初夜の翌日~悪夢とこれから~
「皆様、アトリア様の体は一つなのです、もう少し加減を!」
式の翌日つまり初夜を終えた後、昼頃目覚めた私の前で正座させられ説教される六名が。
セバスさんが怒ってらっしゃる。
「セバス、だがアトリアが余計な事を考えて悩むからつい……」
「だからってやり方がありますでしょう!」
体が重だるい。
そんな体を引きずって皆の前に顔を出す。
「おはようございます……」
「アトリア様、おはよ……いますぐベッドにお戻りを!」
セバスさんは私を抱きかかえて寝室に向かいベッドに寝かされた。
「今すぐ滋養に良いものをお作りしますので、ベッドから起きないように」
「え、でも……」
「いいですか! これは私からのお願いです!」
立場上命令とか言えないからお願いになっているが、相当酷い状態だったのだろうか。
と自分の頬をむにむにしてみる。
ちょっとかさついている。
「どうぞ、お食べください!」
一見見るとおかゆっぽいけど匂いがそうでないのを気づかせる料理。
なんだろうこの料理は?
「我が家秘伝の料理です、さぁお食べください。ダンピールや吸血鬼でも問題ないものです」
そう言って食べると、米の中から肉が出てきた。
味はそう、何だろう、食べたことがないが……もしやスッポン系?
ニンニクは駄目、卵は入ってる、その上この不思議な味……元いた世界で言うスッポンか?
もしかして。
まぁ、とりあえず材料はなんだか分からないが野菜も入っていたので食べていく。
お腹が減っていたのもあり、完食する。
「なんか全部食べてしまってすみません……」
「いえ! いいのですよ、寧ろ全部食べていただいて良かったです!」
セバスさんは明るくそう言うと、今度は私の手足や顔にクリームや化粧水を塗り始めた。
「体の手入れがなっていません、幸い今日は休日ですので、ゆっくりと休んでください」
そう言って部屋を出て行った。
「行っちゃった……」
一人の部屋で私はぼやく、すると。
『けっこんおめでとうですの!』
天使のシルフィが姿を現した。
「ねぇ、シルフィ。信じられない事だと思うけど聞いて欲しいことがあるんです」
『なぁに、アトリアおにいちゃん!』
私は彼女に語った。
私の前世の事、そしてこの世界は私の世界にとってゲームだったこと。
そして主人公は本来シルフィであること。
くっついたりするならシルフィが他の皆と仲良くなったり結婚したりして、自分は魔王になるかならないかのサブキャラということ全部。
『ふーん、でもね。それならいまのこのせかいのちゅうしんはアトリアおにいちゃんってことになるの』
シルフィは何かに納得したかのように言う。
「主人公ね、君の事を殺した姉は君に成り代わる為に殺したんだ」
『でも、わるいことはしちゃだめなの、おねえさまはかりそめのまおうになってしんだのだわ』
「うん、そうだ。でも悪い事といってるなら私もしてる」
『どんな?』
シルフィが首をかしげる。
「憎む事」
『アトリアおにいちゃんがにくむのはしょうがないよ、しあわせがこわされちゃったんだもん』
「本当に? 私だけが?」
『しあわせをたにんにふみにじられたひとは、にくむけんりがあるし、ゆるすけんりもある。でももってるのはそのひとだけ、たにんがきょうようしちゃいけない』
「他人が強要……」
『でもね、あとりあおにいちゃん、ねがうのはきょうようとはまたちがうよ』
「願う……」
『あとりあおにいちゃんのおかあさんはあとりあおにいちゃんのしあわせをねがった、だからあとりあおにいちゃんに、ふくしゅうにとらわれないでいまのしあわせをみてほしいってつたえたんだとおもう』
「今の幸せ……」
「私は、幸せなのだろうか……」
根本的な疑問がわいてくる。
幸せかと問われた際、私は即答できない。
それくらい展開や事態が急すぎて追いついていけていないのだ。
『アトリアおにいちゃんがしあわせかどうかはわたしもわからないの、だってわたしはあとりあおにいちゃんじゃないんだもの』
「シルフィ、君は今幸せかい?」
『うん、とっても! おかあさまとおとうさまはおはかまいりになんどもきてくれるし、うえのてんしさまはやさしいし! かみさまもやさしいし!』
「そうか……」
『じぜるとしてちにおりたとき、てんしであることはあかしてはいいけど、しるふぃだってことはばれちゃだめっていわれたの、あとりあおにいちゃんいがい』
「だろうね」
『だからおとうさまとおかあさまにはなしかけられないのがつらいかな、ばれちゃうかもしれないから』
「そうか……」
『でもがくえんせいかつたのしいからいいよ!』
「……君が一年早くジゼルとして来ていたら、皆私じゃなく君を選んだかもしれないのに」
そうこぼすとシルフィはきょとんとした。
『それはありえないの、ちにいきるひとたちはてんしをこいすることはないの、あこがれはいだくかもしれないけど』
「……そうなんだ」
割と天使に恋する人間とかそういうのはあると思ったけど、そうではないらしい。
『しるふぃも、ぜんぶおわったらてんかいにかえっちゃうからね』
「全部って?」
『あとりあおにいちゃんのけんがおわるまで』
「いつ、終わるんだろうね……」
『そこがふめいなの、それはあとりあおにいちゃんしだいなの』
「私次第……」
命運は自分の手にあると言われても、困る。
魔王になんてなりたくない。
でも奴は憎い。
だから苦しみ抜いて死ねと言った。
今もそう思ってる。
『とりあえず、いまのおにいちゃんにひつようなのはきゅうけいだからやすんでね、じゃあね!』
「ちょっとシルフィ……」
シルフィは消えてしまった。
私ははぁとため息をつき、ベッドに横になる。
そして目を閉じた。
燃える。
世界が燃えている。
あれは何だ?
アルフォンス殿下⁈
グレン⁈
レオン⁈
カーラ⁈
ミスティ⁈
フレア⁈
何でみんな倒れているんだ⁈
他の人々も倒れている……
どうして私の手は
真っ赤なんだ?
「──‼」
声なき悲鳴を上げて私は起き上がった。
あの夢は正夢か悪夢かどうでもいい、確実に魔王になった私の、皆の末路だ。
こんな危険な輩、皆と居てはいけない。
『おもいとどまるのー!』
シルフィが現れ、私を再度ベッドに横にならせる。
『おにいちゃん、あれはまのものがみせたまぼろしなの』
「でも、皆を私は……!」
『おにいちゃんは、みんなとはなれちゃだめ』
「どうして?」
『おにいちゃんには、みながひつようだからだよ』
「必要って……」
『おにいちゃんがまおうにならないために、まおうにならないためのささえが』
「でも……」
私が反論しようとするとシルフィの手が私を包んだ。
『おにいちゃん、あれはおにいちゃんとみんなをひきさこうとしてみせたあくむなの』
「引き裂こうとして……」
『おにいちゃんはふあんてい、だからまのものがかんしょうしやすい、ゆめのなかとかにね』
「……」
『そのことについてもあしたはなすから、あしたはがっこうにきてね!』
「……うん、分かったよ」
『なの!』
シルフィは再び居なくなり、私はふぅーと息を吐く。
「……」
「私はどうすればいいんだろう」
何をすればいいのか分からなくなり、一人、呟いた──
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