殿下の事と、自分の事~幸福を願われる~
「そ、そういえば、今の王妃殿下はどうしてアルフォンス殿下達の父君である国王陛下と結婚したんです?」
怖いので話題をそらそうとアルフォンス殿下達を見ず、私はアルフォンス殿下に問いかける。
「結婚というか友人として王妃になったようなものです。
「本当ですか」
「はい、父にとっての妻は今も昔も私の母君のみです。義母様にとっても父の妻は自分の友人である我が母のみです」
「……」
そういう結婚もあるのか。
「じゃあ、なんで結婚したのです?」
「母が死んで父が廃人のようになりかけたのを、母の友人である義母様が叱咤激励と母の遺言状を渡して復帰させ、でもまだ本調子じゃないのを補佐している間に王妃になって補佐したほうがよくね? と周囲の判断もあり結婚と」
「なんじゃそりゃー⁈」
ある意味適当すぎねーか、いや政略結婚かこれ!
「あ、ちなみに、義母様は結婚する際、実家と縁を切ってます。自分の権力を我が物顔で使う実家の素性を知っていたので、そして義母様の実家は取り潰しになってます」
「ウワーオ」
とんでもないな、いやマジで。
「と、話をそらした所でアトリア」
わーい、話そらしたのばれてーら。
げー!
「アトリア、貴方は隙が多すぎる」
「はい?」
「兄弟になった相手とは言え、伴侶ではないのに体を触られても抵抗とかしないとか羨ましすぎる案件ですわ」
「そうですわ、そうですわ!」
あー。
どうやら六名はガロウズさんが俺を抱きしめたことに嫉妬しているようだ。
どうすればいいんだろう?
「アトリア様」
「なんです、セバスさん」
セバスさんが耳打ちする。
「アルフォンス殿下達を抱きしめて差し上げて下さい」
「まぁ、いいですけど……」
ちょうど六人が固まっているので、六人全員を抱きしめるように手を伸ばす。
さすがにちょっと無理があった。
「ちょっとそこをどきなさい!」
「お前こそそこをどけ!」
あ、ちょっとヤバい、どうしよう。
「アトリア様、一人ずつ抱きしめて差し上げて下さい」
「は、はい……」
今度はアルフォンス殿下から一人ずつ抱きしめた。
皆満足したようだった。
「あ、そうだ。さっきの話に戻るんですが、現王妃様と国王陛下に子は……」
「下りません、義母様も『作る気がない』との事です。義母様は恋愛感情が分からぬ方故」
「え……」
「ええ、だからアトリアとの結婚の時に色々言われましたよ『恋愛感情が分からぬ輩との結婚は大変だぞと、それが心に傷を持っているなら』とね」
「王妃様……」
「とりあえず、今回ここに来たことでアトリアには後ろ盾ができ、貴族も大きな顔ができなくなりましたね」
「はぁ……」
「何せバロウズ公爵殿の後ろ盾ですからね」
「おいーがやがや話してるのが聞こえてきたがどうしたんだ?」
「親父には関係ない」
「そうです関係ないです」
「関係ありません」
「関係ないです」
「関係ないですわ」
「そうです」
「お前等そろいもそろって反抗期だな全く、誰に似たんだ、あ、俺か」
「「「「「「「違います!」」」」」」
「だって俺、吸血鬼至上主義の糞両親と、糞祖父母に反抗しまくって最終的に処刑にまでもってって家は俺が継いだんだもん」
「それは……すごいと思いますが、それはそれです!」
「そうです!」
どうやら子ども達は父親を尊敬したいができないお年頃らしい、難しい年頃だなぁ。
「貴方達、あんまりお父様を困らせるんじゃありません!」
「「「「「「「母様!」」」」」」
「ようこそ、アトリア。私はバロウズ公爵夫人のアリアと申します」
「は、初めまして」
バロウズ公爵夫人は私をじっと見つめてから抱きしめた。
「本当、あの二人のいいとこ取りだわ、とっても綺麗な子!」
「ですよね、母様!」
「そうですよね母様!」
子ども達が母親に同意している。
いいとこ取りなのかどうか分からないが私はきょとんとするしかない。
「こんな子が私達の養子になってくれるなんて嬉しいわ」
「は、はぁ……」
「でも遠慮せず『アトリア・フォン・クロスレイン』で名乗っていいのよ大変な時だけ『アトリア・バロウズ』で通せばいいから」
「本当に、それでいいんですか?」
「いいのよ、私の愛したマリーローズとティーダの二人の分まで幸せになって欲しいの」
「……父と母の事を大切に思ってくれていたのですか?」
「勿論よ、夫より大切にしてた位よ。だからハンターが来るって報告が来たときそれは虚偽だと申告する時間が当時無かったから……真実の石もハンターに持たせる程数が作れなかったし……」
「……だから父は死んだのですね」
「アトリア……恨んでくれて構わないわ、私達は守れなかったんだもの」
私はその言葉に首を振った。
「貴方達が両親を愛してくれた大切にしてくれた事に感謝します」
「ありがとう……ああ、そうだわ、みんなで菓子を食べましょう? 良いお菓子が手に入ったのよ!」
そう言うと子ども等とバロウズ公爵は出て行った。
「……」
「アルフォンス殿下?」
「いや、彼らの言って居た言葉に嘘偽りは一つも無いなと」
青い石を見ながら言った。
「冷徹公爵ガロウ・バロウズ。肉親であっても容赦はしないと聞いていたが……実際見ると違うな」
「そうですね」
「そうだな」
「そうですわね」
「ええ」
「全くもって」
そんな事を話していると、ひょいと夫人が顔を出した。
「アルフォンス殿下、それにアトリア、皆様もいらして下さいな」
「では、行こうか」
「はい」
皆で食堂へ行き、菓子をいただいた、王都で売っているような高級菓子のように甘くて美味しくて果実の、ベリーの味が口いっぱい広がる。
美味しいお菓子だった。
それから数日間の滞在は楽しかった。
バロウズ公爵の息子さん娘さん達は私に本当に良くしてくれるし、夫人も同様だった。 アルフォンス殿下はバロウズ公爵と何か話していることが多いが内容は教えてはくれなかった。
王族と貴族の会話なのだろう。
そして滞在最終日。
「バロウズ公爵様、お世話になりました」
私は頭を下げる。
「いいってことよ! あ、六人の相手で嫌気がさして休みたくなったらうちにいつでも帰ってきてくれよ!」
「バロウズ公爵殿、失礼ですよ!」
セバスが言う。
「でも事実だろ? 六人の相手して寝込むんだから。今は学生だから回数少ないが、卒業したら増えるだろう?」
「ぐむ」
「「「「「「確かに……」」」」」」
え、そこ、否定して下さいよ皆さん。
「つーわけだ、あんまりアトリアを泣かせるなよ」
「分かっております」
セバスさんが言う。
「勿論です」
「アルフォンス殿下が約束は違えないでいただきたいですね」
約束?
「分かっていますとも」
「では帰りましょうか」
「では、失礼します」
「そこは行ってきます、でしょう?」
「──行ってきます」
夫人の言葉に私は笑って応えた。
夫人は嬉しそうな笑顔で見送ってくれた。
バロウズ公爵も、お子さん達も笑顔で見送ってくれた。
「あの、アルフォンス殿下」
「何です、アトリア?」
「約束、とは?」
「アトリアを不幸にさせないでくれ、そういう約束ですよ」
思っていたものと違った。
「あの方にアトリアの父と母、そしてアトリア自身にあったことを全てお伝えした、そしておっしゃったのです、これ以上アトリアを辛い目に遭わせないで欲しいと」
「……」
「ですからアトリア」
「はい」
「幸せになるよう、私達は善処します」
そう言って私の手を握った。
他の皆も頷いて握った。
私は幸せになってもいいのだろうか──
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