変化する体~日常にある幸せ~




 薬を飲み始めて一ヶ月が経った。

 医師に診察されると、ちょっと恥ずかしかったが、子どもを作る器官ができているのが判明。

 さらに一ヶ月飲み続けて、排卵などが行われるかの確認をすることになった。


 まぁ、つまり。

 オメガバースみたいになった訳じゃ無くて。

 私はふたなりになったという訳だ。

 男ふたなり。


 面倒だけど、これも仕方ない。

 倦怠感や熱っぽさと戦いつつ、私は毎日診察を受けている。


 ちなみに診察は女性の医師。

 男性の医師もいるが、女性器に触るなら女性の医師がいいだろうということで女性の医師が毎日診察している。


 セバスさんとレオンさんがこの人なら大丈夫という方に任せられている。


「アトリア様、お体の具合は?」

「いつも通りです、倦怠感があって熱っぽいです」

「透視魔法で検査した結果、女性器はよく成長しています」

「あの、この薬でできたら女性器は閉経とかあるんですか?」

「残念ながらありません。特殊な薬ですので」

「わかりました、有り難うございます」


 主治医が出て行き、私はベッドに横になる。

「はー疲れる」

 そう呟くと、セバスさんが入ってきた。

「アトリア様、今朝とれた果実です、いかがですか?」

「いいんですか?」

 そう言ってオレンジや蜂蜜漬けのレモン等を出してくれた。

「いただきます」

 甘酸っぱい味が心地いい。

「んー美味しい!」

「それは良かったです」

「しかしあと一ヶ月近くかぁ」

「それが終われば、アルフォンス殿下と子作りの期間になりますが……」

「Oh、そうだった」

 ちょっと驚いていった。

「そういえば、アルフォンス殿下の子を妊娠した際と、他の方の子を妊娠した際私はやることは違いがありますか」

「いいえ、貴方様は体を療養していただくため、公にでることはありません。出るときは妊娠をしてないときです」

「そうなのですか」

「アトリア様の御身の為です」

「あー……」

 外に出て害意にさらされて、流産、なんてなったらしゃれにならないしね。

「有り難うございます、セバスさん」

「いいえ。このセバス貴方様の身を守るためにこの身を捧げる所存です」

「そ、そこまで……」

「正直アルフォンス殿下の執事をしていた頃よりも、アトリア様の執事をしていた方がやりがいと落ち着きがありますからね」

 おい、言っていいんかい。

「アルフォンス殿下はああいう方ですからね、本当に大変でした」

「あー……なんか分かる気がする」

「おわかりいただき幸いです」

「ところでアルフォンス殿下達は?」

「アルフォンス殿下は国王になるための勉強、他の皆様はその腹心となる為の勉強をなさっております」

「私は?」

「落ち着いたら伴侶教育を進めさせていただきます、私が」

「そうですか、有り難うございますセバスさん」

「いいえ、アトリア様。貴方は本当にお優しい方です」

「優しくなんてないですよ」

 苦笑すると、セバスさんは首を振った。

「いいえ、お優しい方です」

「でも……」

「アトリア様」

 セバスさんが近寄り手を握る。

「貴方様は自分の体が不調になる行為を受け入れ、国の為にその身を傷つけている、それでも笑って大丈夫ですよと言う」


「辛くても、笑い、なんでもないように受け入れる、そんな貴方の優しさに我我は甘えているのです」


「貴方を幸せにするといいながら──」

「セバスさん」

 辛い表情を浮かべるセバスさんの名前を呼ぶ。

「私、十分幸せですよ」

「なんと……⁈」

「セバスさんや皆が私を悪意から守ってくれて、それで子どもができるようになるのを皆楽しみにしていて」


「私はそれで十分幸せですよ」


「アトリア様、もっと欲深くてもいいのですよ?」

「欲深くなっては皆様に迷惑でしょう、それに私は大切にされているというだけで幸せを感じられるようになったのです」


 そう言うとセバスさんはぶわっと泣き出した。


「せ、セバスさん?」

「なんというもったいなきお言葉! これはアルフォンス殿下達にもお伝えしないと」

 セバスさんはそう言って部屋を出て行った。


 居なくなった部屋で、私は果実を口にする。


「甘酸っぱい……」


 頬を柔らかくさせ、頬張る。

 新鮮な果実を切り分けた者はどれも美味しかった。


 食べ終わる頃にセバスさんが戻って来た。

「アトリア様、アルフォンス殿下達にもお伝え致しました、皆様大変喜んでいらっしゃるようで」

「ちょっと良いですか?」

「ライラ王妃様!」

 王妃様がやってきた。

「アトリアと話したいのです、二人きりにさせてはいただけませんか?」

「勿論です」

 セバスさんはそう言って立ち上がり部屋の外へ出た。


 こほんと王妃様は咳をして私を見て微笑んだ。


「アトリア、お前は本当に良い子だな」

「いいえ、王妃様。私は成すべき事をなしているだけです」

「本当に欲が無い」

 そう言って遠い目をされた。

「お前に貴族連中を合わせなくて良かったよ」

「どうしてです?」

「貴族連中は金や宝石やドレス類でお前の気を引こうと考えている、だがお前はどれも不要だろう?」

「はい、今こうしているだけで幸せです」

「それは良い」

 王妃様は微笑んだまま私の頬を撫でられた。

「拒否したら逆恨みをしてくるだろう、お前にはその悪意を見せたくない」

「王妃様は見たのですか?」

「ああ、醜いものだったよ」

 王妃様は忌々しそうにおっしゃられた。

「拒否すると憎しみに変わるものもいる、そうして私の評判をさげようと必死になるものも出て──まぁその家は取り潰しとかになるわけだ」

「なるほど……」

「お前はそういうのをみたいか?」

「見たくないですね」

「分かった、お前と取り次ぐことが出来るのはバロウズ公爵だけにしよう」

「義父様と義母様達ですか」

「その通りだ」

「お会いしたいなぁ」

「そうか、待っていろ」

 王妃様は部屋を出て行った。

 そしてすぐ──

「「「「「「アトリア!」」」」」」

「バロウズ公爵様、それにご夫人……」

「さっき義父様と義母様といってくれたのでしょう? そう言っていいのよ、アトリア」

「は、はい。義父様、義母様」

「アトリア、体は大丈夫?」

「アリス姉様……はい、副作用が出ている以外は」

「貴族連中がアトリアに取り入ろうとしているから、俺等もなかなか顔を見たいっていっても許可が出て無くてな、一週間前仮許可がでて、ついさっき許可が出て会えるようになったんだ……」

「アトリア、体は大事にするんだぞ」

「そうよアトリア、体を大事にね」

「はい」


 学園時代、長期休みの期間以外なかなか会えなかったバロウズ公爵達と色々とお話できてよかった。


「ではな、アトリア」

「またね、アトリア」

「はい、また」

 話が終わり見送る。

 そしてまた王妃様が入ってきた。

「アトリア、どうだった?」

「久々にバロウズ公爵様達──いえ、家族と話せてたのしかったです」

「そうか、それは良かった」

 王妃様はそう言って微笑み、私の頬を撫でて下さいました──







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