父の悪友と領地訪問~知らない父母を知る、そして……~




「アトリア・フォン・クロスレインって男子学生はいるか?」

 貴族服をすこし形崩しさせている、吸血鬼の貴族がやってきた。

「あの、どちら様で……」

「おーおー! 嫁さんとティーダの野郎のいいとこ取りだなこりゃ!」

 私が顔を見せるなり、その吸血鬼は言った。

「バロウズ公爵殿、アトリアは私の伴侶です。もう少し口調をどうにかしていただきたい」

「これはアルフォンス殿下、失礼致しました。悪友の息子に漸く出会えたので感動のあまりつい」

 アルフォンス殿下は真実の石を見る。

 石は青くなっていた。

「バロウズ公爵様、私に何の用が……」

「そうだそうだ、大事な物を渡す為に」

「?」

 バロウズ公爵はそう言って小さな指輪入れを見せて開けた。

 二つの指輪が入っていた。

「あのこれは……」

「ティーダの野郎が俺のところに身を隠していた時に作らせた結婚指輪だよ。本当は二人に持って行って欲しかったんだが、急にハンターが来ると知らせがあって俺に預けて、俺は二人を逃がしたんだよ」

「母さんと、父さんの結婚、指輪……」

「男の子ならアトリアと名付けるって聞いてたからな、で遠方にいる俺に『アトリア・フォン・クロスレインというクロスガード学園の学生』の功績が届いたもんだからもしやと思って会いに来たんだ」

「これ渡しに?」

「そう、それと……」

 サファイアのブローチを渡された、男女兼用できそうなデザインだ。

「生まれてきた子が大きくなったら渡したいってのも預からせられてな、お前のお袋さんと親父のプレゼントだ」

 アルフォンス殿下は再び石を見る。

 石は青い。

「嘘は言ってないようですね」

「なんでそんなに警戒されるんだろうなぁ?」

「いえ、アトリアの周囲で色々とありまして……」

「そりゃ仕方ないか」

「あの、バロウズ公爵様!」

「ん、どうしたんだアトリア」

「父と母の事、教えて欲しいんです。私が知らない事」

「いいぜいいぜ、俺が知ってること全部話してやりますよ」

「本当ですか⁈」

 屋敷の客間で、私とバロウズ公爵は話すことになった。


 周囲には六名の監視付きで。

 警戒してるなぁ。

「まず、自己紹介から俺はガロウ・バロウズ公爵。祖父母、父母が吸血鬼至上主義者だったからそれを国王陛下に内部告発して祖父母、父母が処分になったから俺が公爵になった。嫁さんはダンピールの子爵令嬢。可愛いのに反抗期な子どもが六人いる」

「……」

「で、ティーダの野郎とはクロスガード学園時代からの友人でな、お互い吸血鬼至上主義の親を持ってティーダはどうしようかと悩んで居るところだった、彼奴も俺みたいに内部告発すればよかったのに、身内だからと余計な苦労ばっかりしてた奴だよ」

「……」

 確かに彼の言う通りだろう。


 そうすれば父と母は──


「だからって、ティーダを恨むなよ。アトリア。奴はお前に両親になにかしたら起きる『時限爆弾』だけは用意していた。これ本当な」

「……」

「そうか、その『時限爆弾』でアトリアが吸血鬼にされるのを防ぐことができたのか」

「アルフォンス殿下、さすがです」

 バロウズ公爵は続ける。

「俺の知り合いの貴族の勘違い野郎が、俺の屋敷に吸血鬼なのに人間を手込めにした輩がいると報告した馬鹿がいてよ、それで二人は屋敷から逃げる羽目になったんだ。あ、そいつは俺が詳細報告して家取り潰しになったから」

「身重の母が?」

「そう、あのまま普通に言ってれば俺の家で暮らして家族同然の暮らしが出来るはずだっのに……あの野郎、処分申し込みしたのに取り潰しで済んだのが未だ理解できねぇ」

 バロウズ公爵は苛立っているように言った。

「情報を収集したんだが、訂正する時間も無かったから金銭をたっぷり渡して逃がした。訂正する時間が無かったのが悔やまれるぜ、ハンターは動きが速いからな」

「それで……母さんと父さんはどんな?」

「見てるこっちが恥ずかしいほどラブラブいちゃついてたぜ、俺の嫁さんも『私もあんな風にしたらいいかしら』とか悩んでて俺の脳みそもたないから辞めてくれと頼んだこともある」

 そんな両親から生まれた私が、恋愛が分からないとは、皮肉だ。

 いや、前世から引き継いだのもあるだろうけども。

「嫁さんは、おっとりとして物静かだった、平民出身とは思えないほど気品をまとっていたよ。ティーダの野郎はまぁ、吸血鬼の貴族らしからぬ、温和な奴だったよ、争い毎はできればしたくない、会話で解決したい、そういう理想主義って奴。自分でも無理なのは分かってても願うしか無かったと言って居た」

「温和?」

 私は首をかしげた。

「あー、吸血鬼の貴族は圧が強いんだよ、癖が強い、六人の伴侶を持つアトリアなら分かるだろう」

「確かに」

「おい、アトリア⁈」

「ちょっと、アトリア⁈」

 グレンとミスティが文句を口にした。

「いや、事実でしょうお二方」

「ぐ」

「もう!」

 アルフォンス殿下に苦笑いされて、グレンとミスティは口を閉ざした。

「人間の貴族と比較にならん程圧と癖が強いからな、吸血鬼の貴族は」

「それ、バロウズ公爵様にも当てはまるんじゃ……」

「俺は圧はねぇが癖は強いのは知ってるからな! 妻には威厳をもっと出せって叱られてるけどこれでいいんだよ」

 奥様苦労してるんだろうなぁ。


 それから色々と話は続いた。

 父母が屋敷を頼ってきた経緯、そして屋敷に滞在中の交流、妊娠した時の喜び等──色々語ってくれた。


「アトリア、良ければ今度俺の領地に来てくれないか?」

「え?」

「一人で来いとかは言わないさ、皆で来てくれ」

「はぁ……」

「じゃあ、俺はこれで帰るわ。またな!」


 バロウズ公爵はそう言って帰ってしまった。

 色々聞けたのは嬉しかったけど、彼はどうして貴族至上主義にならなかったのか気になった。

「アトリア、安心してくれ大丈夫そうだよ」

 アルフォンス殿下は「悪意の石」を取り出した、石が白いなら悪意はないということになる。

「皆で行きましょうか次の長期休みに」

「はい」

「わかった」

「畏まりました」

「勿論ですわ」

「楽しみですわ」

「奥様とはじっくりお話がしたいですわ」

 なんかミスティが根に持ってる。

 どんまいです、バロウズ公爵様。



 講義はそれから何事も無く繰り返され、長期休みに入った。

 二年目、二度目の長期休み。


 私達は、王族御用達の馬車に乗り、バロウズ公爵の領地へと向かった。

 広々として、人々が生き生きとしていた。

 結界も張られていて吸血鬼もダンピールも日中を元気に歩き回っていた。



「よぉ、アトリア、来てくれて嬉しいぜ‼」

「ぐぇ!」

 出迎えたバロウズ公爵に強く抱きしめられ、私はカエルが潰れたような声を出してしまった。


「バロウズ公爵殿‼」

「おっと、済みませぬアルフォンス殿下。二度と会えない甥っ子が家に帰ってきてくれたようなものでございまして」

 開放されると、私はけほっと咳き込んだ。

「我が伴侶を抱き潰す気ですか」

「誓ってそのようなことは」

 アルフォンス殿下は石を見る、青い。

「では、案内を」

「勿論でございます」

 屋敷に案内されると、美しい銀髪に赤い目のご婦人がいた。

「まぁ、貴方がアトリアなの?」

「は、はい」

「会いたかったわ!」

 ご婦人も私に抱きついてきた。

「母上……と父上何をしてるのです」

アトリア・・・・が来たのよ!」

「何ですって‼⁇」

 その言葉を皮切りに六人の成人したバロウズ公爵の子らしき方々が私を抱きしめていった。

「お腹の中にいたから心配だったんだぞ!」

「でも元気そうでよかった!」

「王都での噂は親……父上から聞いている、すごいぞ」

 等など、話しかけてきて私の頭は混乱し──


 倒れた。


「「「「「「「「「「「「アトリア‼」」」」」」」」」」」」


 私を呼ぶ声がたくさんあるのを意識を遠のかせながら聞いた──






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