幸せと仇の負傷~私はどうすればいい?~




「幸せ、幸せ、幸せ……」

 自分が幸せなのか、考えてみる。

 わからない。

 第一王子の伴侶という恵まれた、けれども責任のある地位に私は居る。

 それを幸福だと思えるだろうか?

 伴侶として責任ある態度を求められる。

 他の五人──レオン、グレン、カーラ、ミスティ、フレア。

 その五人の伴侶でもあるけれどもこれも幸せなのだろうか?

 レオン達の結婚は公にされてない、学生達は知っている可能性は高いけれども、他の人たちは知らない。

 それは幸せなのだろうか。


 考えれば考えるほど気分がモヤモヤしてきた。


 部屋から出て外に行こうとすると──


「今日はお部屋でゆっくりお休みくださいませ!」


 とセバスさんに再び部屋に押し込まれ、ベッドに寝かしつけられた。


 体が主だるいのは事実だが、寝てばかりというのも面倒。


 起き上がって部屋をうろうろと歩く。

 そしてため息をつく。


 答えが見つからない。

 何が正しいか分からない。

 どうすればいいのか分からない。



 きっと、私が復讐心を捨てれば何もかもすむ話かも知れない。

 でも、それができない。

 できっこない。

 復讐こそが私の願い。


 けれども、だからといって魔王になりたい訳ではない。


 ノック音が聞こえた。

「はい?」

 扉を開けると、血相を変えたセバスさんが居た。

「アトリア様」

「なんでしょうか?」

「クリス・アルフレイン教授が魔の者に襲われ重傷になったと」

 どくんと心臓が大きく脈打った。


 あいつが、魔の者に襲われた?

 何故、魔の者に襲われる?


「……今、どのような状況ですか?」

「魔の者の猛毒により、予断を許さない状況です」

「……」

「アトリア様」

「連れて行ってください」

「え」

「私は許せない」


 そんな事で、死ぬなんて。



 医療室へ案内される。

 ほかの六人も私が何かしないように着いてきてくれた。



「あ、アトリア君……」

「──許さない」


「私は簡単に死ぬなんて許さないと言ったはずです‼ だから魔の者の毒なんてものに負けて死ぬな!」


「は、はは……君にそう言われる、とは、ね……」

「簡単に死ぬなんて、許さない……」


 私はそう呟くと、そのまま医療室を出て行った。

 複雑な感情に押しつぶされそうになる。

「アトリア、もう屋敷に帰りましょう」

「そうよ、アトリア屋敷に帰りましょう?」

 アルフォンス殿下とミスティがそう言うと、私は小さく頷き、屋敷に戻ることにした。



 その途中、ガチャンと音がした。

 何かが壊れる音。


 頭上から黒い鱗がびっしり生えた人型で角とコウモリの翼が生えた不気味な存在と、真っ黒なオオカミのような生き物が口からだらだらと液体を垂らし、じゅうじゅうと床を焼いていた。


「アトリアか、貴様を犯し喰らって俺が魔族の王に──」

「てやー!」

「ごふ⁈」

「「「「「「⁇⁈」」」」」」


 シルフィじゃなくてジゼルが跳び蹴りを魔の者の顔面に食らわせていた。

 ジゼルはそのまま弓矢を構えるような動作をして──


神の矢サジッタデイ‼」


 無数の光の矢が魔の者と黒いオオカミのような生き物を貫き、塵になった。


「うーん、結界がもろくなってきてる気がします! もしくは、魔の者の数が多すぎるとか‼ アルフォンス殿下早急に国王陛下に連絡を! 私は上にいる連中を倒してきます‼」


 ジゼルはそう言って天高く飛び上がった。


「アルフォンス殿下、殿下とレオンは王宮へ向かってください、私達は屋敷に戻ります」

「わかった、急いで戻るんだよ」

「はい」

 私達はアルフォンス殿下と別れ、屋敷に急いで戻った。



「皆様、どうしましたか?」

 セバスさんが急いで来た私達に首をかしげた。

「アルフォンス殿下は? レオン様は?」

「それが……」

「結界が弱まっている⁈ もしくは魔の者の数が多くなっている⁈」

「はい、ジゼルさんはそうおっしゃってました」

「結界が弱まることはまずないでしょう、となると頭上にいる魔の者達の数が増えている?」

「でも国外に出たりしている方に被害は出てないんですわよね?」

 ミスティが問いかける。

「はい、そういうのは一切……」

「……やはり私が……」

「おいアトリア」

「はい」

 グレンが両手で顔をバチンを叩くように包んだ。

「いいか、連中の狙いがお前であるのは事実だがお前には非はない」

「ですが、奴が被害者に……それに先ほども私を狙って……」

「だからどうした、それがなんだ」

 グレンは言い切る。

「奴らの都合にお前が振り回されているだけだ、我らはお前を守る、そう決めたのだ」

「そうよ、グレンの言う通り私達が貴方を守るわ」

 ミスティが言う。

「そうですわ、私達が守るのですもの」

 カーラも賛同する。

「魔の者に目にもの見せてやりましょう!」

 フレアも言った。

「アトリア様、私共もアトリア様を守ります、ですのでどうか自分をお責めにならないでください」

「……」

 そう言われても、自分を責めてしまう。


 奴だったから罪悪感は少なかった。

 だが他の人なら私は抱えようのない罪悪感に襲われただろう。

 被害者がこれ以上でない、いや。


 被害者は、私だけでいい。

 他の誰も被害をださせない。

 その為にはどうすればいいのか。

 魔の者を壊滅させるにはどうすればいいのか。

 考えてみても答えはでない。


「少し部屋に戻ります……」

 私は自室に戻り、考える。


 魔王になったらそれこそ相手の思うつぼだ。

 かといって犯され喰われたら魔王が生まれてしまう。

 自死する勇気はない、というかそうしたら皆が悲しむだろう。


 何が正しいか分からない。

 でも、やるべきことを見つけてそれを成さねばならない。

 成さねばならない事がたくさんあるのは分かっている。


 母の最後の願い「幸せになって欲しい」これを叶える為にも──






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