新しい弓具を揃えて

第103話

 インターハイから帰ってきたあと、溜まった仕事をこなすため、職員室で机に向かい書類を広げていた。


 ノートパソコンを持って行ってたとはいえ、やはり学校でなければ出来ない仕事もある。

 まだ8月の中旬頃であり、学校は夏休み中であるのだが、他の教員達も通常通り出勤している。


 仕事をしていると、山田先生が俺宛の郵便物が届いたと言うので、俺はそれを受けとった。

 その封筒を手渡すなり、ウキウキとしながら話かけてくる。不気味である。


「後藤先生宛の郵便物です。それにしても……インターハイの試合を見てたんですが、なかなか楽しいものですね。他の先生達も、皆応援してましたよ? あまりに白熱しちゃって……フヒヒィ」


(フヒヒって……このおっさんの見た目でそれは酷いな。やっぱこの人、山太郎にしよう)


 俺は山太郎先生と軽く世間話しをしたのち、机へと向き直る。受けとった郵便物を見るなり、その主催者を確認すると『FPS弓道連盟』と書かれていた。


 どうやら日高の言うように、非公式団体のようだ。封筒の中身を取り出し、その書類に目を通す。


『弓道FPS盃』の選考会は10月上旬。そこから選手の選考を行い、選ばれた選手により強化練習が始まる。

 年明けに地方戦を行い、そのまま全国戦を行うと書かれていて、その詳細は選手のエントリー後に連絡があるらしい。


 夏のインターハイなら、この試合は冬のインターハイのようなものだろう。それにしても。


「なんか変わった絵が描いてんな……非公式だからといっても、もうちょいなんかあるだろうに」


 書類の下のほうに美少女風の絵が描かれているのだが、女神みたいなキャラクターが弓と矢を持ち、あざといポーズをしている。

 この女性は、何かの神話に出てくる奴だろうか?それにしても謎である。

 書類をバックにしまうと、弓道FPS盃に出場する高校について考えてみる。


 今回インターハイの優勝校は、氷室絢先生が顧問をする「桃山高校」その学校は九州地方にあるため、地方戦を勝ち抜いた場合、全国戦で戦う可能性はある。


 日高が顧問を務める「鈴ケ丘高校」は関西地方。

 ただ、県から選抜される選手に選ばれなければ、そもそも出会う事すらないのだが。


 県内には本城が顧問をしている「光陽高校」武田が顧問をする「二ノ宮高校」もある。

 県内で選ばれるにしてもその人数は3名のみ。選考会までの期間は「約2か月」だ。

 正直、選ばれる可能性があるのは、藤原のみであると考えている。


 秋には学校行事である文化祭も控え、ちょうどその準備にも追われている時期でもある。

 さすがに2か月程では、練習する『斜面打起し』の練度も低いだろう。

 それもあるし、妖狐も神社の『祭り事』に向け、チラホラ部活を抜ける予定だ。

 まぁ、今考えたところで、皮算用かもしれない。


「そういえば、日高が言っていたもう一人の顧問がいたな……あ〜誰だか忘れたな。まあいいや」


 今週の土日までには終わらしたいので、集中してキーボードを叩いてゆく。


〈カタカタ―カタカタ――〉


「フヒヒィ……フヒヒ」


(集中!! 集中!!) 

 


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