病んだ心は癒える?癒えない?~母の病みと、自分の病み~




 泣いてすっきりした私は、レオンにその後事情聴取にやっぱり連れて行かれた。

 その際、一人になるべくならないようにすることと、学園内と寮の結界を強めることを話された。

 なるべくなので助かった。


 翌日の講義も普通に受けることができた。

 胸のざわめきは消えないけれども。

「そういえばグレン」

 講義終了後、ミスティがグレンに話しかけた。

「何だミスティ」

「話してたから入れなかったんですが、貴方の一族でそんなことありましたの?」

「ああ、あったとも。一族の悲劇として語られてるよ、本人にも会ったことあるしな」

「その方はどうやって魔王になるのを阻止を?」

「恋人がいて常に寄り添っていたらしい、憎しみも全て受け止めてくれたそうだ」

「ほほう」

 ミスティが私に腕を絡める。

「アトリア、辛いことがあったら私におっしゃいなさいな。受け止めて差し上げますわ」

「ってそこ抜け駆け!」

「あの結構です、私そういうのいいんで……」

「アトリア、君は恋愛感情が理解できないといったけど、本当なのかい?」

「本当です……」

「ふぅむ、それは大変だ」

「あの、ですので皆様他の方と仲良くなられた方が有意義かと……」

 本心を述べる。

「何をいいますか、恋愛感情が分からなくとも結婚はできますし、お付き合いはできるでしょう?」

「ちょっとアルフォンス殿下⁈」

「だから抜け駆けは禁止と」

「おや、抜け駆けしてるつもりは毛頭ありませんが」

「この御方は……‼」

 カーラが怒っている。

「で、では私次の講義まで一人になりたいので……」

「どこへ行く?」

 レオンが問いかける。

「……図書館へ」

「分かった」

 私はそう言ってそさくさとその場を後にした。



「はぁ、一人の時間ってほっとする」

 図書館で一人で読書し、安堵の息を吐く。

 あの六人も居ないし、心は落ち着いてるし、言うこと無しだ。

 静かに本を読む、植物学の本だ。

 いろんな植物が載っていて、見るだけでも楽しい。

 植物は好きだったから、何か部屋に置こうかなと考える。

 すると多肉植物がのっていた。

 四つ葉の形でぷっくりしていて可愛い植物だ。

 観葉植物のようで害もない。

 次の休みに買いに行こう。

 母の様子を見た帰りに。


 そんな事を考えていると次の講義の時間が近づいていた。

 私は本を戻す場所に本を置き、そのまま図書室を後にした。


 次の講義は──

 植物学の講義だった。

 楽しく講義ができて良かった。

 まぁ、内容は食肉植物の講義で危険な植物には近寄らない事というのだった。



 今週の講義も終わり、外出届けを出して受理された。


「……だからなんで今回もついてくるんです?」

「学外は結界がそこまで強く無いからね、今父上に掛け合ってるんだけど結界を張る魔法使い達が足りなくてね」

「はぁ……」

 一人で母のところに行きたかったが、六人はそれを許してはくれないみたいだ。

 前科があるし。


 家の前に来て扉を開ける。

「ただいま」

「ああ、アトリア様。お帰りなさいませ」

「母さんの様子はどうですか?」

「数日前来た城の魔法使いの方々から何か見せられてから気分がよくなったようで」

「?」

 私は母の居る部屋へ入り、扉を閉めた。

「母さん、ただいま」

「ああ、お帰りなさいアトリア、学園生活はどう?」

「うん、順調だよ。母さん、気分が良くなったって何があったの」

「カーテンを閉めてちょうだい」

「?」

 言われるがままカーテンを閉める。

 母が水晶のような透明な球体を取り出すと部屋の明かりが消えて、壁に映像が映り、球体から音が流れ出す。



『お、俺たちより良い生活をおくってるのが許せなかったんだ! だから許してくれ!』

『私達は悪くないわ、悪いのは良い生活を送ってた吸血鬼達なのよ! だから許して!』

 村人達が次々と処刑されていく映像と音声が流れる。

 私は理解した、父を殺すように依頼した村人の処刑の映像だと。

 だが、心は晴れない。

 映像が終わると、部屋は明るくなる。

「うふふふ、私の夫を、ティーダを殺すよう依頼した連中の処刑する映像をくれたの。贖罪する連中がいないのは腹が立つけど、無残に処刑されていくのを見ると気分が良くなるの」

「そう……母さんの気分が良くなったなら、私は嬉しいよ」

「アトリアは嬉しくないの?」

「ううん、嬉しいよ」

 嘘をつく。

「そうよね、私達の幸せを壊した連中が無残に死ぬんだもの、嬉しいわよね」

「……」

 母の心は病んでいる。

 私の心もおんなじだ。

 けれど母は今救われ始めている。

 でも、私は──

「アトリア?」

「──ううん、ちょっと考え事をしてただけ。どうしたの」

「貴方五人に求愛されてるのでしょう? 好きな人はできた?」

「……ごめん母さん、私は恋愛感情が、分からないんだ」

「ああ、可哀想なアトリア。でも大丈夫、いつか分かるわ」

 分からない気がする、とはとてもじゃないが言えなかった。



「アトリア、君の母君についてだけど……」

 帰り道、アルフォンス殿下が話しかけてきた。

「あの映像媒体の記録水晶を母に渡すよう指示をしたのは、アルフォンス殿下。貴方ですね」

「……すまない、少しでも復讐心が晴れると思って」

「母に渡してくれたことは感謝します、母は病んでいますがそれでも癇癪を起こさなくなったようで」

「それは良かった、アトリア。君も見たのだろう?」

「……心が全く動きませんでした、何故でしょう。復讐したい存在の末路を知れたのに気分が晴れないのです」

「アトリア……」

 アルフォンス殿下は心配そうな声を出す。

「お気になさらないでください」

 私はそう言って笑った。

 そしてちょうど視界に植物を売っているらしい出店があった。

「あ、ちょっと買い物をしたいのでいいですか」

「勿論だとも」

 他の四人も頷いた。

 レオンだけが頷きもせず私を見ている。

「植物図鑑で見た珍しい物が多いな……あ、これだ、これを──」

「アトリア、下がれ‼」

 レオンが私の首襟をつかんで引っ張った。

 すると巨大化した食肉植物が私を喰おうとしていた。

 レオンはそれに何かを投げ込むと、食肉植物は破裂した。

「貴様、この国の民ではないな⁈ どこの者だ‼」

 逃げようとした店主を捕まえ、ナイフを取り出した。

「答えない場合は指を一本ずつ切り落とす」

「ひぃ‼ は、話す! 聖ディオン王国の者だ‼」

「あの人間至上主義の国の者か……アルフォンス殿下、私はこの者を連れて行きます。その間アトリアを宜しくお願いします」

「人間至上主義とは笑わせるわ、我ら吸血鬼、ダンピール、人間は違いはあれど等しく同じもの。共に生きる存在、至上主義とは笑わせる」

 ミスティが忌々しそうに言った。


 聖ディオン王国。

 確かこの国の敵国で、争い続けている。

 吸血鬼とダンピールを排除している存在だったはず。

 ハンターもこの国が多く存在している。


──奴も元はこの国のハンターだった──


 心がざわめく。

 カーラが抱きしめた。

「大丈夫よ、アトリア。貴方は私達が守るわ」

 少しだけざわめきが静まった。

「……それよりこの植物どうしよう?」

「他の植物は問題なさそうだね、店主は連れて行かれたから、それタダで持って行ってもいいんじゃないかな?」

「……なんかそれだと罪悪感がわくので、別のお店で買います。花屋はどこですか」

「それなら向こうの通りにある花屋が種類豊富だ」

 グレンが説明してくれたので、四つ葉の形の多肉植物はそこで購入した。

 霧吹きとかも、そこで購入した。


 寮に戻り、部屋の自分の区画に飾る。

「可愛いな」

 そう笑みを浮かべる。


 そして部屋から出て行く、食事を取るために。

 食事の時にはレオンは戻ってきて一緒に食事を取った。

 レオンに先ほどの人がどうなったかちょっと聞いたけど、答えてはくれなかった。


 まぁ、敵国で犯罪行為をしようとしてたんだからよほどの目に遭ってそう。


 そう考えながら、ステーキを一切れパクリと口にした──






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