幸せについて~幸せを感じる、けれども~
王都に戻り、次はどこに行くか話をしていたが、私には行きたい場所などないので、六人に決めて貰うことにした。
その間、一人部屋の中で両親の肖像画を見る。
生まれた私を抱く幸せそうな絵。
私は今、幸せなのだろうか?
他の人から見れば、羨ましいと思われるのだろうか?
ふとそれが気になって中庭に行った。
彼女がいると思って。
「ジゼルさん」
「アトリアさん」
シルフィ、いやジゼルがそこに居た。
「アトリアさん、どうしたんですか?」
「……自分が幸せかどうか分からないんです」
「幸せ、ですか」
ジゼルの問いかけに私はこくりと頷いた。
「ジゼルさんにはどう見えます」
「幸せを享受しきれてないように見えます」
「受け入れられずにいるってことですか?」
「はい」
「……」
確かにそうかも知れない。
愛される幸せを受け入れきれない、大切にされる幸せを受け入れきれない。
どうしてだろう?
「きっと……アトリアさんのお母様が亡くなった時から幸せになってはいけないと思うようになったのでは?」
「……」
そうかもしれない。
母が死んだあの日から未だ私の心には大きな穴がある。
死んだ父母を再会したことで少し埋まったが、それでも穴は残ったまま。
『幸せにおなりなさい』
本当に、幸せになっても、いいんだろうか?
こんなに人に疎まれていたのに。
人を不幸にしてきたのに。
「アトリアさんは、誰かを不幸になんてしてませんよ」
「でも……」
「寧ろアトリアさんは不幸にされていた側です」
ジゼルはきっぱりと言った。
「他者の勘違いや、悪意によって不幸にされた側です」
「でも……」
「アトリアさんは、基本他者の不幸を喜ぶことはしないでしょう?」
「……」
それには答えられなかった。
奴が再起不能状態になり、療養院に入ると知った時、ざまぁみろとかでもなく、そのまま死ぬまで苦しみ続けろと思ったからだ。
「クリス教授に関して以外です。あの方は、だまされたとは言え罪無き方を殺してしまったから」
「……」
「アトリアさん」
「……」
「幸せになっていいんですよ、貴方は」
そう言うとジゼルは立ち上がった。
「ここから先は私ではなく、あの方々にお任せしましょう」
ジゼルはそう言って立ち去った。
あの方々?
首をかしげていると、声が聞こえた。
私を呼ぶ、六人の声が。
「アトリア、そこに居たのですか!」
アルフォンス殿下が駆け寄ってきた。
「一人でずっと此処に」
「いえ、ジゼルさんと話をしていました」
「もしかしてアトリア、ジゼル様のような天使がお好み……!」
「いえ、それは無いです。ジゼルさんは友達のような存在です」
「そう、なら良かった」
カーラが安堵の息を吐く。
「皆さん」
私は皆に聞くことにした。
「何ですかアトリア」
「どうしたアトリア」
「何だアトリア」
「どうしましたアトリア」
「どうなさったのアトリア」
「何かありましたのアトリア」
「私、幸せになってもいいんですか?」
少しの沈黙の後、全員に体を揺さぶられる。
「当然じゃないですか⁈ 何馬鹿なことを言ってるのですか⁈」
「当たり前だろう⁈ お前とんでもない馬鹿だな!」
「当然だ! 何馬鹿なことを言っている!」
「当たり前でしょう? 何馬鹿なことをおっしゃってるの⁈」
「当然じゃない! 何馬鹿なことを言ってるの⁈」
「当たり前じゃない! どうしてそんな馬鹿な事を言うの⁈」
と、全員に馬鹿と言われた。
なんか釈然としない。
「馬鹿は酷くありません?」
「「「「「「酷くない!」」」」」」
「どうりでいつも陰鬱な表情が抜けきらない訳です、幸せになってもいいか悩んで居たなら幸せを受け入れる事ができるはずがない」
アルフォンス殿下が頭を抱えた。
「ガロウズ公爵家の歓待も、何か微妙な表情をしていると思ったらそれか」
レオンがため息をついた。
「全く、私達の可愛い『花嫁』はどうしてこんなにも自虐的なのかしら」
ミスティが呆れたように言う。
だから花嫁言うのやめれ、一応私は男だ。
「アトリア様」
セバスさんがやってきた。
そして私の手を握る。
「申し訳ございませんが、ジゼル様とのやりとり影でずっと見せていただいた上で発言致します。アトリア様は幸せになってもいいのです」
「……」
「色々な事があったけど、貴方は他人を不幸にしようなんて気はほとんど無かった」
「……」
セバスさんは私をじっと見つめる。
「クリス教授の事は例外です、貴方はそれ以外の人を不幸にしようなどと行動しなかった。行動した結果、色んな事が明らかになった、それだけです」
「でも、それで不幸になった方が……」
「そういう方々は他者を不幸にしていた方々です、故に貴方の所為ではありません」
「そうですよ、アトリア」
アルフォンス殿下も口を挟んできた。
「ですから、アトリア様は幸せになって良いんです」
「……」
『幸せにおなりなさい』
ふと聞こえた両親の声。
それもあって、漸くストンと何かが落ちたような気がした。
「有り難うございます、幸せになります」
「といいますか、私達が幸せにしますしね」
アルフォンス殿下の言葉に他の五人が頷いた。
それから日常が一変した。
見る物全てがきらめいて見えて、幸福感を感じた。
食事も美味しい、で終わっていたものが美味しい、幸せ、と感じるようになった。
勉強で新しい知識が手に入るのも幸せを感じた。
何もかもが違って見えた。
けれどもまだそこまで違って見えないのが──
「アトリア愛していますよ」
「アトリア、愛している」
「アトリア、愛してるぜ」
「アトリア、愛しているわ」
「アトリア、愛してますわ」
「アトリア、愛していますわ」
……
六名からの愛に幸せを感じづらいのだ。
恋愛が分からない所為なのだろうか。
「ありがとうございます」
と、お礼を言うものの、罪悪感が勝ってこのままでいいんだろうかと思ってしまうようになっていた──
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