あなた達が愛してくれたから~大切、それだけで~




 呼ぶ声がする。

 私を呼ぶ声が。

「ん……」

「「「「「「アトリア‼」」」」」」

「肝心な時に居なくて申し訳ないです‼」

「本当だ、済まない‼」

「俺が別件で居ない間に、本当に済まない‼」

「側にいてあげられなくてごめんなさい‼」

「貴方を守ってあげられなくてごめんなさい‼」

「本当、ごめんなさい」

「い、いいんです……寧ろ謝るのは私の方です……」

「何を言うの⁈」

 カーラが困惑の声を上げる。

「私は奴におか──」

「アトリア、言わなくていい。それ以上は」

「でも……」

「君の傷を自分で広げなくていいんだ」

「……はい」

 私は小声で口にした。


「アトリア」


「私達は皆君を愛している」

「でも私の体は穢れてて……」

「穢れているというなら、共に穢れよう、これから一週間は学園が緊急休校だから毎日一人ずつ、君の元に行き、君を抱こう」


「共に生きると私達は誓ったのだから」


 アルフォンス殿下の言葉に皆が頷く。

 どうしてそこまでしてくれるのだろうか、まだ分からない。



『おにいちゃんごめんね、たすけてあげられなくて』

 シルフィ!

『ほかのひとがいたからすがたをあらわせられなかったの』

 いや……いいんだ。

『でもヴァイエンをたおしちゃったよおにいちゃんすごいね!』

 憎しみと復讐心が増大して力が増幅してたからできた芸当だよ。

『でも、おにいちゃんすこしだけまおうかしてる』

 げ、まじ。

『うん、でもほかのろくにんのひとがだいてくれるからきれいにきえるよ』

 ……なんで抱いてくれるんだろう?

『おにいちゃんがすきだからだよ』

 どこが好きになったんだろう?

『おにいちゃんがきになってしかたないからだよ』

 気になる?

『あとはじぶんでかんがえてね?』

 うん……



 シルフィの声が聞こえなくなった。

 きっと役目を終えて帰ってしまったんだろう。


 少し魔王化してしまっている私。

 余計抱かせたくない、拒否しよう、そして学園を去ろう。



 そう思いながら夜、自分の部屋で眠ろうとすると、アルフォンス殿下がやってきた。

「殿下……」

「アトリア、君の考えは分かるよ。君は少しだけ魔王化しているだから抱かれたくないんだね、穢れてしまうと思うから」

「……何で」

「君の体の事は調査済みさ」

「……」

「君を愛する私達が抱くことで君の魔王化は少しずつ浄化される、それも分かっている」

「でも私は……」

「愛しているよ、アトリア、だから君を助けたいんだ」

 その言葉に、私は気がつけば涙を流していた。

 私は泣きながら、アルフォンス殿下に抱きしめられ、抱かれた。

 優しい、性行為だった。


 翌日はミスティだった。

「アトリア、私は貴方を大切に思っているの。だから貴方を助けたいの、傷ついている貴方を、私達を思い消えようとしている貴方を」

 彼女の胸の中で無き、抱かれた。

 優しい、まぐわいだった。


 その後のレオン、カーラ、グレン、フレアも皆優しくしてくれた。

 優しく抱いてくれた、あの時の汚辱感が忘れられる程優しく。


 強姦されると、強姦してもいいと判断して傷つける人がいると聞いたが、彼らはそうでは無かった。

 それは私にとっての救いだった。


 六日後──

「目が戻ってる」

 目の色が元に戻っていた。

「アトリア……ああ、いつもの美しい目だ」

「本当だな」

「ああ」

「ええ、いつもの綺麗な目!」

「そうね」

「あの目よりこっちがいいわね」

 と六人はそれぞれ口にして、私を囲み抱きしめた。

「「「「「「戻って良かった……‼」」」」」」

 六人はそう言って泣いた。

「泣かないでください、そんな」

「お前の体が戻らなかったらどうしようとおもっていたんだ」

「ええ、貴方の体が戻らなかったらどうしようと」

 グレンとアルフォンス殿下が言う。

「で、でも、皆さんのおかげで戻りました有り難うございます、そしてごめんなさい……」

「どうしたの?」

「皆さんの事は大切ですが、やはり皆さんに恋愛感情を抱けないのです。それは不義理だと思います、ですので婚約を」

「「「「「「破棄はしない‼」」」」」」

「え、ええ……」

「恋愛感情が無くとも大切に思っていただけてるなら十分!」

 アルフォンス殿下が言う。

「その通りだ、大切に思って貰っているならそれだけでいい」

 グレンも言う。

「いいかアトリア、恋愛感情が重要じゃない、大切かどうかだ」

 レオンが続ける。

「そうよ、相手を大切に思いやってるなら、それだけで十分なのですわ!」

 カーラが高らかに言う。

「恋愛感情があっても大切にしないなら意味がないですもの、大切にしてくれているだけで十分婚約続行の理由にはなりますわ!」

 ミスティが力強く言う。

「アトリア、だから婚約破棄なんて考えないで、私達と一緒に学園を卒業しましょう?」

 最後にフレアが優しくしめた。

「……はい」

 気がついていたら私は泣いていた。



 再び講義が再開し、講義を終えて屋上に皆と行くと、そこには奴がいた。



「……」

「やぁ、アトリア元気になったんだね」

 私は答えない。

「君を苦しめているのがよく分かったよ、でも君はその苦しみで私を殺そうとはしなかった」

「何が、言いたい──」

 奴の居る場所は、屋上の柵の外。

 まさか。

「さようならアトリア、私は私の罪故に地獄へ落ちるよ」

 そう言って柵から手を離した。


 落ちる。


 私は無我夢中で走り、足を掴んだ。

 そして引きずりあげた。

「どうしてだい……君の望みだろう⁈」

 困惑している奴に私は言う、血反吐を吐くように。

「違う! 私はお前に死ぬまで苦しみ続けて欲しいだけだ! 簡単に自殺で終わらせるなんて許さない!」

「……」

「私は許さない、こんな簡単な行為を! 自殺するなら苦しみ抜いて自殺しろ! 私はお前が苦しみ抜いて死なないと許せない!」

「アトリア……」

 泣きながら叫ぶように言った、奴は呆然としている。

 すると、アルフォンス殿下達が私を抱きしめた。

「クリス教授、アトリアの事を思うならばどうか長く生きて罪を償い続けてください」

 アルフォンス殿下が言う。

「死にたくなったら苦しむ方法で死ね、教えてやる」

 レオンも口を挟む。

「わかりました……生き続けて苦しみ続けましょう、アトリア君、君が望むなら」




 私の復讐はまだ終わらない。

 奴が苦しみの果てに死ぬ日まで──






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