復讐心は消えること無く~救われない思い、愛せない事実~




 再び学園での講義が始まった。

 学び直すのは結構楽しかったりする。

 ただ、すぐそばにあの六人がいるのが居心地が悪い。

 五人には恋愛感情とか分からないって断ってるのにアプローチを辞めないしつこさには若干呆れもする。

 こう言う時に思う、何故ヒロインがいないのだと。

 それか他方々、この五人にアタックを何故しない。

 優良物件なのは確定してるんだぞ。

 と思い、聞いてみたら。


『だって、あの方々、お前にぞっこんじゃないか』


 と呆れたように言われた。

 解せぬ。

 まぁ、近くに居るだけで、講義や食事の邪魔をすることはないのでいいとする。

 今のところは。

 ただ──


「……」

「「「「「「……」」」」」」


 一人になりたい時もついてくるのはどうにかして欲しい。

 そもそも一人にならないように学園の職員に言われているのが辛い。

 魔の者に狙われているのが原因なのが辛い。

 かといって復讐心を捨てることは今の私には出来ない。

 復讐心がある限りヴァイエンは私を魔王にしようとするだろう。

 それは御免被る。


 二進も三進も行かない状況。


 しかし、一人になりたいので猛スピードで学園の屋上へ今回は逃げた。

 足の速さだけは、六人に勝てるらしく最終手段として使うことに。


「はぁ……」


 屋上に着きため息をついて目の前が居れば奴がいた。

「……」

 向こうもこちらに気づいたらしく振り返った。

「アトリア君……」

「どうもご機嫌よう『私の父を殺した先生』」

 冷たく言い放つ。

「分かってる、私は取り返しのつかないことをしてしまった。君と君の母上を病ませてしまい、君は復讐心から魔の者に狙われるようになってしまった」

「余計なお世話ですよ『無実の父を殺した先生』」

「……ああ、その通りだ。村の者に言われてよく確かめもせず、当時の私は君の父を殺めた」

 村の連中?

 ああ、そういえば近くに村があったっけ。

「その後、村の者達は嫉妬で君の父が母を無理矢理手込めにしたと嘘をついたことを証言して、村全員処刑された。私も罰を受けた、よく調査せずに殺した事に」

「罰を受けたからなんなんです? 処刑されたからなんなんです? あなた達がどんな罰を受けたとしても、私の愛する父、母にとっては愛する夫が奪われ、二度と戻ってこない事実は変わらないのですよ?」

 淡々と事実を述べる。


 怒りが復讐心が心を支配する。


『やはり貴方こそ魔王にふさわしい』

「⁈」

 ヴァイエンが姿を現す、奴が何かを手に取った。

 聖銀で作られたナイフがヴァイエンの体に刺さる。

「ぐ⁈」

「私の生徒に手出しはさせん‼」

「ふふふ……復讐心を生み出した輩が何を言うか」

「それでもだ!」

 ヴァイエンは不吉な笑みを浮かべて姿を消した。

「アトリア君、無事……」

「触らないでください!」

 私は奴を睨み付ける。

「お前になど、助けられたくなかった‼ 私の父を殺したお前なんかに‼」

 そう言って屋上から走って逃げ出した。

「アトリア君‼」

 奴が私の名を呼ぶが聞きたくなかった。



 講義が無かったから図書館の隅に縮こまって体育座りをして嗚咽をこぼす。

 本当は大声で泣き叫びたかったけど、それができない。

 泣き叫ぶのができないのってすごい苦しい。

 声を抑えて泣くだけでも楽になると思ったけど、すっごく苦しい。

 図書館でそれができないし、誰かにすがるのは嫌だし。

 それで変な勘違いされたくないし。



「アトリア、ここに居たのか」

 声で分かるグレンだ。

 でも私は蹲ったまま顔を上げない。

「クリス教授から聞いたぞ、あの魔の者にまた狙われたそうだな」

「……」

 私は答えない、答えたくないから。

「……やはりクリス教授の事は許せないか」

「許せません」

 そう一言だけ呟いた。

「まぁ、お前の気持ちは分からんでも無い。俺自身ではないが親類に同じような境遇の父子が居た」

「……」

「母親が我が一族の吸血鬼でな、子どもが幼い頃に無理矢理連れ去ったと父親に恋慕を抱く女共がハンターに依頼して母親が殺された。子も危ないところだったが、我が一族の者がちょうど訪れて、事なきを得た。父親は妻を守れなかった事を病み、子は母を殺したハンターと、それを依頼した女共を憎んだ。お前と同じように魔の者に誘惑された」

「……」

「が、子はそれを拒否した。あの女共のようにはなりたくないとな。復讐心を捨てるのでは無く、感情のまま動くけだものに落ちるのを拒否し魔王にならずに済んだ」

 いつの間にかグレンが隣に座っていた。

「まぁ、お前もそのようになれとは言わない。が、魔王になぞならんでくれ。そうなってしまったら俺はどうしたらよいのか分からなくなってしまう」

 頭を撫でようとした手を払う。

「触らないでください……今は誰にも触られたくないんです……」

「そうか……すまないな」

 しばらくの間、無言のまま私は蹲っていた。


「グレン! 貴方まで抜け駆けを⁈」


 ミスティの声がした。

「図書館では静かにしろミスティ」

 グレンはミスティをそう咎めた。

「~~‼ そうですわね、でも抜け駆けは許さなくてよ」

 ミスティそう言って私に近づいてきた。

「アトリア、大丈夫?」

 と手を伸ばしてきたので払った。

「すみません……触らないでください……今は誰にも触られたくないんです……」

「そう……ごめんなさい」

 ミスティは手を引っ込めた。

「やっと見つけたぞ、面倒をかける護衛対象だ」

 苛立った声、レオンだ。

「また、魔の者に狙われたそうだな。職員で対策会議を始めることになったぞ、事情聴取のため来て貰う」

「ほっといてください」

「そうはいかん」

 レオンが手を伸ばそうとするとミスティとグレンが防いだ。

「何をする貴様等、これは重大な案件なのだぞ」

「だからといって傷ついてるアトリアを連れていこうとするのは許しがたい」

「ええ、そうね。もう少し落ち着くまで待ってあげなさいな」

「一刻の猶予もないかもしれないのだぞ!」

「レオン、落ち着きなさい」

「アルフォンス殿下‼」

「図書館では静かに」

 アルフォンス殿下がやってきた。

「魔王が生まれればそれこそ、我が国で大きな問題になるし、他国でも問題になるだろう」

「それが分かっているなら何故……」

「アトリアが魔王に自発的になろうとするなら私達は止めねばならない、だがアトリアは魔王になりたくないと拒否しているのだ。私達がするのは彼を守ること、そうだろう?」

「ですが、事情聴取をしなければ……」

「事情聴取なら教授一人で十分だったそうだ。アトリアに必要なのは──」


「一人になって大声で泣く時間だよ」


 その言葉に私は目を見開く。

「しかし、一人にしては……」

「寮に戻って貰えばいい、その間君は部屋の外で待機すればいい」

「……分かりました」

「アトリア、寮に戻りましょう」

 私はこくりと頷き立ち上がって寮へと向かった。


 部屋に一人きりになると、私は大声で泣いた。


 許せない、憎い、苦しい。

 そんな感情が堰を切ったようにあふれ出る。


 誰も私を救えやしない。

 だって私は誰も愛せないんだから。

 恋愛感情を知らぬ私は、愛せない。


 母の事も救えない。

 私達母子は救われない、許すことができないから──






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