第126話 「選考会・女子の部、2」

 競技スタート。道を一直線に走り出した、光陽高校の女子「上杉うえすぎ まお」。

 断続的にある3つの的を睨んだあと、矢筒から矢を1本抜くとつがえ、弓構えた。そのまま前進、的の直前で弓を大きく打起し―――引き分ける。


 バッシュン――――――バッシュン!


 1射、2射。それぞれ対角線上にある的を目掛け矢を放つ。矢勢のある2連射―――パァン――――――パァン!!


 リロード時間となると、足を踏み込み最短距離で前進。集中しているようなその視線は3つ目の的を睨み、矢筒から矢を一本抜く。


「35―――28―――はぁッ――」


―――バッシュン――――パァン!!


 勢いよく放たれた矢は見事に的中。桟橋を目指し、右手に矢を持ち直進していく―――つがえた。桟橋の中央付近で立ち止まると同時に大きく弓を引き分け――――鋭い離れ。


 バッシュン――――パァン!!


「コンドルのが強いです!!」


 楽しそうな表情になると、桟橋を抜け―――2名の射手の中央を突き進む。敵の弓から矢が放たれると、上杉は和弓を振るい2本の矢を弾き落とす。そのまま俊敏な動きで弦につがえ、弓構えを飛び越して大きく引き分けた――――左側を狙う―――バッシュン!

 矢を放った直後、矢筒から矢を抜くと同時に、体をひねるように向きを変え―――弓構えからの会へとなる。

 大きくそり返る和弓――――離れ!


 バッシュン――――パァンパァン!!


「よし! あとはゴールを目指します!」


 あどけなさを感じる満面の笑み。結んでいた緑色の髪をほどくと、浅い礼をした。


 ***


 上杉も最高得点。その小柄な体格から放たれた矢勢のある矢には、相変わらず驚かされる。

 タイムスコアこそ北条のが速いが、ほとんど差はない。


「ポッポッポ、力強いですねぇ〜。女子の部の中でも、トップクラスの矢勢ですね」

「そうですね。安大寺高校の代表選手にも矢勢はありましたが、上杉選手は引き尺があるのと、押手は矢に力がのってますね」


(選抜大会の時よりも速く感じた、おそらく弓力をあげたんだろう)


 カタカタカタ―――。左側から音がするので、視線を向けるとやはり眼鏡が……でもおそらく、この人もなんだかんだ魅入ってるのだろうか。そして、小さな声でこうぼやいた。


「がんばれ………がんばれぇ〜〜」


 こうして、引き続き選考会を行い、次で最後の選手となる。モニターに映し出されたその容姿は、相変わらずレンズのない眼鏡をかけ、紫色の髪をかき上げる動作。ニヤニヤしているし、やはり楽しそうだ。


 「最後は後藤先生の高校ですね。ハードルは上がってますが、彼女の身体能力なら上位に食い込むのでは?」

「ははは、まぁ結果を期待して、待つのみですね」


(正直このスコアに食い込むとすれば……)


「あの…あのぉ!」

「はい?」

「この選手、知ってます。応援……してますぅ〜」

「ええ、ありがとうございます」


 その言葉を嬉しく思いながらも、返事をしたあと、モニターを注視した。


(魅せてくるか、宇宙人パワーをな)


 あざとい女神が登場し、信号機が左から順に点灯していく。やはりこのキャラクターは右手に矢を持ち、珍味なセクシーポーズを決めてくる。


《れいでぃ〜〜・ごぉー!!》


 選考会女子の部のラスト、競技開始だ。


 ***


「さぁて、ド根性みせるニャ!!」


 競技スタートと同時に、「藤原ふじわら ひとみ」は道を左側にそれ、全速力で進みはじめた。背中にある矢筒から矢を2本抜くと、つがえず疾走――1つ目の的、その手前15メートルの位置。

 矢をつがえ、取矢の持ち方で駆けりながら弓構え―――引き分けと同時に―――離れ。


 バッシュン―――――パァン!


 次の的を視ながらつがえ、左足を踏み込み、時計回りに振りかぶるような動作――――弓構えから引き分けは大きく――――離れ!!


 バッシュン―――――パァン―――2中。


 道はそれたまま、そのまま左側を突き進む。やがて3つ目の真下へと近づく――――バシュン―――パァン!!


「ニャッハッハ! さぁて、次の的ニャ!!」


 桟橋の中央まで――――約40メートル。だがそのまま直進すれば川とぶち当たるライン。

 どういうつもりか、その足を緩める事はない。藤原は川に浮かぶ的に目を凝らす、ニヤリと笑い、桟橋の左側スレスレを走り抜ける。

 リロード時間を終え、矢を一本つがえ、親指を除く4本の指で弓構え。橋の中央―――的との距離は約28メートル。弓を引き分けるも、その引き尺で届く距離ではないはず。


 するとその場から右方向に小ジャンプ。黒い袴はゆらゆらと揺れ、藤原の体ごと矢の先が徐々に上へと向いていく―――――離れ!!


 バシュン――――――放物線を描くその矢筋。矢が到達するより先に、藤原は桟橋へと着地。立ち止まる事なく桟橋を蹴り進む――――パァン!!


「クックック!」


 ニヤニヤとしながらも桟橋を抜け、やがてリロード時間を終えた。やはり桟橋から道を左側にそれ、一本のみ矢を右手に握り持つ。

 現れた2名の射手から放たれた矢は、双方から藤原を狙う―――同時に舞う砂ぼこりが消えた。


「的確すぎだニャ―――ひっさつ技ニャあ!!」


 その姿は―――藤原が得意とする飛翔。地面に突き立てた弓を介し、その体は宙を舞う。低空を飛ぶ2本の矢よりも上へと。

 なびく紫色の髪、黒い袴――――されど、つがえたと同時に和弓はそり返る。4本の指を使った至近距離での1射。矢勢はなくとも――――パァン!!

 中てるには充分すぎる距離だ。そのまま体をねじり、矢筒から矢を抜きながら着地、同時に2人目の敵を目掛け、両足で砂地を踏み込み前進。

 対角線上に距離を積めながら―――弓を大きく引き分けた。

 親指を介して弦を引き、まるで三日月みかづきのようにしなる和弓――――狙い射る!!


 バッシュン―――――パァァン!!


 輝く霧を横目に、ゴールまで一直線で疾走する。


 ***


(ははは、やっぱり凄い身体能力だな)


 点数は最高得点の60点。あとはタイムスコア順に、選考員が決めるだろうが。


「ポッポッポ、素晴らしいですねぇ。あの桟橋での射には、驚きました」

「そうですね。立ち止まらないように射るため、ああいった射ち方もありますから」


 従来の弓道では、遠的えんてきと呼ばれる競技で使用する、1つの技法がある。それは腰から上半身のみをきり、角度をつけて射る技だ。

 本来なら立ち止まってから腰に角度をつけていくのだが、藤原は小ジャンプすることで上半身に角度をつけた。これは、事前に的の位置間隔を把握していないと、出来ない技術だと思う。さすがだ。

 

《クックック、上手くいったぞ!! 見ていたか、せんせ〜!!》


(あぁ、見ていたさ。ちゃんと出来ていたよ)


 カタカタカタ――カチャン。何かが落下したような音が鳴ったので、何事かと左側を向いた。そこには眼鏡が外れた女性の眼差し。キラキラと輝かせながら、俺の方を見ている。


「あの……私を弟子にしてください!」

「………ん?」


 コホンとした咳にハッとなったその女の先生は、恥ずかしそうに身体を縮めた。

 俺も選考員のほうに向き直ると、資料を手に持った人が今回の候補をあげ始めた。


「―――です。以上の選手の中から、今回の代表選手を決めたいと思います。なお、意見のある方は挙手をお願いします」

 


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る