後ろ盾~血のつながりのない兄弟ができた~




「う、うーん……」

「アトリア様、気がつきましたか」

 気がつくと柔らかなベッドに寝かされていた。

 セバスさんが側に居た。

「セバスさん……」

「急に倒れられて心配しておりました。他の方々はまた倒れられると困るので外に出て貰っております」

 私は起き上がろうとしたが、セバスさんがそれを辞めさせた。

「アトリア様、御身はまだ体調が万全とは言いがたい状況です、ここはしばらく休んでください」

「でも、ここに来るまでは何もありませんでしたよ?」

「それでもです、精神的なものが色々と来ているのでしょう、しばしお休みください」

 セバスさんにそう言われて私は再び目を閉じ眠りに落ちた。


 目覚めたのは深夜。

 吸血鬼の血的にはもっとも活発的になる時間。

 空腹感を覚えて外に出るとセバスさんと鉢合わせ。

「もしかしてお食事ですか」

「ええ、お腹がすいて……」

「よろしければお作りしましょうか?」

「え、いいんですか?」

「台所をお借りする許可は既に取ってあります」

「ありがとうセバスさん」

「食事はお持ちするので、お部屋にお戻りください」

「分かりました」

 先ほどの部屋に戻り、ベッドに腰をかけているとノック音が聞こえた。

「はい、どうぞ」

 セバスさんではないことを知りながら部屋に招き入れると、バロウズ公爵とよく似た男性が入ってきた。

「貴方は?」    

「ああ、俺はガロウズ・バロウズ。バロウズ公爵の長男で第一子だ、跡継ぎ予定」

「はぁ」

「それにしても、あのお腹の中に居た子がこんな美人に育つなんてなぁ……親父達結婚の約束とかしてくれてればよかっったのに」

「え?」

「あははは、冗談冗談。お前には六人も伴侶が居てしかも未だ恋愛感情が分からない事は一緒に来たアルフォンス殿下達から聞いたよ」

 ガロウズさんはそういって笑った。

「生まれてくるのを楽しみにしてたのに、その楽しみを奪われて俺は相当癇癪起こしたからな、その貴族一族郎党ごと処分ー! ってわめいてたからな親父と一緒に。未だ取り潰しだけで済んだのにはむかついてる」

「ははは……」

「だって、それが無かったらお前は俺達と家族同然に過ごせてたかもしれないんだぜ? そしたら色々とお前の事守れてたかもしれないのに……」

 ああ。

 彼なりに、私の事をずっと心配していたのか。

「お前の親父さんが死んだって聞かされたのはつい最近だ。アトリア・フォン・クロスレインの名前が有名になって父母が死亡、父はハンターに殺されたという情報も流れてきてな。親父もアンタを探してたけど、領地から出るのは大変だからな」

「そうだったんですね……」

「漸く見付かったから親父大急ぎで出かけたんだよ、俺等が渡してくれって行った物忘れて、あの馬鹿親父」

 確かに反抗期のようだ。

 だが、ある意味仕方ない。

「渡したい物、とは」

「これだよ」

 ルビーのブローチだった。

 男女兼用のデザインをしている。

「生まれたのが男の子か女の子か分からなかったから、どっちでも使えるようにティーダさんと、マリーローズさんのイメージを合体させて俺達兄弟でデザインしたんだ」

「まぁ」

「貰ってくれると嬉しい、今まで何も出来なかったからこれから色々と手助けしたいんだ」

「有り難うございます」

「アトリア様」

「あ、セバスさん」

「お食事をお持ちしました。おや、そのブローチは?」

「ガロウズさんに……」

「俺等兄弟からの贈り物です、結婚祝いと思ってくれて結構です」

「それと、アトリア様、重要な話があります。食事をしたままでいいから聞いて下さい」

「はい……」

 私はリゾットを口に入れながら耳を傾けた。

「アトリア様は、貴族の血を引いた平民という事ですが後ろ盾があった方が良いという話しが王室で出ておりました」

「は、はぁ」

「お妃様の時も貴族の血を引いた平民でしたが、後ろ盾をつけました。元の家が干渉しないように」

「……はぁ」

 何となく分かる、あの家に干渉されるのは嫌だろう。

「バロウズ公爵様とお話になった結果、バロウズ公爵様が後ろ盾となって下さることを了承して下さいました」

「え」

 私は驚いてスプーンを落としかけた。

 なので一端食事はストップする。

「ある意味、養子縁組です。ただバロウズ公爵様から『アトリア・フォン・クロスレイン』を名乗ったままでいい、緊急時にバロウズの名でアトリア・バロウズと名乗る程度でいいとおっしゃって下さいました」

「ご、ご迷惑じゃ……」

「迷惑じゃないさ、大歓迎だよ」

 ガロウズさんが笑顔でおっしゃいました。

「親父も今回はなかなかやるなぁ、見直したぜ」

「と言うことで」

 ドラゴンのようなブローチを渡されました。

「バロウズ公爵家の紋章です。つけていれば良いでしょうと」

「俺の家は結構有名だからな、悪意を持って手を出したら恐ろしい目に遭う、とな」

「オゥイエ」

 なんとも言えない。

 そんな怖い家で見かけたからと嘘?情報流した貴族は度胸あるなぁ。

「あの、ハンターは追い返せないのですか?」

「それがだな、真祖様に申告した場合は親父でも追い返せないんだ、後に親父が事情を話して、情報を流した家は取り潰しになりましたが処分が妥当だと俺達も思っている」

「……」

「ハンターの来る申告とそれは虚偽だという申告をする時間が無くて親父達はお前の両親を逃がす決断をした、しばらくして帰ってきてくれたらよかったんだけど、帰っては来てくれなかった……」

「そしてそのまま私の父は本当のハンターに殺され、母は病んだ……」

「親父達や俺達がもっと上手くやってればこんなことにはならなかったと思っている、許してくれとは言わない、罵ってくれて構わない」

 ガロウズさんが頭を下げた。

 私は首を横に振った。

「私の父と母を守ろうとして下さった方々がにどうしてそのような事ができましょうか、本当に有り難うございます」

「……有り難う、アトリア」

 ガロウズさんは、少し泣きそうな顔をしてそう言った。

「ところで話は変わるんだが──」

「はい」

「六人も相手するのって体疲れねぇ?」

「ぶふっ」

「ガロウズ殿!」

 私は吹き出したが、冷静に考えた。

 これはセクハラでは?

 いや、セクハラという概念が無いからどうしようもないが……

「ガロウズさんだから言いますが、確かに体が大変です」

「だよな、よしアルフォンス殿下に抗議するか」

「だ、大丈夫です! めったにないので!」

「でも、するときは六人全員とだろう?」

「え、ええ……」

「やっぱり抗議するか」

「だ、大丈夫ですので!」

 私は何度も大丈夫と繰り返した。

 それでもガロウズさんは納得できないようだった。

「ガロウズ殿、よろしいでしょうか?」

「ん、ああセバスだったか?」

「確かにお相手するときはアトリア様は六人全員の相手をしなければなりませんが、それは本当にめったに無いこと」

「そうなのか?」

「アトリア様をぶっ倒れさせようものならこのセバスがアルフォンス殿下含む皆様方を説教しております」

「本当か、アトリア」

 私はこくこくと頷くしか無かった。

「なら、いい。俺達の義弟おとうとになったアトリアを泣かしたら俺等全員で抗議しにいくからな」

「勿論それは分かっております」

「親父に国王陛下に言うようにも頼んどくか、親父に頼むのは癪だがアトリアの為だ」

 私は若干戸惑っていた。


 母さんのお腹の中に居たときしかここに居ないのに、それだけで私をここまで心配してくれて、後ろ盾にもなってくれるなんて、と。

 それに自分の名前を「フォン・クロスレイン」を大事に思っているのを分かってくれてて普段はそれで通して緊急時だけ「バロウズ」の名前を使っていいなんて。


「お人好し過ぎます……」

「そうでもないぞ、俺等冷血公爵の一族って言われてるからな」

「でも……」

 ガロウズさんが私を抱きしめます。

「俺は俺の親父の友人で、俺達に良くしてくれたティーダさんとマリーローズさん、そしてお腹にいたお前が幸せになるのが望みだったんだ。ティーダさんとマリーローズさんは……悲しい結果に終わったが、アトリア、お前は幸せにしたいんだ。その為なら後ろ盾になるくらいお安いご用だ」

「ガロウズさん」

「えーガロウズ殿」

「んー?」

「貴方様のご兄弟と、アトリア様の伴侶──アルフォンス殿下達がドアの隙間から凝視しております」

「げぇ⁈」

「兄貴ずりぃ!」

「ずりぃぞ兄貴!」

「兄貴ずるい!」

「兄様ずるい!」

「お兄様ずるい!」

 と、ご兄弟にもみくちゃにされるガロウズさんを見て微笑ましくなる。

 そしてはっとして背後に立つアルフォンス殿下達の気配に、私はちょっと怖くて振り返れなかった──






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