第85話 史上最低の目覚まし
——インターハイ前日
部員達を乗せた白いバンを運転し、俺はのんびりと高速道路を走らせていた。
現在インターハイの開催地へと向かっている。
その距離の合計は350km程、渋滞が無くても、半日程度はかかるだろう。
真弓高校を朝早く出発し、現在昼頃となるので、そろそろ昼食にしようかと考えている。
それにしても。
「ららら〜〜♪ らら〜〜ららぁ~♪ ってな!!」
「まぁ、お上手ですわね~〜榊󠄀原先輩は、歌がお上手ですわ〜〜」
「のうのう!! 次はこれを歌ってほしいのじゃ!!」
「はーい、それなら私が歌うぞ。聞き惚れるなよ? クックックッ!!」
(朝からうるせぇ。緊張感ねぇな)
後部座席には4人の問題児達。
朝からずっと謎の歌を歌っている。
ちなみに、珍しく矢野が助手席に座っているのだが、その理由がよく分かる。
それに、車のナビの画面を見ては、どっち方面に行くかをナビゲーションしてくれているので、俺はかなり助かっている。
「ゲ、ゲ、ゲゲゲゲゲ〜〜♪ ゲロゲロぴぃ♪」
(くそ、聞くな!! ハンドルを握れ!! 前を見ろ!!)
榊󠄀原の歌はともかく、藤原の歌は人類を超越した歌声で、俺を交通事故へと誘うパワーがある。
はっきり言って、歌ってほしくない。
「もう少しでサービスエリアね。昼食でしょ?」
「ああ、じゃあこのまま分岐を―――」
車の速度を落としながら、矢野の案内に従い分岐先を左に入っていく。
少し大きめなサービスエリアの駐車場へと車を停めると、サイドブレーキを引いた。
「よし、各自昼食だ。1時間程休憩しよう」
スイッチを操作し、後部座席のドアを開けた。
待っていましたと言わんばかりに、次々と車から降りて、サービスエリア内の飲食コーナーへと向かっていく。
「なんじゃ? お主は行かぬのか?」
「……後で行く」
「そうか、ならば待っておるぞ」
「持たなくていいよ、こっちはこっちで食べるから」
「なんじゃ、つまらぬの〜〜」
そう言って、巫女服姿の妖怪が降りるなり、入口前で待つ、複数体の魔物と合流する。
俺はその魔物が建物の中に入っていく光景を見届けてから、車を降りる。
依然座ったままの矢野に声をかけた。
「飯、どうすんだ?」
「………何か買ってきてほしい」
「分かった、じゃあ行ってくる」
(体調が悪そうだな、仕方ない)
矢野から五百円玉を貰うと、エンジンをかけたままその場を離れた。
サービスエリアの飲食店に隣接されたコンビニへと向うと、適当に買ってから一旦車に戻る。矢野にコンビニ袋を渡してから、俺は建物から離れた喫煙スペースへと向かった。
「大丈夫かな?」
タバコを咥えるなり、サービスエリア内にある建物を観る。
ここからは中の様子は見えないが、色々と不安になってしまう。
榊󠄀原はともかく、残りの3人は危険な服装をしているのが、不安になる理由だ。
(まぁ、妹尾の使用人も来ているし。騒ぎにはならんだろう)
チャージを完了し、ひとまず車に戻った俺は運転席へと座る。
コンビニ袋から買ってきたパンを取り出し、お昼ご飯とする。
矢野は食べ終えたのか、スマホをいじっていた。
(俺も少し休むか)
パンを食べ終え、背もたれに深く身体を預ける。特に何も考えず、俺は目をつむった。
しばらくして。
「いまぁ〜〜わたしのぉ~せなぁ〜かにわ〜♪」
「まんじゅ〜♪ まんじゅう〜♪ だぁ〜んごぉ~♪」
「カーエールのぉ~♪ うたぁ~♪ ゲロぉゲロぉピィ〜プッ♪」
(はぁ……不協和音すぎんだろ)
俺は史上最低の目覚ましにより、目を覚ました。
とりあえず皆戻ってきているようだが、ひとまず、矢野の方を向いてみた。
そこには、スマホにイヤホンを差し、音楽を聞いている矢野の姿があった。
「イヤホンしてんのね……」
俺は一応点呼をとったのち、再び車を走らせた。
交通事故に遭わなかったのは、幸いだと思っている。
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