結:未来 30歳

 9月末の風は、涼しいを超えて時折冷たさを帯びる。夜10時ともなればなおさらだった。広人は池袋駅の隣、要町駅を降り、大通りの道を歩いていた。

 2時間も残業してしまった。月1回の週末にはどうしてもこういう日ができる。それでも、何とか5年は続いていた。

 板橋区と豊島区の間に位置する、雑貨店も併設された大型スーパーに着き、辺りを見回す。すでに来ているはずだ。


「やばっ。背中丸まりすぎー、ちゃんと猫背治そうよもう~」


 背中に衝撃が走った。へらっと笑った莉果子が立っていた。


「ごめん、待った?」

「全然、遅番だしちょっと残業したし、ちょうど来たとこ」


 白いロングスカートがよく似合う。しかし、広人は口にしない。家に帰ってから言おうと秘めておく。

 つまるところ、二人は遅い夕食を買いに来ていた。ただそれだけのこと。

 それだけで、十分だった。


「……うちももう染めるのやめよっかな」


 入店してすぐの日用品のコーナーで、ふと莉果子が呟いた。


「どうして?」

「だってもう30だし……そろそろ落ち着いた方がいいかなって」


 ちらりと流れる瞳が、広人を捉える。


「30でも髪染めたっていいと思うよ。辞めなきゃいけない理屈はない……第一、慣れないよ」


 広人の堅い口ぶりにくすっと莉果子は噴き出す。


「わかった。もう少しこのままでいる」


 食料品コーナーへ行くと、半額になった弁当が並んでいた。


「おー、ミニカツ丼とミニうどんセットだって! これ行っちゃおうかな」

「じゃあ俺はミニネギトロ丼とそばのセットにする」


 広人の提げるカゴに置こうとした瞬間、莉果子の手が止まった。


「やっぱやめる。うちもネギトロの方にする」

「なんで? いいじゃん」

「だって……もう年だから太りやすいし、ヤる時『太ったね』とか言われたらやだし……」

「い、言わねーよ! 少なくともそのタイミングでは!」


 顔を赤くして、広人は顔を逸らした。


「そっか。でもやっぱ太るのやだし、ネギトロの方にする」


 鼻歌交じりに、莉果子は手を棚に戻す。


「そしたら分け合えないじゃん。だから俺がカツ丼の方にする」


 結局、広人が莉果子からカツ丼を受け取った。

 レジを通してスーパーを出ると、一陣の冷たい風が吹いた。街灯に照らされた夜道を歩く。手をつなぎながら。


「明日、豚汁でも作ろうか」

「いいね! でもやっぱ、あの時の豚汁の味にはならないんだよな~」

「ま、しょうがないよ」


 お互いの体温が触れあう。街灯に指輪が光った。


 二人の間の子に【ミライ】と名付けられるのは、また別の話。


終わり


※一人称ばかり書いておりましたが、三人称に挑んでみました。

面白かった方は★・ハートよろしくお願いいたします。 

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コンノとリカコ~メガネ男子とギャルがくっつくまでの15年間のダイジェスト~ 豊島夜一 @toshima_yaichi

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