第13話 司風雅
「あれ? 土曜なのに何で黎人が学校に?」
午後三時前。学校に到着するなり玄関で、同級生の
「僕だって週末に学校に来る用事の一つや二つあるさ。そういう風雅は何部の活動で?」
「さっきまでは手品部の打ち合わせ。ちなみに明日は、文化祭に向けたSF研究会の企画会議に参加予定だ」
「相変わらずフットワークが軽いね。今は何個兼部してるんだっけ?」
「昨日の放課後に歴史研究会に所属したから、五個めかな」
「また一つ増えてるよ。風雅は最終的にはどこを目指しているんだ?」
「俺は誰にも縛られない。故に最終地点も存在しないね」
僕が把握していたのは手品部、ボードゲーム同好会、SF研究会、クイズ研究会の四つだけだったはずなのに、さらに一つ増えているとは……一年生の七月でこれなら、二年に上がる頃にはどうなってしまうのだろうか? 風雅は少しでも興味を持ったら直ぐに部活動に所属する思い切りの良さと行動力がある。出会ったばかりの頃は驚いたものだけど、流石に四カ月も一緒にいればだんだん慣れてきた。もしも部員不足で存続の危機にある部活があるなら、風雅は救世主となり得るかもしれない。
一方で考え無しにたくさんの部活に参加しているわけではないようで、管理の厳しい運動部ではなく、比較的自由参加が許されている文化部に所属することで身軽さを維持し、状況に応じて参加する部活を使い分けているようだ。
加えて活動の一つ一つに対しては真摯に向き合っており、その姿勢は先輩や顧問の先生方からも高く評価されている。複数の部を掛け持ちしながらも、軽薄さや不真面目な印象は皆無。むしろ風雅が架け橋となって、各部活に横の繋がりが生まれるなど好循環を生み出しているらしい。さながら、あらゆる組織に所属してきた歴戦の傭兵といったろころか。
「それで、結局のところ黎人は何用で? やらかして職員室か?」
「何で怒られる前提なんだよ。一昨日の夜、胡桃が興味深いものを目撃したそうでね」
風雅に一度遭遇したらもう逃げられない。好奇心の塊の彼は、その積極性も相まって、いとも容易く僕の口から目的を聞きだすだろう。遭遇した時点で僕の負け。時間を無駄にしないためにも、風雅には状況を説明しておくことにしよう。
「夜に現れた謎の怪人ね。面白そうじゃん。この後暇だし、俺も付き合うぜ」
「誰も助力は求めてないんだけどな」
「つれないこと言うなって。俺の顔の広さはお前も知っているだろう? 部室棟ってことは部活関連の調査なんだし、何かと便利だと思うぜ」
確かに、普段部活に所属していない僕がいきなり、調査という名目で色々と嗅ぎまわるのは角が立つ。対して弁が立つ風雅が、それを活かして円滑に交渉を進める様は有り有りと想像出来る。僕も決して人見知りするタイプではないのだけど、風雅の圧倒的なコミュ力を前にすると時々自信を失いそうになる。
「お力添えよろしくお願いします!」
「素直でよろしい」
こうして、調査隊のメンバーが一人増えることとなった。歴戦の傭兵を仲間に出来たようで心強い。
「早速だけど、胡桃ちゃんが目撃した窓というのは具体的にはどの位置だ?」
「渡り廊下から見える、一番奥の窓と聞いているよ。あと、胡桃ちゃん呼びはやめろ」
気安く胡桃ちゃん呼びなのは気になるけど、風雅は誰に対しても距離感が近いので、決して胡桃が特別というわけではない。僕にとっては胡桃は特別だけども……。
玄関からも近いので、実際に渡り廊下から、問題の部室棟を見てみることにした。週末とあって部活に励む生徒の姿が窓越しにチラホラと見えるが、件の窓には人の気配は無く、リザードマンらしき姿も確認出来なかった。
「あそこは何部?」
「あれは確か部室じゃなくて、複数の部が共同で使っている物置みたいな場所じゃなかったかな」
直接確認にいくまでもなく、風雅はあそこがどういう部屋かを把握していた。流石は多くの部活を掛け持ちしているだけある。
「ということは、リザードマンの正体はどこかの部の備品と考えるのが自然か。共同で使っている部というのは?」
「筆頭は演劇部で、服飾部の衣装作品なんかもチラホラと。後は俺の所属するボードゲーム部の備品も幾つか」
「ボードゲーム部も? そんなに備品がかさばるの?」
「現在進行形で使用している物は部室で管理しているけど、卒業生が製作したオリジナルゲームとか、以前使われていた物はそっちで保管させてもらっている。無碍には扱えないからな」
「なるほど。ちなみに念のため聞いておくけど、リザードマンの正体が超バカでかいゲームの駒である可能性は?」
「もしそうなら、もっと黎人を泳がせてから楽しくネタばらしするさ。等身大の駒を使ったボードゲームとか。実際にあったら楽しそうだけどな」
僕も冗談で聞いただけだけど、確かに高校でそんな催し物があったら話題を呼びそうだし、なんなら僕もやってみたい。確実に採算度外視になるだろうけど。
「リザードマンと仲良しの可能性があるとすれば、その中だと演劇部かな」
「だとすれば、なかなかにファンタジー寄りの演目だが、調べてみる価値はありそうだ。確か
「そっか。
五月に生井好さんと、「ライラックの歌」に関する謎を調査するきっかけとなった同級生の東花凛さん。図書委員のイメージが強くてすっかり失念していたけど、そういえば以前、部活は演劇部に決めたと言っていたのを思い出した。東さんは僕が謎解きに情熱を燃やしていることを知っているし、前回の縁もある。今回も快く話を聞いてくれることだろう。
「試しに演劇部に顔出してみるか。普段は多目的室で練習してるはずだ」
「いきなり押しかけて大丈夫かな?」
「この時間ならたぶん、全体練習が終わって自主練だろうから、比較的とっつきやすいと思うぜ」
「やけに詳しいね。実は演劇部も兼部?」
「残念ながら、流石の俺もそこまで多才じゃない。手品部の部室も同じ階だから、ご近所さんなだけさ」
風雅は大仰に肩を竦めて苦笑する。本人は自嘲気味だが、風雅は口が回るし、物怖じしない抜群の安定感も持ち合わせている。僕からしたら役者向きに見えるが、本人的には柄じゃないのだろうか?
「ところで、風雅の所属する諸々の部活は文化祭で何か披露するのかい?」
二階の多目的室への移動がてら、十月に開催される文化祭の話題を振ってみた。僕たちはまだ一年目だからあまり感覚を掴めていないけど、文化部は一つの成果発表の場として文化祭に情熱を注ぎ、例年大きな盛り上がりを見せると聞いている。夏休みに一気に作業を進める部も多く、五個の部活を掛け持ちする風雅は、各所を奔走する日々を送ることになるのだろう。
「手品部は例年、第一体育館でプログラムを披露して、SF研究会と歴史研究会はまだ企画会議中。ボードゲーム同好会は細やかな体験会を企画中で、クイズ研究会は文化祭実行委員会と連携して、一般の来場者も参加出来るクイズ大会の実現に向けて色々と準備中ってところかな」
「風雅はその全てに携わると?」
「刺激的な夏休みになりそうだ。ご好意で手伝ってくれてもいいんだぜ?」
「かっこつけた直後に本音を見せるな本音を。生憎と夏休みもみっちり塾の予定が入ってる。まあ、たまたま暇な時があったら考えておくよ」
「おう。その時は頼むわ」
嬉しそうに白い歯を覗かせながら、風雅は僕のと肩を組んできた。こういうのは柄じゃないんだけど、風雅がやるとあまり暑苦しく感じないから不思議だ。
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