〇〇の物語
下手の横好き
第1章 『護りの迷宮』
第1話
この世界はどうしてこうなってしまったのだろう。
まだ外国に行ったことはないが、至る所で争いが起き、人々の意識や思考は自己を中心に回り始めている。
自分さえ良ければ他人はどうでも良い、
そんな悲しい人達が目に見えて多くなってきた。
道徳や倫理をとことん重視するには、今の世界は複雑になり過ぎた。
他人に迷惑をかけないのなら、どんな生き方でも良いとは思うが、自分はやはり、人との交流が欲しい。
感動を共有し、意見を交わし、温もりを分かち合う他者の存在を必要とする。
尊敬する両親が亡くなってからは特に。
俺の両親は、超一流企業でバリバリ働くエリートだった。
2人とも1年の大半を海外で過ごし、家に帰って来るのは年に数日。
俺が小学校を卒業するまでは、2人で半分ずつくらいは日本で生活していたのだが、中学生になると、家事の全てをそつなくこなす俺に安心し、夫婦2人で生活の拠点を海外に移した。
だから土産はいつも、ブランド品の高価な品々ではなく、その土地や地域での、仕事における苦労話や感動体験ばかりだった。
こう言うと、まるで仕事ばかりに専念して、実の子供に全く興味が無い薄情な親のように感じる人もいるかもしれないが、決してそんな事はなかった。
電話やメールでは最後に必ず、独りにしている俺に対して謝罪していたし、単身で生活している俺が困らないよう、毎月多額の生活費を振り込んでくれてもいた。
俺自身も、
都会の楽な場所で簡単に稼ぐことをせず、豊かさとは何かを知らない人々の中に溶け込んで、現地の人達と共に汗を流す両親を。
・・でも、高校に入って直ぐ、そんな生活は終わりを告げた。
外国人ばかりを狙う、とある宗教組織の無差別なテロにより、俺の両親はその命と夢を一瞬にして絶たれた。
唯一の救いだったのは、現地の人々が、怪我をしてまで両親を
俺だけの葬儀の場にわざわざ駆けつけてくれた両親の上司に当たる人が、そう教えてくれた時、それまで何とか耐えていた俺の涙腺が決壊した。
両親が共に一人っ子だったせいか、俺に身内はいない。
祖父母も双方とも病で既に亡くなっており、葬儀の手配は両親の会社の人達が全てやってくれた。
今後の生活については、何の問題もなかった。
只でさえ毎月の仕送りで預金が増えていたのに、両親の預貯金や退職金、生命保険金などがとんでもない額となって俺に入ってきて、多少の贅沢をしていても、一生遊んで暮らせる程になっていた。
住む家のローンも完済されており、通う高校の学費は都が全額負担してくれる。
なので、生活のために学生の内から働く必要はなく、心に
今の俺は高校1年生。
これまでは、いつも突然に帰宅した両親の為に部活には入っておらず、授業が終わるとさっさと帰宅しては勉学に励んで家事スキルを磨き、空いた時間で幼い頃からやっていた空手の自主訓練をこなしていた。
だがその両親が亡くなった今、俺には、メールで気安く会話を交わせる相手すらいなかった。
別に陰キャでもなければ、コミュ障という訳でもない。
学校に行けば会話をする相手は居るし、偶に昼食を一緒に取る人だって居る。
どちらも同じ人だけど。
けれど、その相手が自分をどう思っているか分らない以上、形式的な遣り取りから一歩踏み込む勇気まではなかった。
部活にしても、入学して半年近く経った今更、敢えて入ろうとは思わなかった。
そんな俺が、他者と交流を持つために選んだのがネットゲーム。
今までテレビゲームすらしたことなかったが、父のネット株を相続して株式にも手を出してから頻繁にパソコンをいじるようになったので、いちいち専用の機材を買い揃えるテレビゲームではなく、こちらを選んだ。
仮想空間で、アバターを用いて遊ぶネットゲームなら、相手のリアルな素性は分らないし、たとえ失敗してもやり直しがきく。
検索をかけると、様々なゲームが表示される。
その中からロールプレイングの物をチェックし、その評判まで調べたが、今一つピンとこない。
初心者を馬鹿にするような人が多いゲームは論外だし、あまり子供っぽいキャラも自分には似合わない。
2時間程探したが、満足する物が見つからずに、一旦サイトを閉じて珈琲を淹れに行く。
暫くして戻って来ると、パソコン画面に見たことのない画像が表示されていた。
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