第123話 フィールド「一本道」
招集場所はアリーナの1階、いつもなら広けた専用のブースへと集まるのだが、今回はその近くにある小体育館のような部屋だ。
開会式のようなものもなく、顧問と選手達はここで別々の部屋となる。
「選手と介添えの方はこちらへ。弓具は持ったまま、いったん中へとお入りください。顧問の方々はあちらの部屋へお願いします」
係の人らしき人の指示に従い、選手達と介添え達が入室していく。やはり藤原達は騒がしいのだが、まぁ良しとしよう。
「頑張れよ、みんな」
「おーし、俺達もいこーぜー」
「あぁ、そうだな」
選手達が入室していく姿を見届けたあと、俺は少し離れた部屋へと入っていく。
室内は会議室のような場所、机が置いてあり、それぞれ中央に向かい合うように椅子が並べてあった。机の上には高校名が記載された札と、大きめのモニターがそれぞれ置いてある。札を頼りに奥にある自分の席へと向かうと、隣には大柄の男が座っていた。
「お久しぶりです、後藤先生」
「お久しぶりです、山王先生。今日はよろしくお願いします」
「ええ。こちらこそお願いします」
挨拶をすませ、俺は椅子へと腰掛けた。右隣には山王さんだが、左隣の席はまだ空いていた。札を見ると、
(推薦だろうか? 名簿を確認してみるか)
手元に置いてある選手名簿を確認してみる。1枚めくると選手の人数は男女それぞれ10名程。出場高校も全部で10校程だが、推薦で来た人数が多いと思う。
(意外と推薦者が多いな。やっぱりまだ弓道FPSでのインターハイ開催日数が少ないからか。実際の試合では、そんなに目立った腕を持つ選手は少なかった気がするんだけどな)
「かなり真剣に読まれてますね。後藤先生」
「そうですね。選手の腕には興味があるし、来年の試合で争うかもしれませんしね」
「ポッポッポ、さすがですね。もう来年の事を考えてるんですね」
「ははは、まぁ〜そうですね」
資料に記載された学年と名前を確認していると、女子の部で、1人だけ学年が一年生の子をみつけた。この子……。
「あのぉ、すいませ〜ん」
「え、俺か?」
女性の声がしたので顔を上げると、左隣にはメガネをかけた女性の顧問らしき人。黒髪ロングで、少し暗めな雰囲気だ。
「えっと、なんでしょうか?」
「おとなりなのでぇ……よろしくお願いします……」
「あ、はい。よろしくお願いします」
(えらい声が小さいし、幽霊みたいな人だな……まぁいっか)
気を取り直して資料に目を向けようとしたら、ふたたび声をかけてきた。
「あのぉ?」
「はい?」
「私、弓道のことあまり知らないんですぅ……採点基準とか……わかんないんですぅ」
「あ、あぁー。無理に採点する必要はないと思いますよ。基本的に選考員の方が選手を決めますし、俺達の意見はサブみたいなもんですから」
「そうですかぁ。わからなかったらぁまたお願いします」
「え、ええ。わかりました」
(この人は詳しく弓道を知らないのに顧問をやってるタイプの人なんだな。まぁ珍しくはないか、しかしそうなると)
資料にある名簿に目をむける、この安大寺高校の選手だ。顧問が初心者なら、おそらく中学時代に弓を引いてた経験者だろうと思う。しかし選考会に推薦されるほどの腕なら、選抜大会で記憶に残るはずだが……。
(考えてもわからないか。まぁ始まるのを待つか)
*
「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。それでは只今より選考会を開始したいと思います。スケジュールは資料にそって行ないますので、よろしくお願いします」
顧問の先生方は選考員に一礼すると、パイプ椅子へと着席した。
選考は男子の部から始まり、小休憩をしたのち女子の部となる。ちなみに、記録された映像は後からでも確認出来るようになっている。
全選手の競技が終了したのち、そのまま選考会議を行ない、そのあと選手の発表が小体育館にて行なわれるのだ。
*
《弓道FPS盃、代表選手選考会のルール》
□選考会の出場資格。
過去にインターハイの出場権がある学校、もしくは地方の運営団体からの推薦があった場合のみ、選考会に参加可能である。
□弓道FPS盃の選手、選考方法。
選考会では3名の代表選手を、弓道FPSの競技を通じ、得点法により選出する。
仮想空間での競技とし、道具はスキャン式を採用する。
□具体的な選考基準
弓道FPS連盟の選考委員により候補を発表、それをもとに各学校の顧問と協議をしたのち、男女それぞれ3名を代表者とする。
・仮想空間でのレギュレーション
・感覚Lvー向上
・身体能力Lvー向上
・痛覚Lvー現実
・疲労Lvー無し
・使用する道具ースキャン式
・矢の本数ー2本
・リロード時間ー5秒
公式戦との大きな違いは、その試合中で疲労は発生しない、つまりスタミナは無限となる。ただし矢の弾数は2本で、リロード時間は短いが、矢の連射は難しいものとなる。
選考会のステージは『一本道』だ。
障害物のない、長さ150メートルの幅広い砂道。道中には的が設置されていて、それぞれ道のセンターラインから28メートル。
主に3つの区間がある。
①最初の80メートルでは断続的に3つの的があり、空中に浮遊している。道を基準に左、右、左の順だ。
②長さ20メートルの浅橋、向かって左側の水面に、ゆらゆらと浮かぶ的が1つ。
③50メートル、仮想の射手(AI)が、道の両端から矢を一本づつ射ってくる。これを的として2名。
競技開始と同時に、矢筒へ2本の矢が装填される。
そして仮想の射手の矢に痛覚は適用されず、離脱はしない。
的の的中数は合計60点。もし仮想の射手の矢に中った場合、20点の減点。
最後にゴール地点にたどり着いた時点でのタイムスコア。このスコアは点数が同点の場合、選手を決める判断材料の一つとなる。
つまりこの選考会では瞬発力、反射神経をフルに活用し、精度の高い矢を射る事が求められるのだ。
*
モニターに映し出された男子選手が、緊張した様子で待機していた。
秒読みのためだろうか、あざとい女神が登場し、信号機が左から順に点灯していく。同時に、このキャラクターは和弓を振るいながら、最後に力強くマッスルポーズを決めた。
《れいでぃ〜〜・ごぉー!!》
選考会男子の部、競技開始だ。
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