誓いの口づけ~六人の婚約者ってそれありなの⁈~




 また学園が始まり、講義が開始した。

 今日の講義は敵国聖ディオン王国について。

 人間至上主義を掲げて罪の無い吸血鬼やダンピールを虐殺しているのだと。

 この国にも何度も攻め込んでいるが、歴戦の戦士達が国を守っていると言った。

 人間も吸血鬼もダンピールも手を取り合って、暮らすこの国の領土を狙っていることも教えられた。

 この国の領土は豊かで、鉱山もミスリル鉱山が複数あるほど。

 海や川も豊かで、最良の土地だそうだ。

 だからこの土地が欲しくて仕方ないらしい。


 ここまで聞いてふと思い出した。

 そういえば、私が魔王になるルートの時、最初に滅びるのは聖ディオン王国だっけか──

 だけど、私は絶対魔王にはならないぞ。

 と決意はするが、ヴァイエンがいつ私をまた襲いにくるか分からない。

 魔王になったらどうしよう。

 不安が心を支配する。



 講義が終わると、私は息を吐き出した。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫か?」

「大丈夫ですの?」

「大丈夫です?」

「大丈夫なの?」

 五人が私を心配したように声をかける。

「……少し疲れました」

「聖ディオン王国ではないとはいえ、我が国でも吸血鬼に逆恨みをする人間はいる、その犠牲者の君には辛い講義だったかもしれない」

「……」

 犠牲者。

 確かにそう言われればそうかもしれない。

「わかり合うことはできないのでしょうか?」

「わかり合うために、我が国は努力をしている……がそれでもまだ足りないのかもしれない、悔しい話だが」

 アルフォンス殿下が苦虫を噛み潰したかのように言う。

「……」

「でも、時間をかけてわかり合えるようにするとも」

「……」

 私は心が重いのを感じながら図書室に向かった。

「……」

『おやおや、怨敵とも言える国がでてきてそれに襲われたのに、平然を装うとは、けなげだねぇ』

「⁈」

 気がつくと、隣にヴァイエンが立っていた。

「貴様……!」

「図書室ではお静かに、だろう?」

 学生服を着ているので、他の生徒は気づいていない。

「憎いだろう、君の家族の幸せを奪った人間共が、ハンターが」

「……」

「今なら君に口づけをするだけで君を魔王に出来そうだ」

「触るな、汚らわしい」

「そんなつれないことを言わないで、ほら」

 体が動かなくなり、口づけされそうになる。


 複数の拳と、蹴りがヴァイエンにめり込んだ。


「⁈」

「学生に紛れ込んでくるとはしつこいな貴様」

 レオンが怒りのこもった声で言う。

「全くだ、結界をもっと強固なものにするよう進言せねば」

 アルフォンス殿下が続ける。

「俺たちのアトリアに手を出そうなんざ許すものか」

 グレンの言葉に、女性陣三名が頷く。

「ちっ……諦めないからな!」

 ヴァイエンが元の姿になって消えた。

 図書室がざわめく。

「アトリア、何かされませんでしたか?」

「口づけされそうになりましたが、なんとか無事──」

 アルフォンス殿下が最後まで言う前に私に口づけした。

 フリーズする。

「「「「「アルフォンス殿下⁈‼‼‼‼」」」」」

 五人がアルフォンス殿下を引き離す。

「抜け駆けは無しとあれほどおっしゃったのに……!」

「酷いですわ!」

「アトリア、も、もしかして、貴方、家族以外で、キスしたのはアルフォンス殿下が初めて⁈」

「あ、あ、え、あ、はい」

「「「「「アルフォンス殿下‼‼‼」」」」」

 何故かレオンも怒っている。

「アルフォンス殿下、王族が口づけをする意味をご存じですか⁈」

 レオンが怒ったように言う。

「もちろんだとも」

「「「「ぬ、抜け駆けだー! 卑怯王子ー‼」」」」

 私は知らない。

 困り果てて首をかしげるだけ。

「婚約するという事だろう」

「はい?」

 なんておっしゃいました。

「……王族が婚約するとき、相手と口づけをするのだ」

 レオンが苦虫を噛み潰したように言う。

「ちょ、ちょっと待ってください、私にそんな気ありませんよ⁈」

「じゃあ、私達だって!」

「え、ちょ、まー⁈」

 残る四人が代わる代わるキスをしてきた、口に。



「図書室ではお静かに‼」



 もう既に注目の的になってる私は恥ずかしいやら何やら。


「レオン、君は口づけしなくていいのかい?」

「な、何をおっしゃられます、アルフォンス殿下⁈」

「ははは、君とは長い付き合いだから。君の気持ち位分かっているよ」

「……アルフォンス殿下は本当に卑怯です」


 へ?

 ちょっと待て、レオン、まさかお前まで⁈


「おい、アトリア、こっちを向け」

「は、はい?」

 レオンの方をそれでも向いてしまう。

 口づけをされる。


 フリーズする。


「俺もお前の事が好きだ」

 口を離してそう言われる。


 私はぶっ倒れた。


「あ、アトリア⁈」

「ほ、保健室へ、急ぐぞ!」



 なんやねん、なんでや。

 なして六人全員に求愛されなあかんのだ。

 神様、私何かしましたか?



「……はっ⁈」

 目を覚ますと、保健室だった。

「あ、アトリアさん。目覚めたんですね。よかった」

 保健室の職員が安堵したように息を吐いた。

「あの、職員の方、ですよね」

 そう言うと、職員さんは微笑んだ。

「勿論です、学内に貴方を狙う輩が忍び込んだ報告を聞き対応させてもらってますので」

「良かった……って良くない、講義!」

 講義を一つ出損ねてしまった。

 頭を抱える。

「心配しなくてもいいですよ、私達のアトリア」

「はい?」

 今、なんと?

「講義はきっちりノートに取っておりますので、あとで皆で教えますとも」

 アルフォンス殿下がそう言ったが、私が聞きたいのはそっちではない。

「あの、先ほど、なんと?」

「ですから、講義──」

「その、前です」

「──ああ、『私達のアトリア』の箇所ですか」

「そうです、その箇所です‼ 何があったんです⁈」

「抜け駆けは無し、しかしアトリアは恋愛感情が分からないならば、私達共有で守り慈しみ、愛そうと」

「ど、どういう訳です」

「つまり、貴方は私達六人全員の婚約者となった訳です」

「……」

 私は再度ぶっ倒れた。

「「「「「「アトリア⁈」」」」」」


 そんなんありか──……


 六人の声を遠くに聞きながら私の意識は遠のいた──





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