選抜隊の惨状~復讐は終わった、後は魔王ルートを潰すのみ~




 私は難題に直面していた。

 母の願いという難題に。

 願いは二つ「幸せになって」それと「復讐にとらわれないで」というもの。

 どちらも難題だ。

 私は今幸せかどうか分からない。

 分からないからどうしようもない。

 次に「復讐にとらわれないで」というもの。

 無理だ。


 復讐心が私の心の根底にある。

 それをどうにかするのは難しい。


 復讐はしたい。

 だが、しないで欲しいと願う母の気持ちも分からないではない。


 母は、自分達を妬んで嘘を吐いた者達が処刑されるのを見て笑っていた。

 あのとき母の復讐心は満たされたのだろう。

 多分。

 でも、自分は満たされない。

 奴が、いる限り。




 はぁと、ため息をつく。

『とくさくじゃないのー!』

「うわ!」

 シルフィが現れた。

「な、何が得策じゃないんだい?」

『あとりあおにいちゃんいがいのひとがまのちへいってたいしょするのがとくさくじゃないのー!』

「ええ? どういう事?」

『まのちのふういんはあとりあおにいちゃんがてきにんなの、でもそれいがいのひとがいくとふういんどころかまのえじきになるのー!』

「い、急いで伝えないと」

『だからいってくるの!』

 シルフィはそう言って消えてしまった。

「ど、どうしよう」

 ノック音がした。

「はい、どうぞ」

 扉が開く。

「アトリア、父上から聞かされたが魔の地を封印しに選抜隊が組まれ向かったらしい」

「え゛」

「……アルフレイン教授も選抜隊に所属することになって出発済みだ」

「な……⁈」

 奴が、何故。

「……自分から立候補したそうだよ」

「っ……!」

 苦しみ抜いて死ぬ為にいったのか、奴は⁈

 私の見えないところで!



「アルフォンス殿下! アトリア様」

「どうしたんだ一体⁈」

「選抜隊が消息をたったと!」

「っ……‼」

 私の中でいろんな感情が渦巻いて苦しかった。

「大丈夫です!」

「ジゼルさん⁈」

「い、いつの間に⁈」

 ジゼルがいつの間にか部屋に入ってきていた。

 セバスちゃんも驚いている。

「私が救助に行ってきます、しばしお待ちください!」

 そう一言だけ言ってその場から立ち去った。

「ジゼルさん……」

「天使だという彼女を信じよう」

「はい……」

 憎いはずなのに、無事を祈るという矛盾感情。

 私はどうしたら良いか分からなかった。



 翌日、ジゼルと二人の男女が選抜隊を引き連れて王都へ戻ってきた。

 皆負傷が激しく、特に──

 特に奴の負傷が激しかった。

 左半身はもうないといって等しかった。

 目は駄目、腕は食いちぎられ、足も同様だった。

「ジゼルさん、どうにかできませんか?」

「できません、こういうのに奇跡は使ってはならないと言われているので」

 私は瀕死の奴に言う。

「何勝手に死ににいってるんですか! 私の目の届く範囲で苦しんで死んでいって欲しかった! 責任と罪に押しつぶされながら生きて欲しかった! なのにこれはなんなんです‼」

「アトリアさん……」

「こんなので私の父を殺した罪が償えると? 母を病ませた罪が償えると思ってるんですか⁉」

 そう怒鳴りつけると奴は口を開いた。

「君が……魔王にならないためなら……なんでもしよう……そう、思ったんだ……」

「それこそ余計なお世話だ!」

 本当に余計なお世話だ。


 憎い相手からこんな思いを言われるなんてまっぴらごめんだ。


 奴は怪我が最も酷かった為、聖女の治療も効かず教授職を辞めることになった。

 今回の選抜隊の多くが後遺症が残る程の負傷をした為、療養院に入れられるはずだったのだが、奴はそれを拒否して一人で生活することを選んだ。

 が、私が──


「ふざけるな野垂れ死ねとは、罪悪感に押しつぶされて死ねとは思ったがそんな暮らしで死なれてもこっちが迷惑だ!」


 と言って無理矢理療養院に入れさせた。

 それから顔も見ていない。


 そして私は謁見の魔に連れて行かれ──

「アトリアよ、ジゼルから聞いた。其方が行かねばならぬと」

「はい、私もジゼルから聞いております」

「ならば、行ってくれるか」

「勿論──」

「私も行きます!」

「俺もだ!」

「私もです」

「私もよ!」

「私もですわ!」

「私も!」

 いつの間にいたのか、アルフォンス殿下達が後ろに居た。

「ならぬ!」

「いえ、来てくださるとより安全です」

「え⁈」

「ど、どういうことなのだ⁈」

「皆さんなら、アトリアさんと私と共に、魔の地へ行き浄化することが可能でしょう」

 マジ⁈

「しかし……」

 国王陛下が渋い顔。

 だよなぁ、第一王子にもしもの事があればだもんなぁ。

「ご安心ください、国王陛下。アルフォンス殿下含め皆さんをお守りしてゆきます」

「だが……」

「安心してください父上、無事に帰ってきます!」

 アルフォンス殿下の言葉に国王陛下は諦めたのかため息をついた。

「くれぐれも怪我はせぬようにな」

「はい!」

「魔の地を封印するには封印の剣が必要です」

「そんな都合の良いものどこに……」

「ここにあります!」

 ジゼルが懐からどうやって取り出したか分からないが取り出した。

「これをアトリアさんに魔の地の中心部に突き立て突き刺して貰います。半分くらい突き刺せれば目的達成です」

「だが、魔の地に行くまでどうするのだ? 其方一人では……」

「ですから私の父母──基上司の熾天使のオルフェ様、アルフェ様に頼みます」

「なるほど……しかし、何故選抜隊の助けが遅れたのだ?」

「まさか、調査もろくにせず魔の地へ行くとは思わなかったんです」

「ぐ……」

 国王陛下、調査してなかったんかーい。

「来週から長期休みに入ります、その間に片をつけるのが良いでしょう」

「そうですね」

「では、明日までに準備を!」

「え」

「もう出来ています」

「俺もです」

「私もです」

「当然ですわ」

「勿論ですわ」

「当たり前ですわ」

 と平然と言う六人。

 準備できてないの私だけ?

 ……急いで準備しよう。



 その夜、急いで準備をしてセバスさんにも手伝って貰った。

 セバスさんは、アルフォンス殿下から屋敷を守るよう言われたから着いてこれないらしい。


「アトリア様、どうかご無事で」


「はい」



 魔王にならないと決めたんだ、復讐すると決めたんだ。

 だけど、復讐は終わった。

 彼奴は痛みを抱えながら人の手を借りて惨めに生きていくのだから。

 ざまあみろと思うが、すっきりしないところもある。

 それでももう、終えた、と納得させる。

 後は魔王にならない為に動くだけだ──






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