研究会要素を出してこないでいいから……えっと、歴史研究会?」


 あっ、そう言いながら東さんも流れに乗って答えるんだ。


「正解! 一ポイントをプレゼント」

「貯めると何かいいことあるんでしょうね? まったく……」


 溜息をついて顔を上げた東さんと、風雅の後ろにいた僕の目があった。


「あれ、猪口くん? どうして土曜日に学校に。生霊?」

「珍しいからって霊体扱いはやめてくれないか。ちょっと調べものがあって、東さんにも話を聞きたいんだけど、今大丈夫だった?」

「私は別に大丈夫だけど、調べものって?」

「ちょっと、リザードマンを探していて」


 我ながらどんな台詞だよ思うけど、事実なのだから仕方がない。事の経緯を説明すると、東さんは最初こそ驚いていたけど、その口元は徐々に好奇心に釣り上げられていった。五月にも思ったけど、東さんはやはりこの手の話には乗り気だ。


「事情はだいたい理解したけど、残念ながら我が部ではリザードマンさんは存じ上げないかな。まだ脚本段階だけど、文化祭で披露する演目には、怪人の客演なんて予定されてないし」


 現役の演劇部が断言したことで、リザードマンが演劇部の備品である可能性は無くなった。これは想定内だ。そもそもリザードマンが登場する演劇というのはイメージしにくい。物置部屋を使っている部活の中で一番可能性があるというだけで、そこまで期待値は大きくはなかった。逆に怪人の種類がオペラ座的な方向だったら、間違いなく一番怪しかっただろう。


「となると、他に物置部屋を使っているのは被服部だが、怪人は被服のジャンルに含まれるのか?」

「衣装の範疇かもしれないけど、それだとどちらかという特撮――」


 言いかけて僕は、比古さん食堂での胡桃とのやり取りを思い出した。胡桃はリザードマンを日曜の朝と表し、呼称の案も「怪奇蜥蜴男」だった。特撮ドラマに登場する怪人を思わせる存在感だったことは間違いない。だったらもっとシンプルに、そういう方向性で考えるべきだった。


「風雅。うちの高校には確か映画研究会があったよね?」

「あるけど、もしかしてリザードマンは映画研究会の?」

「着ぐるみか、パペットか。いずれにせよ、映像作品用の備品と考えるのが一番シックリくる気がする」

「確かに。だったら早速、映研に殴り込んでみるか。うちのクラスの尾越おこしも映画研究会だったはずだし」

「別に殴り込む必要はないけど、是非とも話は伺ってみたいね」


 ヒーローものの特撮か、モンスターパニックか、あるいは未知の生命を扱ったSF超大作か。いずれにせよ、リザードマンという存在が最もしっくりくる部活は映画研究会で間違いない。一学期の期末テストが終わり、文化部では夏休みに先駆けて文化祭へ向けた準備が始まっている。映画研究会も撮影を始めたのなら、今まで姿を現さなかったリザードマンが目撃されたタイミングにも説明がつく。


 目撃された物置部屋を映画研究会が使用していないという点は気になるが、その辺りの事情は直接、同級生の尾越くんに尋ねればハッキリするだろう。謎解きというよりは、ただ聞き込みをして回っただけになってしまったけど、無事に胡桃の疑問には答えてあげられそうだ。


「東さん。時間取らせてごめんね。ちょっと映画研究会に顔出してくる」

「真相が分かったら私にも教えてね」


 東さんとはその場で別れ、僕と風雅は、映画研究会の部室である三階の視聴覚準備室へと向かった。晴れてエンディングへ到達するものだとばかり思っていたのだけど……。

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